自由の身と
「うぅん……」
「えーと、何処に……あったであります!」
気絶したサディコから鍵を奪ったリコはそのまま身体を漁って首輪の鍵を見つけ出す。そのまま立ち上がれず悶える"戦顎竜"の首に飛び乗る。
「なっ、おい待て!」
何をする気か気付いたセリューが止めようとするもリコは構わず首輪を外した。
魔恐竜は動く首を左右に振り、首輪がなくなったことを確認する。更にリコはファミリーに言って身体中に巻きつけたロープも解いてやった。
「お前はもう自由であります。これからはこんな首輪なんかに支配されずに自由に生きるであります」
リコの言葉を理解したのか、口を開け近づくと
≪グオォォンッ♪≫
嬉しそうに舌で舐めた。
「うわっ、くすぐったいであります。まったくも……ゔぇっ、く、くさい!! 臭いであります、目にしみるでありますぅぅぅーーッ!!?」
≪グオッ!?≫
≪うきー! うきーー!≫
慌てて周囲のミラニューロテナガザル達がリコに水を掛ける。
「……馬鹿な、あんな魔恐竜が懐くだなんて……」
セリューは唖然とした顔で呟く。
これはリコが偏見を持たず"戦顎竜"に接し、その心が届いたから出来た事であった。
セリューは水で涎を拭き取ったリコに近づく。
「何故解放したの? そのまま襲いかかられるとは思わなかったのか? あのまま首輪をつけておく方が合理的でしょうに」
「そんな訳ないであります。あのカッコいい魔恐竜は首輪によって無理矢理操られていただけであります。自由じゃないであります」
「自由」
その言葉にセリューは過去の記憶が過った。
彼女は奴隷船によって、此処に連れてこられた。
命からがら逃げ出し、裏町に住み着いたが飢えで死に掛けたところをパルダガスに拾われた。
"戦顎竜"を見上げる。
コイツも遠い地から人の都合で連れて来られた。そう思うとリコの言ったこともわかる気がした。
「……でも、どうするんだ? こんだけのサイズの魔恐竜なんてこんな所じゃ生きていけない。野に放つにしても、すぐに討伐されるのがオチだ」
「あっ」
考えてなかったとリコは口を開く。
その様子に呆れた目を浮かべる。
「まさか何も考えていなかったとは……」
「い、いやその……。そうであります! だ、だったら元いた場所に戻すとか」
「どうやって? 場所がわかるのか? そもそもそこに行くまでの船はどうするつもり?」
「そ、それはせんちょーに相談して《いるかさん号》に」
「あれだけの恐魔竜が乗れる程、貴方達の船は大きいのか? 餌だってどうするつもりなんだ?」
「う、うぅ……! うぁあぁぁ、頭がこんがらがってきたであります!!」
周りのミラニューロテナガザル達も同じように頭を抱える。同じように"戦顎竜も項垂れる。先程までの凶暴さは微塵もない。
だからだろうか、ついセリューも情けをかけた。
「しょうがない。私が父う……ボスにどうにかできないか話してみる。幸いコイツは頭が良い。番犬……じゃなかった。番竜としてなら許してくれるかもしれない。食費も……まぁ、なんとかする。少なくとも奴のようには扱わないことを約束しよう」
「おぉ、本当でありますか!? 案外良い奴でありますな!」
「なっ、抱きつくのはやめなさい! ちょっ、お前も舐めてくるな! ひゃっ、くすぐったいっ」
≪ぐるぅ≫
「ちょっ、くさ!?」
リコがそうされたようにセリューも舐められた。
無論、身体中が臭くなった。
タオルで身体を拭きながらセリューは本題を尋ねた。
「それで貴方達の攫われた仲間の所在についてはわかったの?」
「はっ! そうでありました!」
急いでサディコの前に戻るリコ。
軽くペチペチとラクガキだらけの頬を叩いて起こす。
「う、うぅ〜ん。はっ! この、汚らしい小娘! 良くもやってくれたわね!」
「尋ねたいことがあるであります。オリビア殿は何処でありますか?」
「はっ、わたくしが喋るとでも」
「さるまわ、さるし、そのままグルグル回してやるであります」
≪≪うきき〜!≫≫
「きゃあぁぁあぁっ!!?」
二匹の猿が凄まじい勢いで吊るされたサディコを回す。
「や〜め〜てぇ〜! 目が回るぅ〜! し、知らない知らない! モンティーズがその後持っていったからあの女の事なんて知らないのよぉ〜!!」
やがて吐いた内容は、サディコ自身は知らないという事であった。
今度は物理的に吐いたサディコをとりあえずは宙吊りから降ろし、悩む。
「むむむっ、てづまりであります……」
「《サルヴァトーレ》の首長・モンティーズは慎重な男だ。流石のお気に入りの愛人にも情報を漏らさなかったようだな」
「オリビア殿の位置がもうわからないであります」
「……いや、もしかしたらもう助けられている可能性があるぞ」
「ど、どういうことでありますか!?」
「この街で腕の立つ情報屋がいてな。そいつの情報から監禁場所らしき所はわかっている。それで先生とあと白髪の女が先に助けに行ったはずなんだが」
「それってししょーとビアンカ殿でありますか!?」
「きゃっ、近い! ……いや、違っ、近いぞお前!!」
ずいっと顔を近づけてきたリコを、可愛らしい悲鳴をあげてしまったセリューが誤魔化すようにグイグイと頭を抑える。
≪うき≫
「お? さるえじゃないでありますか! どうしたでありますか?」
その時、丁度良くリリアンの元に置いてきたミラニューロテナガザルの一匹、さるえが現れてリコに耳打ちした。
「む、本当でありますか!?」
≪うき≫
「どうした?」
「先ほど日が落ちる直前に空を飛んでいったビアンカ殿と抱えられたオリビア殿を見たそうであります! これにてみっそんこんくりーとであります!」
「みっそんこんくりーと……?」
妙な言葉にセリューは首をかしげるも喜ぶリコは気付かない。
「なら後はせんちょーと合流するだけであります! さっさと此処からはおさらばするであります!!」
「ん? 貴方達の船長一人で行動しているのか?」
「そうであります。せんちょーはすっごい強いでありますから」
胸を張るリコ。
その言葉にセリューは難しそうな顔をする。
「《サルヴァトーレ》は強大だ。如何にお前達が強くとも一人では危険だぞ。|"戦顎竜"《こいつ》みたいに何かしら奥の手がある可能性がある。急いで向かった方が良い」
「大丈夫であります、せんちょーなら絶対に勝つであります!」
自信満々にリコは胸を張った。
だって、コロンは自分達の船長なのだ。誰にも負けない。そう信じていた。
リコの訪れた所よりも立派な闘技場とでも言うべき場所では、激戦の後があった。
観客席までコロンは吹き飛ばされ、仰向けに倒れていた。
「力無き言葉など何の意味もなさんよ。弱き者よ」
巨大な二対の巨大な殴打武器、腕杭甲を持つ牙豚族が佇んでいた。
コロンの身に起きた出来事とは!? 待て、次回!
続きが気になると思った方は是非ともブクマと評価の方をお願いします!
コロン達の航海を完遂させるには皆様の力が必要です。是非とも船員として力を貸してください。
よろしくお願いします!
作者の他作品「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」と「
【連載版】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した」もよろしくお願いします。




