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街を回ろう

港湾都市サンターニュの参照bgm↓

「ペーパーマリオRPG ゴロツキタウン」

興味があれば是非。


「おぉ……おぉ……! おぉおぉぉぉぉぉ!!!」


 コロンが目をキラキラさせて叫ぶ。

 身体をわなわなと震わせ、感動を全身で表していた。


 見渡すばかりに人、人、人。

 数多く建ち並ぶ異国情緒あふれる建築物。

 見たことのない種族の人間に、停泊する数多の巨大な船。


 そのどれもがコロンの心を刺激する。


「すごい! すごぉぉぉぉぉいぞぉ!! 見たことない建物! 嗅いだことない臭い! 感じたことのない空気! どれもこれも初めてだ!! 私は!! ついに《未知の領域》の足かがりを踏み出したのだな!! ぬぁーはっハッー! 私の冒険は今ここから新たに一歩を刻むのだ!!」

やかましい」

「あいたぁっ!? 何をするキケ!」

「騒ぐのならもう少し声の音量を下げろ。見ろ、周りの注目を集めている」


 エンリケのゲンコツに、コロンは初めて自身が周囲から注目を集めていることに気付いた。中にはこちらを指差して笑っている者もいる。


「ぬ、ぐ……。わ、わかった私が悪かった。だが、ゲンコツすることはないじゃないか! キケのゲンコツはなんだか痛い(・・)のだ!」

「まぁまぁ、エンリケさん。コロちゃんも反省してますからぁ。それに、コロちゃんの夢の一歩なんですから少しは大目に見てあげてください、ね?」

「……まぁ、そうかもしれんが。もう少し慎みを持つことだな」

「まぁ、確かにコロちゃんは女の子らしさが足りませんけどぉ」

「オリビア! 庇うのか、そうじゃないのかどっちかにしてくれ! 身体と心、両方が痛いぞ!」


 若干半泣きになるコロン。

 その隣ではリコ達が港湾都市の街並みを見て感嘆していた。


「はぇー、すっごいであります。見たことないものばかりであります! これがせんちょーもリリアン殿も言っていた世界一周に向けて、最初に目指した所でありますか!」

「……ぜ、ぜんぶ、おっきい……ね……」

「そうよ。《サンターニュ》は《未知の領域》に行く為に避けては通れない場所だからね。コローネ程じゃないけど私も改めて昂揚しているわ」

「確かに、船長の言うこともわかるけどね。ボクも心が踊っているよ。色んな港湾都市をこの船に乗る前にも旅してきたけど、その中でも一番だ。出来るならすぐに曲を奏でたいくらいに」

