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10.冒険者ギルド(2/3)

「君、魔石は見たことがある?」


 パティは親指大の楕円形の石を一個、祭壇に置いた。まるで宝石のように輝いている不思議な石だ。


「魔物が体内に生成する魔力の結晶体よ。この『昇華の祭壇』に魔石を捧げることで、生まれたときに十枚しか与えられない『カード』を新たに生み出すことができるの。凄いでしょう?」

「……前に聞いたことがあります。冒険者ギルドは、生まれ持った才能(カード)の差を覆す手段を持っているって」

「いい表現ね、それ。普通は石四個につきランダムに一枚なんだけど、一種類だけ石一個で、それも狙って生み出せるカードがあるのよ。それが特殊スキル《ギルドカード》ってわけ」


 パティは俺に目配せをして、祭壇に触れるよう促した。

 一度経験したのでやり方は分かっている。出てくるカードが決まっているなら緊張する必要もない。俺は躊躇うことなく祭壇の紋章に触れた。


 光の粒子が祭壇の上で渦を巻くように回転する。


 それが弾けて消えた後に、銅色のカードが残される。コモンやアンコモンのカードと同じ色だ。


「《ギルドカード》の色はランクに応じて変わるの。EランクとDランクは銅色で、Cランクは銀色。Bランク以上は金色ね。さ、セットしてごらん」


 言われるまま《ギルドカード》をセットする。

 光の粒子になった《ギルドカード》が身体に吸い込まれていったが、何かが変化した気配は感じなかった。


「これでどうなるんです?」

「《ギルドカード》自体はただの記録媒体を兼ねた身分証だけど、コスト不要の呪文が一つだけ使えるようになるわ。『ステータス』と唱えてみて」

「えっと、こうですか。ステータス!」


 そう口にした瞬間、俺の目の前に半透明の色付きガラスのようなものが浮かび上がり、表面に幾つもの文字列が表示された。





― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


【基本情報】

 カイ・アデル

 レベル:1 冒険者ランク:E


 基礎能力値

 【心】126(105)

 【技】143(110)

 【体】127( 98)


 パラメータ

  HP:39/39(39)

  MP:39/39(39)

  攻撃力:41(41)

  防御力:42(42)

  魔法力:40(40)

  技術力:42(42)


                1/2

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





「……これは?」


 驚きつつパティに尋ねる。こんなものは今の俺(カイ)の知識や記憶にはなく、むしろ前の俺()のゲーム知識の方に近い。あまりにもゲーム的なステータス画面だった。


「あなたの『強さ』を数値で評価したものと言えば手っ取り早いかしら。自分の能力が一目で分かるなんて便利な魔法でしょう?」

「それぞれの数字にはどんな意味があるんですか?」


 パティは俺の反応を楽しそうに眺めながら、表示された内容について説明をしてくれた。


「基礎能力値はあなたの心の強さと、身体を思い通りに動かす能力と、文字通りの力の強さやタフさを表す数値よ。それより下のパラメータは、基礎能力値から推定される戦闘能力ってところね。分かりやすいでしょ」


 まさにゲーム的というかロールプレイング的というか。分かりやすいと言えばそのとおりだ。


「勘違いされやすいけど、HPはなくなっても死んだりしないからね。HPゼロっていうのは、もう動けないし戦えないっていう状態だから疲労困憊でもそうなるの」

「括弧の中の数字は?」

「右の数字はスキルや装備の補正を受ける前、左の数字は補正を受けた後。基礎能力値は《ステータスアップ》一枚につき一割アップで、パラメータは装備カードやスペルカードの効果で変化するわ」


 俺の場合は【心】が二割で他が三割アップということになる。これは結構凄いんじゃないだろうか。


「命中力とか回避力とか、そういうのはないんですね」

「攻撃を命中させる能力は攻撃力に含まれて、攻撃をかわす能力は防御力に含まれるから」

「ああ……なるほど」

「ちなみにレベルは経験の大雑把な評価ね。レベルに応じてパラメータも少しずつ上がるのよ」


 経験を表す『レベル』でパラメータの数値が上がるのは、戦闘経験を生かして上手く攻撃を当てたり、逆に凌いだりすることを数値的に表現しているのだろう。

 怠けていたら腕が鈍ってレベルが下がるということも起こるかもしれない。


「それじゃ、今度は画面に触って、そのまま横に動かしてみて」


 そのとおりにすると、画面の表示が横にスライドするように変化した。


「うわっ、タッチパネルだ!」


 まるでスマートフォンの画面のようだ。中世ファンタジー的な世界でこんなものにお目にかかるなんて信じられない。





― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


【カード一覧】

 レアリティ/名称/枚数/コスト


 [スキルカード]

