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チームワーク


 おばさん呼ばわりされたサディコは憤慨するも、すぐに嗜虐に満ちた顔を浮かべる。


「はっ、意気込んだ所で貴方達が勝てる訳がないわ! ほら、さっさと立ってあの生意気な下等生物を食ってやりなさい!」

≪グ、グギャァアァァオォォォッ!!≫


 魔法具の鎖の影響で無理矢理使役された魔恐竜が咆哮し、そのまま向かってくる。"俊走竜(ヴァロニクス)"よりは遅いがその巨軀が迫って来る様は実際よりも早く早く感じるほどだった。


「散開であります!」


 一斉にバラけるリコとミラニューロテナガザル。

 尾を警戒して当たらない位置でチラチラと視界に隅に入ったミラニューロテナガザル達が"戦顎竜(ティラゴサウルス)"を煽る。当然怒る"戦顎竜(ティラゴサウルス)"。その隙にリコは動いた。


「さるご、さるべえ、黒毛、腹白、行くでありますよ!」

≪≪≪≪うきぃ、うきぃきぃ!≫≫≫≫


 ミラニューロテナガザルに呼びかけ、リコは"戦顎竜ティラゴサウルス"の足元に潜り込むと腕から沢山のロープを外に向かって放った。

 それを先程呼ばれたミラニューロテナガザル達が受け取り、一斉に"戦顎竜ティラゴサウルス"の脚にロープを巻きつけた。


「そぉーれ、引っ張ってこけさせるであります!」

≪≪≪うーき、うーき、うーき≫≫≫


 直ぐに足元から脱出し、伸ばされたロープを声に合わせて引っ張る。他のミラニューロテナガザル達も加勢していた。リコ達はこのまま転ばせようと考えたのだ。だが


≪グギャオォォォッ!≫


 "戦顎竜ティラゴサウルス"はその場で一気に跳躍し、そのまま再度力のあらん限り脚に力を入れて着地した。

 一気に地面へとヒビが入り、陥没と隆起が起こる。


「うわぁあぁっ!? そんなの聞いてないでありますぅぅ!!」

≪うきゃきゃー!?≫


 最初に飛び上がった際にリコ達も宙に飛ばされた。そこに隆起した地面が襲いかかる。多くのミラニューロテナガザルが負傷する。


「み、みんな……」


 悲痛に満ちた声でファミリーを見つめるリコ。そこに巨大な影がかかる。


「あっはっは! そのまま齧られちゃいなさい!」

≪グオォォォオォォッ!≫

「しまっ」


 地面ごとリコを齧り砕こうと巨大な顎が迫る。

 体躯が違いすぎる。こんなのを食らえばリコはただですまない。だが回避も間に合わない。


「ふんっ!」


 諦めかけたその時、リコの前に現れた若い女性が巨大な顎を、顎下に攻撃する事で微かにズラし、的外れなところを"戦顎竜ティラゴサウルス"は抉り取った。

 その隙にリコを抱えてその場から離れる。


「色んな魔獣を仕入れているとは聞いていたがこんなのまで……なんて奴だ。このような魔恐竜を輸入するとは。この街を破壊するつもりか」


 現れたのはセリューであった。

 セリューは警戒した目で地面から顎を抜いた"戦顎竜ティラゴサウルス"を見据える。リコは助かった事にポカンとしていたが、正気を取り戻す。


「だ、誰でありますか!?」

「私は先生……あ、これじゃ伝わらなかった。んんっ、エンリケ先生に恩ある者の一人だ! 加勢する!」

「ししょーの知り合いでありますか!?」

「ちょっ、近い!」


 態々咳払いして凛々しい表情を浮かべるセリュー。

 セリューは片手で迫るリコを抑え、ククリ刀を構えつつ、共に来た部下に命じる。


「傷を負った猿は下がらせろ!! 先生の乗る船の大事な猿だ!! 死なせたら恥だと思え!!」

「「イエス、マム」」


 その言葉とともに《ボンターテ》の構成員達が傷ついたミラニューロテナガザルを救護する。

 それに憤るのはサディコであった。


「何よ何よ!? 《ボンターテ》の奴等が入り込むなんて外の奴らは何をしていたのよ!」

「奴らは妙なボウガンを扱う女によって壊滅状態だ。おかげで容易く入り込めた」

(リリアン殿であります!)