「ふむ、成る程な。確かにこれだけ異国からの物が集まる港湾都市ならば、優れた武器も見つかりそうだ。それに、中々大物はいないが小粒の強さの者もチラホラといる」


 程度の差はあれ、《いるかさん号》船員は皆、《サンターニュ》の港湾都市の街並みに圧倒されていた。

 それを見たコロンが水を得た魚のように勢いを取り戻す。


「ほれみろ! みんな港湾都市を見てテンションが上がっている私だけじゃないぞ!」

「確かに思ったよりもぉ、綺麗な所ですねぇ。海賊もいるにしては《港湾都市トロイ》と比べて活気があります」

「オリビアの言う通りね。《サンターニュ》は《未知の領域》への玄関口だから海賊も多く訪れる筈なんだけど……怒鳴り声とか抗争の音は聞こえないわね。アリアは?」

「うん。ボクの聴覚でも戦闘音とかは聞こえないよ」

「自分も、そういった空気は全くないな」


 《奏唄人(ハーモミューズ)》のアリアと一流の戦士のビアンカが共に否定する。


「そう……理由はわからないけど、それなら血みどろの現場を見る心配はなさそうね。ティノもいる事だし」

「ぁぅ。ご、ごめん……なさい」

「あぁ、違うのよっ。別に邪魔とかじゃなくて、そんな場面幼子に見せるにはいかないじゃない」

「ティノは血なら、ミラニューロテナガザルの傷跡とか見ているぞ。お前の心配は杞憂だろう」

「うっさい、ヤブ医者! 人とサルじゃ違うでしょ!」

「あー! 今、リリアン殿ふぁみり〜達と人を差別したであります! リコは抗議するであります!」

「あぁっ、待ってよ、そんなつもりじゃっ」

「……ヤブ医者? 俺が? 否定も肯定もせんが……」

「どうでも良いから、早速港湾都市の街並みを見て行くぞ! みなのもの! このC・コロンに続くのだ! ぬぁーはっハッー!!」


 コロンが駆け出す。

 面々はそれを見て慌てて追いかけるのであった。








「いやぁー! 色々と回ったが初めて見るものばかりだな! うむ! 楽しいぞ!」

「やはり色んな国の物も集まりだけあって見慣れないものが多かったね。ボクも異国の楽器に触れられる良い機会になったよ」

「武器の方は、どうしてこうなったというゲテモノも多かったがな。やはり自分には曲刀(ショーテル)が合う」


 ご機嫌なコロンを筆頭にそれぞれが《サンターニュ》の港湾都市を回っての感想を言いあう。


 総じて満足度が高い結果ではあった。


 リリアンは楽しそうなコロンの様子、満足げな面々を見て優しげに微笑むと話しかける。


「所でコローネ。これからの事だけど、一通り港湾都市は見たから皆の引率を任せて良いかしら?」

「お? リリーは何処に行くのだ?」

「私は今から港の水夫に聞いた《いるかさん号》を修理出来る大工が居るところを訪れる事にするわ。コローネ達にはその間もっと自由に港湾都市を見て回るのと、出来れば《未知の領域》の海図やその先の島とかについて情報を集めて欲しいの。勿論、お金が必要な時は後から私に教えて。一緒に行くから」

「おぉ、わかった! 適材適所という奴だな! ならばこのC・コロンに任せておけ! たっくさんの情報を集めてやろう。大船に乗ったつもりでいろ! 早速行くぞリコ! 向こうで良い匂いのする肉があった! 先ずはその情報と味を確かめてからだ!」

「了解であります! ここにあるものぜぇーんぶ食べ歩くであります!」

「二人ともぉ、あんまり走ると怪我しますよぉ。もう。……それじゃあ、リリアンさん。また後で。行きましょう、ティノちゃん」

「う、うん……」


 頭を下げるオリビアに習ってティノもぺこりと頭を下げる。そのままコロン達を追っていた。勿論、ビアンカとアリアもそれについて行く。


「……あれは良いのか」

「大丈夫よ。コローネに任せておけば」


 情報を集めてと頼まれたのに、一直線に肉に向かうコロンは心配になるが、リリアンの表情を見るに何時ものことらしい。それでいて結果は出すのだから、問題ないのだろう。


 駆け抜けるコロン達を追わねば見失いそうだ。


 エンリケも後に続こうとする。

 だが、歩こうとするとリリアンがエンリケのコートの裾を掴んで止める。


「ちょっと待ちなさい。アンタは私に着いてきて」

「何?」


 呼び止められたエンリケは怪訝な表情を浮かべる。リリアンはわかってなさそうな様子にこれ見よがしに溜息を吐く。それにイラッとするエンリケ。


「良い事? 私は《いるかさん号》を見てもらう為にこれから数多ある修理屋の大工達と交渉するわ」

「そうだろうな。それで俺がいる意味は?」

「わからないの? 何って脅しよ。脅し。私だけだと女だって舐められるじゃない。コローネでも良いけど、あの子すぐ手が出ちゃうから。ビアンカもみんなを守っといて貰いたいし。他は論外、だから普段から眉を潜めて不機嫌そうな顔をしているアンタが適任なの。わかった?」


 づけづけと言うリリアンに眉をひそめるも、内容は納得出来る。確かにリリアンだけだと足元を見られる可能性もある。

 それに愛想の悪さと顔つきの悪さも自覚している。


「それにこんな男だらけの場所にか弱い乙女を一人にする気かしら? 良心が痛まないの?」

「……か弱い? お前が? まぁ、《幻島》のお前は子羊のようではあったな」

「ちょっとぉ!? 今それを言わなくてもいいでしょ!? 離れてるとは言えアリアに聞かれたらどうするのよ!?」

「別に良いだろう。人間弱みがあるほうがよっぽど健全だ」

「プライドの問題なのよ!」


 きぃーと顔を赤くして怒るリリアンを見て、多少溜飲を下げたエンリケは、溜息を吐きつつ頷く。


「仕方あるまい。俺も色々と見たい所があったが、後日に持ち越すとしよう。代わりに精々お前の交渉術でも見せてもらうとしよう」

「ふふん、見てなさい。今まで《いるかさん号》を経営してきた辣腕(らつわん)を見せてあげるわ。値切って値切って値切り尽くしてやるわ」

「……精々恨みを買って、船を乱雑に見られん程度にな」


 そう言ってコロン達とは反対方向の海側に向けて歩き出すエンリケとリリアン。





「……随分と、仲が良さげになったな」

「白翼? どうしたんだい?」

「いや、何も」


 その様子をビアンカが睨むように見つめていた。

 そう? とアリアは首を傾げつつ、先に進む。


 ビアンカは人混みに消える背をジッと睨みつづけた。

 リリアンではなく、エンリケを。

 

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