 C《捕縛》Lv1 1 1

 C《ステータスアップ:心》Lv1 2 2

 C《ステータスアップ:技》Lv1 3 2

 C《ステータスアップ:体》Lv1 3 2


 [スペルカード]


 [装備カード]

 R《始まりの双剣》Lv1 1 6


 合計セットコスト 23/39


                2/2

― ― ― ― ― ― ― ― ― ―





「これはもしかして……」

「ええ、あなたがセットしているスキルの一覧」


 一覧に《ワイルドカード》が見当たらなかったので一瞬首を捻ったが、そういえばチンピラを捕まえるために《捕縛》スキルに変えたままだった。どうやらコピー中はステータス上でもコピー対象の情報が表示されるらしい。


「コストっていうのは初めて聞いたんですけど、何なんですか」

「普通の人は意識しないんだけど、カードのセットは人体に多少の負荷を与えるのよ。基準としては、コストの合計が最大HPを超えると悪影響が出てくるわね」


 それを聞いて、前々から抱いていた疑問が氷解した。


「ああ、だからカードを貰えるのは成人してからなんだ。子供は身体が未熟で耐えられないかもしれないから……」

「察しが良いわね。昔はそれが原因の『事故』がたまにあったそうよ」


 怖い話だ。神様からの恩恵と思って身に付けたら、それのせいで身体に悪影響を受けてしまうなんて。


「スキルのレベルは使い込むほどに上がるの。カードを合成させて成長させることもできるけど、Eランクの冒険者にはまだ縁のない話かも」

「……? どういうことですか?」


 パティは目線だけ動かして、魔石昇華の祭壇を示した。


「魔石は魔物の身体にしか生成されないからよ」

「そっか、魔物退治はCランクからでしたね。新しいカードもCランクにならないと手に入らないんだ」

「一応ギルド内のショップでカードや魔石を売ってるけど、凄く高いからこっちも初心者には手が届かないでしょうね」


 流石の《ワイルドカード》も同時にコピーできるカードは一種類だけ。強力なスキルやスペルを同時に使いたければ、他のカードを自前で用意するしかない。


 金銭的な余裕はできるだけ返済に回したいので、魔物を倒して魔石を手に入れるしかなさそうだ。やはり最善の選択肢は魔物討伐の依頼の副産物として魔石を手に入れること。そのために必要なのは冒険者ランクを上げることで……。


「結局、地道にやるしかないわけか」

「下積み時代はそんなものよ。どんな一流も最初はEランクだったんだから」


 パティは笑いながら肩を竦めた。


「さて、ギルドのシステムについての説明はこれでおしまい。ちなみに、ステータス画面は他人にも見えるから注意して。自己紹介には便利だけど、手の内を明かしたくないなら見せない方が良いわ。特に二枚目のスキル画面はね」


 そう言われて今更思い出したのだが、ステータス画面に表示されていないスキルは《ワイルドカード》だけではなかった。《前世記憶》もそうだ。

 ひょっとしてステータスに表示されないスキルもあるのだろうか。原因は不明だけど、悪い奴が前世だったんじゃないかとか思われずに済むのは助かるので、特には気にしないことにした。


「時間が空いてるなら簡単な依頼でも受けてきたらどう? 夜までに終わる仕事もたくさんあるけど」

「そうですね、試してみます」


 まだ分からないことは多いが、習うより慣れろという言葉もある。まずは簡単な依頼を受けて慣れていくのが一番だろう。

 俺はパティにお辞儀をして、ギルドハウスの大ホールに戻っていった。

冒険者モノでお馴染みのギルドカードとステータス。この作品では二つでワンセットの運用です。

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