航海は続く
夜の帳が下り、辺りが暗闇の中、港町は歓声と明かりに満ちていた。
普段は既に就寝している時間であるにも関わらず、大人子供関係なく誰もが起き、町中に並ぶ料理を食べ、時折涙を浮かべていた。
これまでの夜は不安に満ちていた。誰もが目をつけられないように灯りを消し、遠くに見える酒場にいる海賊たちの灯す明かりと嗤い声に怯える日々。
いつ奴らの気まぐれで殺されるのか。
いつ奴らの遊びのせいで家族を攫われるのか。
誰もが身を寄せあって息を潜める辛い毎日。
それが今日無くなったのだ。全ては彼女らのおかげだ。
「ぬぁーはっハッー! どれもこれも美味しいな!」
「パイオニア様、こちらもお召し上がりください。丸海老を贅沢に蒸し焼きした一品です」
「どれどれ……おぉ、プリッとして歯ごたえのある感触だな。うむ美味い!」
「海賊のお姉ちゃん、ありがとう! これ、貝殻のネックレス。一生懸命作ったの、受け取って」
「おぉ、ありがとう。大切にするぞ」
「本当にありがとうございました。なんてお礼を言ったらいいか」
「気にするな。私がしたかっただけだからな! 」
この港町の救世主、コロン・パイオニア。彼女の周りには人が集まっていた。
その後もお礼に来る人々と話しているとリリアンが近寄ってきた。
「コローネ。……すごい食べ物の数ね」
「リリー、うむみんな貰ったものだ。どれもこれも美味しいぞ。食べるか?」
「いいわよ、そんなに食べたら太るわ。それよりも話があるわ。こっちに来て」
「わかった、また後でな!」
人々に別れを告げ、リリアンについていく。
「《不退転な猛牛》のことだけど、明日一番に近くの街に行って兵士の援軍を呼んで来るらしいわ。だからもう安心よ」
「そうか。なら良かった。見ろリリー、皆良い笑顔だ!」
「本当。来た時とは大違いね」
住民は誰もが笑顔を浮かべている。
コロンは他にいる《いるかさん号》のメンバーにも目を向ける。
「美味であります。美味であります! こんな料理食べれるなんてかんむりょーであります!」
「あらら〜、リコちゃんこんなところにいたのねぇ〜」
「あっ、オリビア殿とティノ殿。二人ともありがとうであります。ふぁみり〜たちの怪我を見てもらって。おかげで皆宴に参加することができたであります」
「傷を負った子を治療するのはぁ、薬師であるわたしの役目ですからぁ。でもぉ、あんまり調子に乗らないでくださいね? 今回の怪我したおサルさんたちは必要以上に海賊を挑発してしまった子たちなんでしょう? そんなことしなければそもそも怪我をしなかったんですから。わ・か・り・ま・し・たぁ〜?」
「うっ、わ、わかったであります。申し訳ないであります……」
「まぁ、せっかくの宴なんですもの。お説教はこれくらいにしてワタシたちも楽しみましょうか、ティノちゃん」
「……うん!」
「あははっ、港の近くでも宴を開いてくれるなんて嬉しいな! ここならあたしも参加出来るし」
「海の歌い手は普段は町に入れないから、こんな経験なかなか出来ないからね」
「そう! いっつもみんなの話を聞くか、遠目に見るだけだったんだもの。今回こうして参加できて本当に嬉しい。ねぇ、アリア。町の人たちが歌っているのを聴いてあたし歌いたくなったんだけど奏でてくれないかな?」
「ふふ、もちろん良いさ。なら場所を移動しようか。君はもっと目立てるところが好きだろう?」
「えぇ! 行きましょ!」
リコはオリビアとティノと共に食事し、アリアとクラリッサは港で歌を歌っていた。
ビアンカも探していると隅の方にだがノワールと共にいるのが遠く見えた。暗くてよく見えないが楽しそうだ。
そこまで見てふと気付く。一人姿が見えない。
「そういえばキケはどうしたんだ?」
「あいつ? ……何でも、あいつらの海賊船に用があるって一人であいつらの船のところ行っちゃったわよ」
