8 悪役令嬢に転生した干物女はすまし汁を飲みたい。
前回までのあらすじ
ミゲルにとり天とチーズ天を取られた。
今日は町の市場に来てみた。
メイドが休みの日に市場で買い物すると言っていたから、服を借りてお忍びでついてきた。普通、令嬢はこんなところに来ませんと言われたけれど。
さすがにファンタジー異世界だから、日本みたいに品揃え豊富なスーパーやショッピングモールがあるわけではない。
7日に一回、市が開かれて野菜や舶来品はみんなそこで買うんだって。
一応魔法も研究されている世界で、氷魔法を応用した冷蔵庫もあるけど生産数が少ない。だから金のある人しか持っていない。
私、この世界に生まれても貴族でなかったら簡単に肉を食べられなかったんだね。
魚の店で足が止まった。
店主と目が合う。
「どうだい嬢ちゃん、海藻と魚の干物買わんかね」
干物に干物を売るとは良い目をしているね。
長期保存するには燻製か干すか塩漬け。
水分が抜けてガチガチになった小魚は、そう。
煮干しである。乾燥昆布っぽいものもある。
出汁系のモノが作れるじゃないですかー。
「買うわ」
ジャージ販売で得た収益は干物になった。私の財布の紐は食に関することになるとゆるゆるだ。
煮干しと昆布をゲットして屋敷に戻ってきた。
いつものジャージに着替えて、いざクッキング。
デールがメモをスタンバイ。
「何を買ってきたんですか、お嬢様」
「煮干しよ。これですまし汁を作るわ」
「ほほう! ぼくのスープとは違うんですか」
「そうね。デールの具だくさんのスープも美味しいけれど、今回の具は卵だけ。すまし汁は出汁が主役なの」
煮干しと昆布は出汁を取って、ザルに上げておく。
捨てるなんてもったいない。もう一度干して、おやつに食べよう。
こして細かいものを取り除いたら、塩と少々の白ワインで調節。醤油が欲しいところだけど、西洋風異世界だからねぇ……。
沸騰させないように気をつけながら温めて、溶き卵を流し込む。菜箸でゆっくりかき混ぜて出来上がりだ。
酒を飲みすぎたあとにはイイねぇ。
久々の和の出汁が胃にしみる。
「やあクリティア、来たよ〜。あ、すまし汁だ! おれの分はないの?」
婚約者になることを諦めてないヒモが来た。素通りさせるなよ使用人の皆。
「ジャージを売った金で買って来た煮干しなので、対価を払ってくれないと渡しません」
「対価はおれの愛。養ってくれるなら毎日愛を囁くよ。料理上手な人は素敵だよ、クリティア。だからおれにも、すまし汁ちょーだい!」
「そちらは受け付けていないんですよー。現金払いでお願いできます?」
「あはは。面白いなぁ。ここまでおれに辛辣な女、初めて」
天哉を養って愛されたかった元カノさんたちは疲れていたのかしら。それともダメンズを矯正しようと尽力していた?
干物には理解できないわ。
「お嬢様宛の贈り物が届いています」
ジーニャがなんかでかい包みを抱えてきた。
「開けてみて」
「はい」
覆いの布を取ると、ロブソンの肖像画だった。しかも雑誌モデルみたいなクネクネしたポーズを決めている。
「海外留学することになった。これを僕だと思って毎日キスをしておくれ、と裏に書かれております」
こんなゴミいらねーーーーー!
「わー。これがお花畑かぁ。クリティア、おれにちょうだい。毎日顔面にパンチするから」
「どうぞどうぞ」
平和的解決。
ゴミ処理のお礼にすまし汁を一杯提供した。





