21 悪役令嬢に転生した干物女は屋台グルメで国王夫妻をおもてなししたい。
前回までのあらすじ。
肉屋のコロッケはふるさとの味!
両陛下にWASHOKUを振る舞う日がやってきた。
キッチンカーの調理器具や冷蔵庫など念入りに確認して、いざ王城へ。
国王陛下も妃殿下も、この日のために時間を調整してくれて、いま城の庭園には私達キッチンカー隊、両陛下、カインと陛下たちの側近や侍女が揃っている。
もちろんキッチンカー隊は汚れても問題ないように全員ジャージ装備だ。
クロムは最初「嫌だ」と渋っていたけれど、私が無理やりジャージを着せた。
日本円換算一着50万円超えそうなテーラー製スーツに揚げ油でも飛ぼうものなら、恐ろしくて私が倒れる。
ドレスやドレススーツはあくまでも正装。調理向きじゃない。
キッチンカー2台を広げて立食用のテーブルもいくつか用意してもらい、予行演習どおりみんなで手分けして料理していく。
集まった方々が
「本当に貴族の子息令嬢が料理なんてするのか?」
「使用人に用意させたものを出すだけでは?」
という反応だったけれど、偏見なんて実力でぶっ飛ばす。
貴族は料理しないなんて考えふっ飛ばすのだ。
連携プレーで手際よく調理して盛り付ける。
「どうぞ、陛下。コロッケです」
「わたくしのおにぎりも美味しくできましたわ」
「わたしもタコ唐揚げ、自信ありですわ!」
多めに用意したので側近や護衛、侍女の皆さんにも振る舞う。
「あなたたちもどうぞ」
「そんな、わたしたち使用人が主である陛下たちと同じ場で食べるわけには」
「そういう偏見を払拭するためにこうしてあなたたちにも振る舞うのです」
私はコロッケを手に力説する。
「美味しいものを食べるのに国境も身分の境界もありません。美味しいと言い合える、それでいいのです! カイン殿下が陛下たちにも城下の味を知ってほしいと言ったのはそういうことも含めてです」
カインに目配せすると、カインも深く頷く。
「そうだよ、父上、母上。市場で食べ歩きする人たちは、上司とか部下とか、そういうのをなしにみんなで美味しいと言いあって、笑い合っているんだ。ぼくはそういうのがすごく好きだって気づいた。馬車で通り過ぎるだけじゃ、国民の生活のことなんて何もわからないんだよ」
カインはミラの手からおにぎりを受け取って、大きな口をあけてほおばる。
「うん、いい塩加減。美味しいねぇ」
「それはようございました。わたくし、屋敷の調理場でも、何回も作って練習したんです。爺やも婆やも美味しいって泣いて喜んでくれて、それが嬉しかったです」
ミラが笑い、ヨイもお皿にタコ唐揚げを並べて誇らしげだ。
「わたしも、タコを料理できると知ってからは、漁師たちと話すことが増えたんです。タコだけでなくもっと魚の料理を広めたら、観光客や港の働き手が増えるんじゃないかって。一緒に試作して、港のレストランのメニューにも取り入れて、今では名物料理です」
クロムも手伝いをやりきっていい汗をかいている。
「おれもよくお忍びで市場に行くけど、庶民の日常を知るのにすごくいいよ。最近日照りが続いて野菜があんまりとれないとか、そういうの聞けるし。あと単純に屋台の飯立ち食いするのは気兼ねなくできていい。四六時中、お行儀お行儀って言われるの疲れるからさ」
ミゲルもカインへのフォローのつもりなのか、あけすけに言う。
さすが元庶民の日本人、いつもピシッとした格好で気を張っているのは疲れると言い切った。
みんなの言葉を引き継いで、私ももう一度伝える。
「……というわけで、今この場では、身分関係なくみんなで楽しく食べていただきたいです。両陛下」
「ううむ、そうだな。この量は二人だけでは食べ切れない」
「そうですわね」
陛下も妃殿下も、側近たちも。私たちの言葉に押されてそれぞれおにぎりやコロッケ、タコ唐揚げのピックを持つ。
陛下が一口食べたのを皮切りに、他の人も一人また一人、屋台メシを口に運ぶ。
「ホクホクしてる。うまいな、これ!」
「これがおにぎりか。素朴でおいしいね」
「美味しい! あちちち、こんな歯ごたえのあるもの初めて食べたわ」
食べ物だけでなく、冷やしたウローンティーや緑茶、ビールなんかも用意してある。
みんな笑顔で、これも試してみよう、と他のメニューに手を出す。
山盛り作った料理は、あっという間に減っていく。
侍女と側近が唐揚げの話をしたり、妃殿下と侍女がコロッケをはんぶんこしたり。
キッチンカー隊も作り終えたら、食べる側の輪に加わる。
「腕を上げましたわねヨイ様!」
「クロム様のサポートあってこそですわ」
「クロム、ほらほら、おれが作ったコロッケ食べてみなよ。店出せるくらい美味しいから!」
「わかりましたよ、ミゲル様。それではひとつ……」
そう、私はこういうのをやりたかったんだ。
美味しいねって笑いあう、身分関係ないたわいないやりとり。
私もミラ製おにぎりを手に取る。
固すぎなくて、程よくほぐれる、ウメー。タコ唐揚げもひとつパクリ。
ここには母上がいないから、ビールも飲んじゃう!