 ボウガンがリリーの銃を指している事はアホなリコでもすぐわかった。

 どうやら完璧に自らの役目を果たしているらしい。なら自分もそうしなければ。リコにやる気が漲る。


「ふふん、まぁ良いわ。どれだけ数増えようともこの"戦顎竜(ティラゴサウルス)"に敵うはずなんてないのだから」

≪グギャオォォォンッ!≫

「ぐぬぬ、であります」


 とは言え状況は宜しくない。

 サディコの言う通り、エンリケの知り合いだという救援はきたがそれでもリコにはあの"戦顎竜(ティラゴサウルス)"を倒せるビジョンが沸かなかった。

 しかしサディコの言葉をセリューは鼻で笑った。


「確かに強力な魔恐竜だ。だが所詮は生物。弱点はある」

「ほ、本当でありますか!?」

「そうだ。確かリコと言ったか? 奴のような竜種は"俊走竜(ヴァロニクス)"と同じで尻尾を何かで繋いで固定するか、切り落とせばバランスが取れなくなって走る事が出来なくなる!」


 魔恐竜に共通する特徴として尾が長い事がある。これは巨大な身体のバランスを保つ為に長く発達したのであって、これを失うとバランス感覚を失い長く生きられないことをこの港街に住むセリューは"俊走竜ヴァロニクス"を見て知っていた。


「本当でありますか!? みんな! 今の聞いたでありますか!? 勝機はあるであります!」

≪≪≪うききー!≫≫≫

「余計な事を! さっさと仕留めなさい!」


 サディコは指令を出し、"戦顎竜(ティラゴサウルス)"が動き出す。

 リコとセリューは連携してリコ達が囮となった隙にセリューが自慢のククリ刀で尾を攻撃する。しかし、微かに鱗に傷つくだけで斬り落とすには及ばない。


「ちっ! とはいえ、あの尾を切り落とすのも、何かで抑えるのも難しいなッ!」


 セリューは舌打ちする。リコはあまり賢くない頭で一生懸命考えていた。


(何とかしないと何とかしないと、このままじゃオリビア殿を助けるどころかリコ達が死んでしまうであります。でも、でも、どうしたらよいでありますか。うぅ、リコは考えるのが苦手でありますぅー!)


 その時。リコの視界にあるものが映った。

 それを見た時、リコの頭にあることが閃いた。


「さるた、さるみ! 行くでありますよ!」

≪うき!≫

≪うきき≫


 二匹のミラニューロテナガザルが手を組む。リコはそこに足をかけ高く跳躍する。


「何をする気だッ!?」


 突然飛んだリコの意図が掴めないセリューが驚愕する。


「リコの奥義! "蜘蛛の巣網取り"であります!」


 リコは持っているロープ全てを使って網目を幾多を結んだロープの網を"戦顎竜(ティラゴサウルス)"に向かって放った。


「はっ! そんな攻撃力もない、鉄の網でもないたかがロープに何が出来るのよ!」

≪グギャオォォンッ!!≫


 サディコの言う通り、"戦顎竜(ティラゴサウルス)"は容易くロープを噛み切った。そのままの跳躍でリコに迫る。リコは空中で避け場などない。


 やがて、そのまま巨大な顎が閉じられた。

 サディコは笑みを浮かべる。が、 "戦顎竜(ティラゴサウルス)"の口から一滴も血が流れていない。


「みんな、助かったであります」

≪うききー!≫


 リコは天井から垂れ下がるミラニューロテナガザルによって助けられていた。

 戦闘の最中、何匹かのミラニューロテナガザルが隠れて天井へと移動していた。そして、数多のロープを繋いで足場を作っていた。


 何匹も繋がり、大きな橋となったミラニューロテナガザルがリコの手を掴んだのだ。リコは視線をサディコに向ける。


「あそこに投げて欲しいであります!」

≪ウッキィ!≫

「ちょっ、こっち来ないでよ!」


 遠心力によって助走をつけられ、投げ飛ばされたリコがサディコに接近する。

 サディコは慌てて逃げ出そうとする。


「この駄竜! 何とかしなさい!」

≪グゥゥ、グオゥッ!?≫


 命令により、無理矢理身体を起こしてリコへと向かう"戦顎竜(ティラゴサウルス)"。

 だがその時、他のミラニューロテナガザルが"戦顎竜(ティラゴサウルス)"が上を向いてる際に脚にロープではなく鎖を括り付けた。その状態で脚にサディコの命令に従い向かおうとせいでコケた。その隙に沢山のミラニューロテナガザルが飛び移る。