リリアンの顔が少し赤いのはさっきの事を思い出してのことだろう。あの時のことをリリアンの中で恥辱として覚えていた。
「そうか……なら行ってくる!」
「えっ!? ちょっとコローネ!?」
「すぐにあいつを連れて戻る! だから待っといてくれ。あっ、あとこの後出てくるとかいう牛の丸焼き、私の分も確保しておいてくれ! じゃーなー!」
「えぇ……」
ポツンと一人残されたリリアンは寂しそうにしながらもコロンに言われた牛の丸焼きを確保するためにのろのろ動き出した。
暗い部屋を松明を片手に動く影があった。エンリケである。彼は女性たちが閉じ込められていた部屋を漁っていた。
「これは使える。これはダメだな。劣化が激し過ぎる。変色してしまっている。……こんなものまで手に染めていたのか。これも処分だな」
漁っていると背後の牢で呻くような声が聞こえるが無視する。
敗北した《不退転の猛牛》だが今は彼らの本船にあった牢の中に閉じ込められている。特にブラジリアーノに至っては体を鎖でギッチギチに縛るほどの徹底ぶりだ。あれでは脱出は不可能だろう。
今も部屋の外では何人かの町民が見張りはしているが牢が破られることはないだろう。厳重に作った構造が仇となったのだ。
「こんなものか」
エンリケは一通りの薬品の回収と処分を終え、アタッシュケースに詰め終えた後、甲板に出る。すると風に乗って聞き覚えのある歌声と音楽の音が聴こえてきた。それに耳を傾けようとすると
「見つけたー!」
大きな声で遮られた。億劫そうに振り返ると肉を片手に、首に貝殻のネックレスをしたコロンがこちらを指差していた。
「キケ! こんな所にいたのか探したぞ!」
「……C・コロンか。どうしたこんな所に? 宴をしていたのではないのか」
「そうだ。キケ、お前何故宴に参加しないのだ! 他のみんなは参加しているのにお前だけだぞいないのは!」
「騒がしいのは余り好きではない。それにやるべきことがあったからな」
「やるべきこと?」
「あぁ。奴らが使っていた《ザクロニウムの花》。あれ以外にも麻薬が存在しないとは限らない。住民の目につく前に処分する必要があった。いないと思うが手に染める者が出るかも知れないからな」
「ほー、なら全部処分したのか?」
「いや、一部は貰うことにした。麻薬とは言え、その名の通り薬でもあるのだ。きちんと使用できればこれ以上ない特効薬にもなり得る」
「ふむふむ、私はよく分からないが……とりあえずあまり変なことには使うなよ?」
「オリビアにも後でどのような用法で使用するかを説明するつもりだ。管理もきちんとする。そこは安心して欲しい」
「そうか、なら信じているぞキケ。とりあえず、やることは終わったんだな? ならほら」
ずいと骨のついた肉を差し出される。
「何だこれは?」
「肉だ! 何も食べてないのだろう? お腹が空いてると思ってな! 持ってきてやったぞ!」
「……齧った跡があるのだが? 」
「え、と……。途中でお腹が空いてつい……」
ふいっと顔を背けるコロンに相変わらず大食いな奴だと思いながらコートから小型のナイフを取り出し切り分ける。
「あとはやる。脂っこいのは苦手でな」
「良いのか! やった! そうだキケ、今から酒盛りを始めよう。戻るのはその後でいい」
にししと笑うコロンは本当に嬉しそうだ。
そのまま二人は港町の様子が見える場所で酒盛りを始める。
「ぷはー! やはりびぃるはうまいな! このしゅわしゅわがたまらない。ぬぁーはっハッー」
「あまり飲みすぎると明日ひどい目にあうぞ」
「大丈夫だだいじょーぶ。それにもし痛くなっても薬でなんとかなるだろう?」
「……そんな下らない理由で薬は出さんぞ」
「えー! むむ、なら少し控えるか……」
残念そうにしながらもビールの入ったコップを脇に置く。
「見ろキケ。皆良い顔している」
「そうだな」
