40 悪役令嬢に転生した干物女はヒレ酒をたしなみつつ、ちゃんちゃん焼きを食べたい。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
コタツにこもりすぎてデブ化しましたわ。
クリティアです。
今、私は馬に乗って領地の雪原をかけています。
なぜ乗馬しているのかというと、表向きは領地視察のため。
裏の目的は、ダイエットである。
こけしに引けを取らない寸胴になったため、「料理研究だけでなくもっと運動しなさい」と母上にケツを叩かれ、かれこれ一週間乗馬の毎日である。
「領地の見回りをしつつ運動になる。良かったじゃないですか姉上」
「皮肉のエッジが効いてるぅ」
一緒に視察に来ているクロムはいい笑顔だ。普段乗り慣れているから、涼しい顔。
私は、前世ただの干物やで。
ただの会社員だった私が乗馬なんてできるか!
指導員のシゴキで叩き込まれて、今一人で乗っている。貴族の娘はこれくらい当たり前って……。
ここ一年財政が潤っているから、道路や町は整備しているし、ひもじい思いをしている人はいない。良いことだ。
一週間の見回りを終えて、夕刻に屋敷に帰ってきた。
乗馬でちょっとは痩せた気がする。うん、たぶん、きっと、当社比で。
帰りしな、領民が
「どうぞ、領地の川で捕れた魚の干物です。召し上がってください」
と川魚を献上してくれたのでありがたく料理に使うよ!
サーモンだ!
村上鮭みたいな、口のとこが紐でくくられている。
塩がいい感じに馴染んでいる。最高じゃないか!
一直線でマイ調理場に走り、台に塩鮭を乗せる。
「ホーホッホッホッ! せっかくの領民の心、いただかないわけにはいかないわ!」
「姉上、もっともらしいことを言って食べたいだけですよね。ほどほどにしないとまた母上からお叱りを受けますよ」
「そんなこと横に置いとくのよ。いいクロム。他の男と差をつけるなら、ミラが好きな食べ物を作るの!」
「な、なぜ俺に言うんです」
ミラの前だと挙動不審になるから、好意がだだ漏れなんだよ。
ミラには気づかれていないみたいだけど、ミゲルやヨイ、コリンは「はよ告白せいや」くらいの目で見ている。
「今日は、ちゃんちゃん焼きとヒレ酒を作るわ!」
「はぁ……」
まず鮭を切り身にして、使う分は水洗いして臭みを取る。水にしばらくつけておいて、塩を抜く。
布巾で水分を拭き取ったら、油を引いたフライパンに切り身を並べる。
その鮭の上に、ざく切りキャベツと玉ねぎ、しめじっぽいキノコをオン。
「これで焼いている間に調味味噌を作るわ。味噌と砂糖、ショチューとお水。これを器で溶いて、フライパンに流し込む!」
ジュワ! といい音がして、焼ける味噌の香りが調理場に漂う。すぐ蓋をしめて蒸し焼きにするのだ!
クロムが鼻をひくひくさせる。
「なんとも、独特の芳しい香りですね」
「そうでしょう! そうでしょう! 火の通った味噌はすごくいい香りなのよ!」
鮭と野菜に火が通るまで煮込む。
待っている間に七輪で鮭のヒレを炙る。
いい感じに焦げ目がついたら、熱々に燗したショチューに投入!
職人に作ってもらって良かった、湯呑み! ヒレ酒作るのに役立つとは。
フライパンの蓋を取ってヘラで崩してみれば、鮭も野菜たちもしっかり火が通ってクタクタになっている。
「ちゃんちゃん焼きも完成! こたつで食べましょう! クロム。あなたがこれを食べて美味しいと思ったら、ミラに教えてあげなさいな」
「……姉上がそこまで言うなら」
素直じゃない弟だ。
皿に盛り付けて、もちろん白米も添える。
白米なくしてちゃんちゃん焼きとヒレ酒を楽しめようか!
「いただきまーーす!! んぐんぐ。はぁ、おいしーーー! 脂のノリがこんなに良いなんて。うちの領地は、野菜だけでなく魚も一級品ね」
「あぁ、火を通すことによって野菜の甘みが増していて、美味しいです。塩気があるからこそ白米が引き立ててくれるんですね」
最近箸使いがうまくなってきたクロム。白飯に味噌味鮭を乗っけてほおばり、かみしめている。
「ヒレ酒も飲むのよ! かーーっ! うっまああああい! こたつでちゃんちゃん焼きとヒレ酒、最強!!」
香ばしい鮭ヒレとショチューが合う。
おかわり何杯でもいけちゃう!
それにあれだ。
ショチューは透明だからゼロカロリー!
飲んでも太らないさ!
クロムもちびちび飲んで、気に入ってくれたみたいだ。
レシピを真剣にメモしている。
後日ミラが「クロム様からうかがいましたわ! ヒレ酒とちゃんちゃん焼き、美味しいですわね!! わたくし、今度屋敷で開く夜会のメニューにヒレ酒を取り入れますわ!」とすごく嬉しそうだった。
広めたのは私だけど、ドレスやタキシードを着た、ワイングラスが似合いそうな貴人たちがティーカップでヒレ酒をあおる姿…………想像すると違和感すげぇわ。





