41 悪役令嬢に転生した干物女はラーメンを食べたい。
前回までのあらすじ。
ヒレ酒とちゃんちゃん焼き、最の高ですわ!
「何馬鹿なこと言ってんだよコリン! にんにくマシマシ脂カラメの太麺豚骨醤油にもやし山盛りに決まってるだろ! チャーシューもぶ厚めトロ肉のやつを麺が見えなくなるくらい盛るんだ!!」
「あんたバカァ!? ラーメンと言ったらあっさり塩味スープで味玉と焼き海苔で決まりよ!」
ごきげんよう、クリティアです。
来月王都で、オーキナ国初の国王主催グルメフェスが開催されることになったため、所属する貴族はキッチンカーを出すことになった。
料理研究家として晴れの舞台。フローレンス家は新メニューを出すことにした。
私が提案したのはラーメン。
かつて横浜中華街で来日した中国の料理人が提供してくれて、それが爆発的人気を呼び、日本各地に広まり独自の形で進化した。
今や中国でも日式拉麺と呼ばれている。
私とクロム、使用人じゃ試食するにも限度があるから、王子以外のジャージ隊に集まってもらった。
試作と試食手伝いをお願いしようと思ったんだけど。
三郎系とあっさりラーメン。ミゲルとコリンの好みが全く違う。
二人は自分の推しラーメンのほうが良いと言い合い、バチバチ火花をちらしている。
「あなた達のラーメンの好みはわかったけど、私が作るのはどっちでもないわ」
「「ええええええっ!!?? なんで!!!」」
さっきまで喧嘩していたのに声を合わせる二人。私はきっぱりはっきり答える。
「フッフッフ。甘いわ。ミゲル、コリン。私は味噌バターコーン派なんだ! ラーメンにバターコーンをのせないなんて言語道断!」
「ダメダメ絶対ダメ! コーンで甘くなっちゃうじゃんか! おれチャーシュー山盛りの背脂たっぷり、しょっぱめのやつ夜中に食いたいんだよ!」
「背徳ぅー!! そんなの太るじゃない! 背脂だらけなんてあたし絶対許さないんだから!」
第三勢力の参戦によりラーメン戦争の火がさらに大きくなった。
小さなキッチンカーで味のジャンルが違うラーメンを三種類も出せない。三人で額を突き合わせて話し合いした結果。
間を取って、鶏ガラ醤油ラーメン(トッピングは煮豚とコーン、煮卵)になった。
「クロム様。わたくし、三人が何を話しているのか全くわかりません。脂カラメとはなんでしょう」
「安心してくださいミラ様。俺も三人の話がわからないです」
転生組以外が置いてけぼりを食っているので、使用人とジャージ隊の一同に改めて説明する。
「ええとね。私が作りたいのはラーメン。うどんみたいな麺料理だけど、うどんよりずっと麺が細くて、スープは鶏を煮込んだもの、トッピングに煮豚とコーンと煮卵を乗せます」
「僕たちは何か手伝えることありますか」
クックがメモを手に聞いてくる。
「そうね。全部私が作るのは骨が折れるわ。クックには煮豚を、デールには煮卵を頼むわ。ゆでたまごを作ったら殻をむいて、温かいうちに醤油と砂糖、水の調味液に漬け込んで欲しいの」
「かしこまりました! では屋敷の調理場で仕込んできます」
料理人二人が各自の作業に取り掛かる。
とくに煮豚は手間がかかるから、料理の腕がいいクックが作ってくれると助かる。
「じゃあじゃあ! あたし、ゆでとうもろこし作る!」
「いやいやおれが!」
「あたしが!」
コリンとミゲルが役目を奪い合う。
「二人でやりなさい」
この二人ほんと、気が合うんだか合わないんだか。
スープ作りにとりかかる。
たっぷりの水に、鶏の手羽中と長ネギ、刻んだショウガ。これらを寸胴鍋でじっくり煮込む。
時々アクを取る。
ミラはお玉片手にアク取りを手伝ってくれている。
「クリティアお姉さま。このお湯に浮いてきたものを取るのはなぜです?」
「肉の臭みやえぐみがアクとしてでくるから、これを丁寧に取るとスッキリ美味しいスープになるの」
「知りませんでしたわ。わたくしが普段屋敷で飲んでいるスープも、いつもとても美味しいのです。料理人がこうして毎食手間ひまかけて調理してくれているのですね」
「そうですね。帰ってから、いつもありがとうって伝えたら喜ぶと思います」
「そうします」
ミラはジャージの袖をまくりあげてヤル気をみなぎらせる。
「煮込むのはミラ様に任せていいかしら。私は麺を打つわ」
「はい。おまかせを!」
「クロムもスープをお願い。アク取りが終わったら、ザルで濾して細かいゴミをとって、別の鍋で煮込んで調味してほしいの。醤油と砂糖、塩は用意しておくから、薄いとかしょっぱいとかは少しずつ小皿で確認しながら、味を調整して。鶏肉は別に取っておいてくれたら、あとで私がオツマミにするわ」