「来た時はみんなどんよりした顔をしていたが今は希望に満ちている。あの笑顔を私たちが取り戻したんだ。そう思うと誇らしくないか?」
「どうだかな、俺はほとんど何もしてないからな」
「そんなことない、みんな頑張ったじゃないか。これはみんなの勝利だ。だから誇っていいぞ」
笑うコロンに毒気を抜かれ、そうかと呟く。
コロンの笑顔には何故か人を惹きつける何かがあるのだ。
「うわわっ! あー! 私の帽子がーー!!」
不意に強い風が吹きコロンの二角帽子が飛ばされた。それをエンリケがキャッチする。
「おぉ、キケ! ないすきゃっちぃっだ!」
「ナイスキャッチな。前から思っていたがC・コロンは一部の言葉に対し発音が」
「あ、待てっ。振り返るのはーー」
振り返ったエンリケが言葉に詰まった。
コロン・パイオニアは力が強い。
それは道中の《悪辣なる鯱》との戦闘やブラジリアーノとの決闘で嫌というほど認識させられた。
エンリケはそれを遺伝、或いは特異なものと思っていた。ブラジリアーノのように何かしら力の強い種族特性を受け継いだものだと。それにしてもやはり力が強すぎる気がしたがそういうものだろうと納得していた。
何故あの体格であそこまでの力が出るのか。
その全ての答えが目の前にあった。
「ーー鬼」
額に生えるニ対のツノ。鬼人族の証たるそれがあった。
「そうだ。私は鬼だ」
コロンは臆さず堂々と頷いた。そこには微塵も動揺は見られないように見えるが微かに瞳が揺らいでいた。
エンリケはゆっくりと言葉を紡ぐ。
「……あの時、ブラジリアーノに対して反応していたのは奴の《豪鬼》という言葉に対してか」
「そうだ。私は他の鬼人族というものにあったことがなくってな。同じ鬼を冠する者同士、どのようなのか者なのか気になって奴に会いに行った。まぁ、鬼なんて名ばかりの全くの別種族だったけどな」
あの時は随分がっかりしたものだ、コロンはそう言って肩をすくめる。
エンリケはただじっとツノを見つめていた。
「キケ、わたしが怖いか?」
自信満々のコロンの表情が翳る。そのことに少し驚いた。
「なぜそう思う」
「私が鬼人族と知っているのはリリーだけだ。他はみんな知らない」
「知らない? どういうことだ」
「鬼人族は凶鬼とも言われるほどに人々から恐れられている。私自身も幼い頃は化け物って言われたし、他人から自分の種族がどう思われるのかは身をもって知っているんだ。だから、少し怖かったんだ。私が鬼と知れればみんなの態度が一変するかもしれない。そんなわけないって思いながらも、心の何処かで怯える自分がいるんだ。だから、リリー以外に正体を明かすことはしていない。……お前にはバレてしまったけどな」
コロンは儚い微笑みをする。昔のことを思い出しているのだろうか。
「私はな、時々だが目の前が赤く染まることがある。身体中が熱くて怒りに我を忘れてしまいそうになって全てを破壊したくなるんだ。だからわかるんだ。物語の中にいる鬼にもなったんだろうなって。タカが外れて、全てを破壊したんだろうなって」
「……そうだな。フィールドが語った内容もまた事実だろう。荒唐無稽と切り捨てるには逸話が多すぎる。勿論中には嘘もあるだろうがそれを差し引いても本当のことだろう」
「……あぁ」
「結論から言おう。鬼人族は恐ろしい。これは共通の認識だ」
予想していたとは言えその言葉にコロンは肩を落とした。
「待て、何をそんなに悲愴感を出している。これは鬼という種族に対しての他の者の見解だ」
「え?」
クイっと中指で片方にヒビが入った眼鏡をあげながら「つまりだな」と続ける。
「俺は自分の目で見たものしか信じない。そして俺が見た鬼人族はC・コロン。君だ。ならば恐れる必要が何処にある?」
想像だにしない答えだったのだろう。コロンはポカンと口を開ける。