プハーーーっ!
唐揚げを噛みしめていると、妃殿下に話しかけられた。
「ありがとう、クリティアさん。どの料理もとても美味しいわ。頭ごなしにカインの行動を否定したことを、反省しなくてはいけませんね。こうしてみんなで食べるのは、とても楽しいのね」
「恐れ多いです。楽しんでいただけたなら、みんなで作った甲斐があります」
カインの気持ちが届いて何より。
「クリティアさん。カインと結婚する気はありません? あなたならこの子の手綱を握ってうまくやっていけそうな気がしますわ」
「ぶふぉ、ゲホ、ゲホ。な、な、何を言い出すんだ、母上」
隣でコロッケを頬張っていたカインが、おもいきりむせた。
そっとウローンティーを渡すと、一気に飲んで息を落ち着けた。
結婚なんてワード久しぶりにし聞いたわ。私は、結婚するなんて今のところ考えていない。
「申し訳ありません妃殿下。子爵家の娘にすぎない私に、そのような大役はつとまりません。辞退します」
ニッコリ笑顔でごめんなさい。
飲み仲間ならいいけど、結婚はノーセンキュー。
カインを好きか嫌いか以前の問題。
国を背負うなんて私には無理。
王妃様にすごく残念そうな顔をされた。
「……主従関係にある使用人ならいざ知らず、他家の子女が率先して人の仕事を手伝うところを初めて見ました。雇ったのではなく、ミーティア家の姉弟もユージーン家のお嬢さんも、自分の意志でクリティアの手伝いにいらしたのでしょう。人を惹きつける……めったにいない逸材だと思うのだけれど」
カリスマみたいに言われても、みんな友だちで、優しいから手伝ってくれているだけ。
「それは私の力ではなく、皆さんが優しいからです。国を導いていくパートナーは、カイン殿下自身が選ぶべきだと存じます。何事もなければ長い人生ともに歩むのですから、人に押し付けられたパートナーでは長続きしないでしょう」
「王太子との縁談を辞退する人なんて初めてよ。あの舞踏会でカインにダンスを申し込んでいた令嬢たちなら、喜んで結婚しますと即答していたでしょうに……」
婚活のためにパーティーにいた人たちは、そうでしょうね。
私は結婚したくてあそこにいたわけじゃないからゴメンナサイ。
「ちょっとまったーーーー!! おれのほうが先に婚約申し込んでいるんだから殿下は遠慮してよ!!!!」
横槍が飛び込んできた。
「ミゲル。きみ、生意気って言われない?」
「貴方のそばにいられるだけで幸せ! ならよく言われたよ」
天哉時代の話だろそれ。
「ミゲル。それはとっくの昔にお断りしたはずだけど。何か喋るなら、口の中のものをちゃんと飲み込んでから言いなさいな」
「諦めてないから! おれが養ってもらうんだから殿下は引っ込め!」
「わー。根っからヒモ」
さっきまでコロッケと唐揚げを貪っていたから、ミゲルの口はベタベタだ。
「がんばってミゲル。わたくしクリティア様が義妹になるのは大賛成でしてよ!」
おおっと、ミゲルに思わぬ応援団が現れた。
ミラが義姉になるのはいいけれど、ヒモが夫になるのは嫌だな。
「もしくは陛下が法改正で同性婚を認めてくださるなら、わたくしがお姉様を幸せにします!!」
思わぬライバルが現れて、カインとミゲル……そしてクロムが同時に叫んだ。
「それはだめ!!!!」
みんな、当事者の私をそっちのけで誰が夫になるか論争をはじめた。
うーん、巻き込まれると厄介だから私は端っこでビールを飲んでいよう。