「わかりました」
さて、残る役割は麺作りだ。
私とヨイが麺の担当。
「ヨイ様。麺を打ちます! うどんと似ていますが、多少材料が違います」
調理台には強力粉と塩、水、そして重曹。
この異世界において重曹とは、日本で売っている重曹と同じ。
一般的には肉料理の肉を柔らかくする下ごしらえ、パンケーキをふくらませる膨らし粉、という使い道がある。
「重曹ですか」
「ええ。ラーメンの麺はこれを入れないと美味しくならないの。それと、水はうどんのときより少なめです」
「水分量も重要なのですね」
「地域によって多少違いますが、今回は40%です」
多加水麺というジャンルになる。
ヨイと力を合わせてこね回し、ガンガン打ち、滑らかになったら打ち粉をしながら麺棒で伸ばす。
薄く伸ばしてたたむ。
「まあ。ここまで薄くするんですの? 本当にうどんと違いますのね」
「ええ。そしてうどんより細く切ります」
麺用の包丁で切り分けて、ザルに上げる。
「そしてスープと具ができてから茹でます! 細いので茹で時間は短いです」
「ふふふ。どうなるのかワクワクしますわ」
「煮豚の用意もまだ時間がかかるし、みんながおかわりすると思うから、今のうちに多めに麺を打ちましょう」
「そうしましょう! 腕がなりますわ!」
筋トレ大好きなヨイの魂に火がついた。
張り切りすぎた結果、スープと煮豚、煮卵、ゆでとうもろこしを待つ間に二十人前くらいの麺ができた。
まあみんな食べると思うし、オッケー!
たっぷりのお湯を沸かして麺を茹でて、丼にイン!
そこにすかさず熱々の鶏ガラ醤油スープを注ぐ。
半分に切った煮卵、薄切りの煮豚、そしてコーン!
刻み青ネギものっけとく!
「鶏ガラ醤油ラーメン完成!!!!」
ああ、この世界に来てラーメンを食べる日が来るなんて、幸せ。
ちゃぶ台に並べてみんなで手を合わせ、いただきます!
転生組以外のみんなが恐る恐るという感じでラーメンを見つめる中、ミゲルがズルズルと音を立てながら麺をすする。
煮豚を一枚まるごと口に放り込んで、丼のフチに口をつけてスープをすする。
「プッハァ! うんめぇーーーー!! これだよこれ! おれずっとラーメンが食べたかったんだよ!!」
袖で口の周りについた脂をふきふき、また麺をすする。
「み、ミゲル。そんな大きな音を立てて麺を食べるなんてお行儀が悪いですわ! 袖が汚れて……」
「あははは。何言ってんのさ姉上ぇ。ラーメンってこういうものだよ」
前世日本人のヒモ男子、お行儀悪いことは気にしない。
私もそこまで行儀悪くはしないけど、ミゲルがしたように音を立ててラーメンをすする。
醤油スープは、ショウガできちんと臭み消しできているから香りがいい。煮豚も煮卵も、いい風味。
「おいしいいい! 作ってよかった! さぁみんなも食べて。ラーメンは音を立てて食べるのが良いのよ」
コリンも元日本人だからためらいなく麺をすすり。スープを飲む。
「おいひぃ! はふ、ちゅるるる! んー! 醤油ラーメンもいいわね!煮卵おいしぃ!」
クックも、一口すすり、目をみはって一気にすする。
「どの食材も、いつも料理で使っているものなのに!! 組み合わせ一つでこんなにもかわるのか! うまい! うまい! パスタともうどんともちがうこの麺のコシ! 味が濃いめのスープがよくからむ!」
「あああっ! なんてことだ! 味わおうと思ったのにもう丼が空だ! でも美味しいんだから仕方ない。ミゲル様の仰るとおりだ。これは夜中に食べたい背徳感!」
デールは素早くすすり、一気に食べきってしまった。
クロムとミラとヨイは生粋の貴族として育ってきているから、やはり大きな音を立てて食べるのには抵抗があるようだ。
クロムはちょっとずつすすり、感動する。
「これは確かに、何種類もの味をキッチンカーで提供するのは大変だろう。スープ一種類でもこんなに時間をかけて作ったのだから。鶏の旨味が凝縮されていて、ジンジャーのおかげであと味がスッキリしている。いい味だ」
「うふふ。おいしいでしょ、そうでしょうそうでしょう! 私たちの領地で栽培している鶏だからね。良い餌を使って平地栽培した鶏は味が違うわね。領民に感謝ね、クロム」
「はい」
ミラもヨイもおかわりするくらい気に入ってくれて、なんとグルメフェス当日はミーティアとユージーン、チョコザイナーもラーメン屋台を出すことになった。
ミーティア家は豚骨ラーメン、ユージーンは海鮮味噌ラーメン、チョコザイナーは塩ラーメン。
日本だって都道府県によって全然違うラーメンが流行っているから、イイわね、フェスのラーメン祭!