「俺が知る限り、鬼人族はどうやら気分屋で能天気で物好きな性格らしい。どこぞの得体の知れぬ男を拾い上げるくらいだしな。更には後先考えずに突っ走り、嫌な事があったら逃げようとしたり、大食いで、しかも泣き虫らしい」
「うおいっ、待てい! 良い所が一つもないではないか!!」
うがーと目を吊り上げてコロンがポカポカ……訂正する。ボカボカと叩いてくる。割と痛いので手で制する。
「ごふっ、話は最後まで聞け。…だがそれだけではない。仲間想いで自らの正義感を持ち、そして何よりも自らの夢を叶えるために海に出た誇り高い海賊だ」
「わぷっ」
ポスンと力強くニ角帽子をコロンの頭に被せる。
「俺は船医だ。船医がたかだか容姿の差異で差別していては本末転倒にほどがある。それにそういった差異を調べるのこそが面白いのではないのか。それについてはフィールドもそろそろ目の具体的な診察をさせてくれるよう頼んで入るのだが今だに良い返事を……どうした下を向いて」
「ーーぬぁーはっハッー! そうだな、その通りだ!」
何がおかしいのかコロンはすごく楽しそうに笑う。
エンリケが事態を飲み込めず呆然としている間もコロンは笑い続けた。
ひとしきり笑い終わった後、まっすぐと顔を向けた。その顔に先ほどまでの暗い表情はない。
「キケ、私は必ず世界は平らでないと、世界一周を成し遂げる」
「そうだな。その言葉は聞いた」
「分かってないな。キケ、その夢を叶えるといった時になんと言っていた? 」
「……確か仲間の力が必要だと言っていたな」
「そうだ。そしてその中にキケ。お前も入っているんだぞ?」
それはどこまでも真っ直ぐで澄んだ言葉だった。
「私は自分で言うのも何だが強いと思う。だけど強いだけじゃ何も出来ないんだ。それを私は旅の中で何度も痛感した。そして、今回もな。お前がいなかったら私はあいつに負けていた。だからキケ。お前の力を貸してくれ。そのかわり私もお前の力となる」
「力を貸せだと? 自身より弱いに相手にか。先に死ぬかもしれんぞ」
「させないぞ。船員を守るのは船長の役目だ!」
「真っ先に危険に飛び込んで真っ先にやられた者が守るとは。随分大きく買って出たものだな」
「ぬ、ぐ。そう言われるとこちらも何も言えないのだが……。何でリリーもキケも私をいじめるのだ! 私をいじめて楽しいのかっ」
ウンウン唸るコロンを放っておき、エンリケは夜空を見上げる。
星々が闇の中にキラキラと光り輝いていた。
「……夢か」
ゼランが死んだ時にそんなもの当に果てたと思っていたが。だがコロンの話を聞き、心の奥底にほんの、ほんの僅かに何かが灯ったのを感じていた。その残り火が何なのか。エンリケはそれに気付いた時まだ自分にもそのようなものが残っていたのかと驚き、そして納得した。
ゼランに引っ張られただけだと思っていたが確かにあの時、エンリケ自身にも世界一周という夢を心に抱いていたのだ。誰でもない、自分自身で。
ゼランはもういない。夢がまだ心にあると気付いたがその夢の大半である彼と一緒にということはもう叶わないだろう。
俺は死にそびれた。なら半端者なりに身の振り方でも考えてみるか。
「これからの航海、恐らく大きな困難が待ち受けるだろう」
「そうだな」
「誹謗中傷も、言われなきゃ罵倒も、時には悪意を持って襲ってくる輩もいるだろう」
「うむ、覚悟の上だ」
「辛いことの連続だ。そこまで覚悟しても本当に世界が丸いかもわからない。伝承の通り、平らでその先は真っ逆さまに落ちる奈落かもしれない。そのようなことに命をかけるのは馬鹿げたことだろう。……だがその夢、共に見させてくれ。キャプテン」
「うむ! 大船に乗ったつもりでいろ」
なぁゼラン。
俺たちが見た夢は遠い別の少女に受け継がれていたらしい。
あの世で会ったら酒でも飲んで語ってやる。だからもう少しだけ待っていてくれ。
笑うコロンにつられるようにエンリケも軽く笑った。