「そのまま尻尾を抑えておけ! そうすれば奴は立てない!!」

≪うききぃーッッ!!≫


 柱や檻などあらゆる所にロープを繋げた束を尻尾へと巻きつけ、その場から動かさないようにする。"戦顎竜(ティラゴサウルス)"はそれでも力の限り立ち上がろうとする。


「馬鹿っ!? この場所が崩れたらどうするのよ!? 手で起き上がりなさいよ!」

≪グゥゥオォォォ……≫


 サディコの所為でまたも電流が流れる。

 しかし"戦顎竜(ティラゴサウルス)"は立てなかった。その巨軀とは対照的に手は小さかった。態勢を戻すことが出来ず悶える。


 やがてサディコにリコが迫る。


「く、来るんじゃないわ!」


 追い込まれたサディコは手に持つ鞭を振るった。

 運悪くリコはそれに当たった。


「やった! って、え!?」

「この程度なんともない! で、あります!」


 頭から血を流しながらもリコはそのままサディコに迫る。

 気迫すら感じるその姿にサディコが及び腰になった。


「く、来るなっ」

「サディコ様!」

「お下がりを!!」


 控えていた配下の二人が一斉にそれぞれの得物をリコに突き刺した。


「よくやったわ!」


 褒め称えるサディコ。

 だが次の瞬間護衛達が倒れた。何が起こったかわからない。だが、リコが護衛達の武器を持っていた事で何が起きたか気付いた。


「な、なんでアンタ素手で剣を止められるのよ!?」


 リコは素手で剣の腹を受け止め、護衛を倒したのだ。


 サディコは知らないがそれはリコの育った環境が理由だった。

 リコはミラニューロテナガザルの群れに育てられた。魔猿の一種でもあるミラニューロテナガザルは指の力が凄まじく強い。その強さ、何と200キロである。


 無論、人間であるリコがミラニューロテナガザルと同等の握力を持つなど不可能だがそれでも常人からすれば恐ろしい程に強い指の力をリコは得た。

 日頃から木にぶら下がったり、硬いヤシの実などを素手で割ってきた賜物だ。


 幼いリコはその特殊な環境ゆえか身体は小さいが筋肉密度は高く、指の力は強い歪な変化を生んでいた。


 リコがサディコに迫る。


「必殺超束縛の術! であります!」

「きゃあっ!!?」


 あっという間に束縛されるサディコ。

 更には天井にいるミラニューロテナガザルがリコのロープを引っ張り逆さまに浮かされる。


「獲ったどぉーッ!! であります!!!」

「は、はなしなさいよ! この野蛮人!!!」


 リコが拳を空高く突き上げる。

 ミラニューロテナガザル達も皆一様に嬉しそうにしながら真似をした。


「くっ、ちょっと! 駄竜! 何とかしなさい!」

「無駄だ。既にあの竜の身体は拘束された立つ事すらままならない」

≪グオォォッッ……≫


 セリューが側にやって来る。

 "戦顎竜ティラゴサウルス"は地面に釘を打ったロープによって身体中を拘束されていた。悔しげに唸る声が聞こえる。

 サディコはここに来て自らの命運が落ちたのに気付いた。しかしそれでもサディコにはモンティーズがいる。だから余裕な態度を崩さない。


「さて! 洗いざらい吐いてもらうであります!」

「はっ、アンタなんかに話す筈がないでしょう? 小汚い娘!」

「むむむ。手荒い真似はしたくなかったでありますが、こーなったら、もう拷問しかないであります……」

「な、何をする気よ!? 私に傷をつけたらモンティーズが許さないわよ!」

「傷はつけないでありますよ。みんな、用意は良いでありますか!?」


 ミラニューロテナガザルが頷く。その手に持たれているのは墨のついた筆であった。ぐへへと、顔をにやけながら近づいて来る。


「え、ちょっ、ちょっとやめなさい! ワタクシの美貌は世界の宝! そんなものに落書きなんて低俗な事許されるとでも!? やめなさい、やめっ、やめてぇー!! 」

「……何してるんだあいつら」


 それは所謂ラクガキを描くといったものであった。


 悲痛な声をあげるサディコ。

 セリューはその様子を何とも言えない表情で見つめていた。



見事戦顎竜を倒したリコ達。

続きが気になると思った方は是非ともブクマと評価の方をお願いします!

コロン達の航海を完遂させるには皆様の力が必要です。是非とも船員として力を貸してください。

よろしくお願いします!


作者の他作品「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」と「

【連載版】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した」もよろしくお願いします。

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