24 悪役令嬢に転生した干物女は転生女子のためにシュークリームを作る。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
公爵令嬢が前世日本のキラキラ女子だったよ!
コリンにお願いされて、クレープを作ることになった。
異世界にも一応クレープ的なものは存在する。ただし、野菜や燻製肉、チーズを巻いて食べるガレットというやつだ。基本、生地に砂糖は入れない。映え系おしゃれスイーツが好きな女子にはきつそうだ。
この世界、魔法技術はあれど、食糧事情は現代日本より遅れている。
庶民のお宅に冷蔵庫なんてないし、生クリームなんてそう簡単に手に入らない。
遠心分離機が開発されるのを待つ……なんてのは無理無理。
一応搾りたて牛乳を丸一日低温のところで保管すれば、上澄みである生クリームと、乳成分が薄くなった牛乳に分離する。
24時間待ってもらうのはかなり無理があるから、代替案だ。
カスタードクリームのクレープを作ろう。
キッチンの魔法冷蔵庫から、領地直送の牛乳とたまごを取り出す。
「クリティア、何を作ってくれるの?」
コリンが鼻歌をうたう。音感とリズム感が壊滅的なのか、原曲がわからん。
「カスタードクリームのクレープを」
「あら、それはいいわね! うちのシェフに頼んでみたんだけど、ガレットに砂糖を入れるなんて正気ですか? って言われちゃって」
「私が料理を始めた時もそんなもんだったわよ。日本食とここでは食文化の常識が違いすぎて、みんな最初に見せたらびくついてたわ。タコをみてモンスター扱いだし」
「タコのカルパッチョ美味しいのに、知らなかったなんて損してるー」
さすが銀座に行く女子。思いつくタコ料理がめっちゃオシャレ。私はタコ焼きかタコの唐揚げだったのに。
こうして日本の話をする相手はミゲルしかいなかったから、新鮮だな。
話しながらカスタードクリームを作る。
たまごを卵白と卵黄に分けて、ボウルに卵黄だけ集めて砂糖とよく混ぜ合わせる。
滑らかになってきたら小麦粉を少しずつふるって加えていく。
こう、材料が混ざり合っていくのを見ていると楽しいのよね。いい感じ。
鍋で牛乳を温めて、沸騰前にとめる。
このぬるい牛乳を少しずつ、ボウルの卵液に足して、混ぜ合わせる。
ボウルで混ぜたものを鍋で温めなおして、滑らかになったらOK。
バニラエッセンスはないけれど、近い香りのハーブがあるからそれを入れる。
クレープを焼く間、冷蔵庫で冷やしておきましょう。
「クリティア、クリティア。これ、ちょっとだけなめてみていい? カスタードクリーム、すごく懐かしいわ」
「ちょっとだけならいいわ」
ヘラにくっついた分を小皿に盛ってスプーンを添える。コリンはちょっとなめて満面の笑みになる。
「うふふ、おいしい。昔お母さん……前世のお母さんだけど、貧乏なのに誕生日は必ずシュークリームを買ってきてくれたのよ。生クリームのない、カスタードクリームだけの安いやつね。でもあたしにはごちそうだったわ」
「そうなのね」
母親との、幼い日の思い出を語るコリンはさみしそうだ。銀座のセレブメニューを語るときよりよっぽどいい顔をする。
「まだクリームを作っただけだから、今日は予定変更してシュークリームにしましょうか」
「えええっ」
コリンがパッと顔を上げる。嫌って顔ではないからシュークリームでいいな。
「シュー生地を作ったら、あなたもクリームを詰めるときに手伝って」
「えー。あたし、お客様で公爵令嬢なのに」
「前に同じことを言った次期伯爵がいたけど、問答無用で手伝わせたわよ」
「ってことはミゲル? あの天使に料理させる人間がいるなんて」
私たちのいる世界のミゲルは転生者で、しかも中身がヒモ男ってことは言わないほうがいいのかもしれない。乙女の夢を壊しちゃいけない。
「それでねー、あたしモデルになりたくて東京に行ったんだけどオーディション落ちまくって、あきらめて就職して、たまの贅沢が銀座のスイーツだったの」
「へえ、私は東京に行こうって思わなくて県外に出なかったの。ガッツがあるのねあなた」
コリンが上京する前の話を聞いてシュー生地を作る。
鍋に水と油と塩と砂糖を入れて、火にかけながら混ぜていく。沸騰したら小麦粉をふるっていれる。
ヘラでよく練って、ひとまとまりになったら火からおろす。
「わ、だんだん香りがシュークリームっぽくなってきた! まだ食べちゃダメ?」
「だめよ」
さっきの分けていた卵白と、新しくたまごを追加で入れて混ぜる。滑らかになったらあとは焼くだけ。
焼き菓子を作るときにも使う鉄板に生地を少しずつ落として、石窯で焼く。
焼けるのを待つ間も、コリンが椅子に座って足を揺らして鼻歌を歌う。
「ずっと歌っているけど、それ何の曲?」
「曲名は知らないわ。お母さんがよく歌っていたからあたしも覚えただけだもの」
無邪気に笑うコリン、前世でもこんな感じで自由気ままな子だったんだろう。
「あ、焼けたんじゃない、クリティア。すっごくいい香り!」
窯から生地を取り出して粗熱が取れるのを待つ。しっかり膨らんでいておいしそうだ。
冷蔵庫を見れば、クリームもいい感じに落ち着いている。
半分に切ってクリームを入れて、いただきます。
「おいしい! サクサクで、クリームが甘くて。ありがとうクリティア。お母さんと食べたシュークリームみたい」
「喜んでもらえてよかった。またいつでも遊びに来なさいな。元の世界の話をできる相手ってなかなかいないから」
「もちろんよ。次に来るときはお礼の品とお土産をたんまりもってくるわ! だからまた作ってね」
口のまわりをシュー生地の欠片とクリームでべたべたにしながら、コリンはとてもうれしそうに笑った。





