後日談4 お祝いの塩釜焼きを作ります!
豆を買ってきたはいいものの、料理するために数時間吸水させないといけない。
さすがに今日買ってすぐってわけにいかないから、豆だけ水に浸して赤飯作りは明日にまわす。
コリンの店の厨房を借りて、いざ調理開始だ。
コリンが慣れた手つきで卵白を泡立てて、きれいなメレンゲができる。
「ここまでは他の料理と同じですわね。ここに塩を入れるんですか、クリティア様」
「ええ。どーんと!」
ひとつまみなんて優しいもんじゃなく、目算1キログラムほど。
コリンも引くくらいの量だ。
さらに、先ほど市場で仕入れた香草を刻んで塩釜ベースに混ぜこむ。まるで白い粘土。
「魚を使うのが主流だけど、今回はこれを使うわ! 我がフローレンス領の血統、フロー豚のロース肉! クロムとミラの結婚祝いにふさわしい食材だと思うのよ!」
良い肉質のフロー豚かたまり肉を、よく叩いて表面に細かく切り込みを入れ、コショウと香草をまぶす。さらに塩釜生地で隙間なく包み込む。
「まぁ。塩を混ぜた卵白でくるんでしまうんですね。こんなに塩を使って、お肉が食べられなくなるくらいしょっぱくなってしまいませんか?」
「大丈夫だよヨイ。クリティアが言うんだからなんとかなるなる」
無責任なことをさらっと言うミゲル。
いつの間にか薪を両脇に抱えている。
「あとは石窯で焼き上げるんでしょ。外から薪をもらってきたよ! おれ手伝ったから多目に肉ちょーだい!」
「別にいいけど、あんたはいくつになっても食い意地はってるわねぇ。次期伯爵だしお行儀よくしようなんて考えないのね」
「アハハ。周りからどう見られるかを気にしてお行儀いいおれって、それはもうおれじゃないや」
見た目は申し分ないのにね。ヒモがINしちゃったからかなり自由人だ。鼻歌なんてうたいながら薪を窯の中に入れて火をつける。
なんだかんだ、率先して手伝ってくれるし、ヒモ気質は改善されつつある。
「私はここの窯を使うのは初めてだから、ここの料理人に温度調節のコツを聞いておきたいわね」
「おまかせください!」
控えていたここのスタッフが敬礼して、細かな説明をしてくれる。
曰く、一般的な窯より温度が上がりやすく、奥より手前のほうが熱くなりやすいから時々料理を回したほうがいい。
塩で包んだ肉を耐熱皿に乗せて、窯の中に置く。さすがは公爵家のレストラン、いい窯だ。フタを開けた途端熱気で汗が吹き出てくる。
「よし、焼くわよ。少しずつ、時間を見て……」
窯の前でじっと待っていると、じわじわいい香りが漂ってくる。肉の焼ける香りにハーブの香りが混じって、口の中によだれが出てくる。
「わぁ。いい香りぃー! 匂いだけでごはん食べられそう。ね、クリティア」
コリンが私の後ろでソワソワしている。
「ええ。すごくいい香り。焦がさないよう、こまめに動かさないとね」
トングで押して皿を回し、焼けにくい位置と火の通りやすい位置を入れかえる。
待つこと体感10分。串で刺して、血がついてこなくなったからオーケー。
「そろそろ出してみましょう」
窯のフタを開けるとむわっと熱気がふきつけてくる。引いていた汗がまたたれる。
鍋敷きの上に乗せて、粗熱が取れるまで少し待つ。
「クリティア、オレが割っちゃだめ? 割っていい?」
ハンマー片手にウキウキしているミゲル。気が早い。
「塩が焼けていい色になっていますわね。この状態で中の肉が焼けるなんて、面白いですわ」
「うふふ。白身魚でも美味しくできるから、ヨイ様も領地に帰ったら地元の魚で試してみてくださいな」
「ぜひ!」
冷めてきたら、ミゲルが満を持して塩を割る。
砕いて砕いて、ホクホクのお肉が顔を出す。
ナイフを入れて、それぞれ小皿に取っていただきます。
「うっまぁーーい!」
「ほいひー!」
「美味しいですわ! なんてやわらかいんでしょう」
ミゲル、コリン、ヨイが異口同音に肉に感動する。
私もまだ湯気が出ている肉をほおばる。ハーブのおかげで肉特有の臭みが消えて、柔らかくジューシーに仕上がっている。
サポートしてくれた使用人にも試食してもらったら、「美味しいです!」と喜んでもらえた。
コリンは小皿の肉を食べ終えたらナイフで大皿の肉を削ぎ削ぎ。追加で塩釜ロース肉をほおばる。
「んー! ほんとおいひー。これならミラは喜んでくれるはずよ。すっごくご飯がすすむもの。あとは赤飯を炊けたら完璧ね!」
「それはまた明日にしましょう。今の焼き時間と分量の目安をメモにして、家で作るときも再現できるようにしないと。家の窯とここの窯だと火力が違うからね」
「わたしもメモをしていいですか? 基本を覚えておきたいです」
ミゲルは私たちの横でスライスしたバゲットに肉と薄切りチーズを乗せて、オープンサンドを楽しんでいた。
「あっずるい! いつの間にバゲットとチーズを出してきたの!」
「さっき市場で買ったんだよー。やっぱ肉とチーズとパンは最強にうめー」
「いいわね、私にもちょっとちょうだい」
「いいよー」
オープンサンドにしたらさらに高い美味しくて、食べすぎた結果夕飯の入るスペースがなくなった。