「お? おぉー! お前が笑ったの初めてみたぞ! もう一回! もう一回見せてくれ!」
「うるさい、やかましい。近づくな鬱陶しい」
「ぬぁっ、や、やめろっ。脇を突くのは卑怯だぞ! くそう、こうなったらこちょこちょしてでも笑わせてやる!」
「なっ、やめろ」
二人の争いは心配になったリリアンが来るまで続いた。
☆
後日、港には多くの人が集まっていた。いるかさん号のメンバーが各々に船に寛ぐ中、コロンだけは未だに港にいて、住民たちと話している。
「全くいつまで感謝の言葉を受けているんだか」
「もぐもぐ……そう言わないほうがいいであります。彼らもリコたちに感謝してもし足りないのでありますよ。いやー、食糧もたくさん貰えて良かったであります。これでもう当分は贅沢に過ごせるであります。はぐはぐ」
「こら、何食っているのよ!」
「まぁまぁ、良いじゃないか。今回は大将たちのおかげといっても過言ではないのだから多少は大目に見てあげようよ。むぐむぐ」
「アリア! 貴方も!」
「うっひゃー、何これ?」
「この港町名物の人形らしい。何でも魔除けでもあって航海がうまくいくようにと願いを込めたものだと聞いた」
「かわいくなーい。これはコロンの宝物部屋行きね。まぁ、あたしはアリアから貰ったアクセサリーがあるから良いけど。どう? 可愛くない?」
「ふむ、売れば高そうだな」
「身も蓋もない感想ね……。ビアンカさんって何というかオシャレに全然興味ないよね〜」
「自分にそんなものは不要だ。私は戦士だからな」
「おサルさんたち〜、それはこっちに運んでくださいねぇ〜。あ、もし割ったりしたりしたらお仕置き、しちゃいますよぉ〜」
≪う、うきぃ……≫
「……が、がんばって……」
騒がしい船内から目を外し、エンリケはコロンを見る。誰かと話しているようだ。
「もう行くのか?」
話しているのはネスだった。その様子は名残惜しげに見える。彼はコロンたちが出ていくと聞いて慌てて港に来たのだ。
「そうだ、港町も解放されたし、あとはこの国の兵士に任せることにする。それに当初の目的の物資の補給も町のみんなのおかげでできたしな」
「世界一周だったっけ? 正直おれは何でそんなことをするのか全くわからない。だけどそれが姉ちゃんの夢なら仕方ないとも思う。……だけど、おれ何も恩を返せてないじゃないか……」
「ふむ……そうだな。なら一つ約束してくれ。次会う時は私が世界一周して戻って来た時だ。その時までこの港町をもっと素敵なところにしといてくれよ?」
「! うん、任せてくれ! 姉ちゃんがこれから見るどんな港町よりステキなものにして見せるから!」
「うむ! 覚えておくぞ!」
良い顔で頷くネスに満足したコロンはそのまま跳躍して船の手摺に乗るが体勢を崩し落ちそうになる。
その手をエンリケが掴んだ。
「すまん、キケ」
「気にするな。それよりも皆お前の号令を待っているぞ」
「わかった」
そのままイルカを模倣した船首に乗り、ぐるりといるかさん号のメンバーを見た。皆の顔をみて頷くと海賊旗を見上げる。
そしてそのままジッと待つ。周囲には波の音だけが聞こえた。
コロンは何かを待っているようだった。
僅かな時間の後、海賊旗がなびく。
風が吹いた。
「出航ー!」
その言葉と共に声が上がり、帆が広がる。
龍の力を借りずに、いるかさん号は風を受けて動き出した。背後ではレックスたち港町の住民たちの感謝と幸運を祈る声が聞こえる。だがコロンは振り返らずまっすぐに先を見据えていた。
「さぁ、次はどんな冒険が待っているのだろうな! ぬぁーはっハッ、楽しみだ!」
船跡は波に揉まれ消える。だがその痕跡は確かに今、存在した。
船は進む。その先にある次なる冒険を目指して。
これにて第1章はお終いです。次回からは第2章になります。
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