19 悪役令嬢に転生した干物女は飲んだくれ王子から依頼を受ける。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
緑茶ときなこ餅は最強のコンビ!
私とカイン王子が飲み仲間になったのを覚えているだろうか。
今日、母上の許可を取って久々にキッチンカーでおにぎりを売っていた。
酒を一滴も飲まないなら、許してもいいと譲歩された形だ。
酒を飲まないツマミなんて、肉のないハンバーグみたいなもんだよ!?
それでも料理をすることを許してもらえただけ……よくない、よくないよ。
私から酒を取るなんてひどいわ母上。
落ち込み気味でおにぎりを売っていたら、珍妙な客が「これで買えるだけくれ」
と言ってお札を出した。
枝豆カラーのアフロをかぶり、三角に折ったハンカチマスクで口を隠し、舞踏会の仮面をしたジャージ姿の男だ。
対面してしまったルールーが、おぼんを持ったまんま叫んだ。
「ぴぎゃっーーー!!!! ヘンタイですのーーー!!!! 警備さんコノヒト逮捕ですのーー!!!」
「ぼ、ぼくは変態ではない。ただの酒を愛する客だ!!!!」
コッソリ来るとは思っていたけれど、こんな格好で来るとは思わなかったから、フォローの言葉が浮かばない。
この人は私達が暮らす王国の次期国王様なのよって……………言えねぇ!!!!
「お客様、失礼ですがちょっと顔貸していただけませんこと?」
「これかい?」
「お面じゃない!」
倉庫に引っ張っていってアフロと仮面を剥がした。
「おしのびなのに! なんで! わざわざ! 目立つ格好をするんですか!?」
「え、忍べてない? ぼくの要素をすべて打ち消せば溶け込むと思ったのに」
「溶け込むどころか浮きすぎて、通報されるくらいに怪しいです」
まあ王子様だし、お忍びで食べ歩きしたいなんてこと、相談する相手なんているわけがないか。
カインはアフロを抱えて落ち込んでいる。
「前にお忍びで来たのがバレて、父上と母上にすごく怒られてしまったんだ。毒見役も連れずに恐ろしいことするな、庶民に混じって路上で飲み食いしてはいけない行儀が悪い、って。母上が青ざめて倒れたんだ」
「我が家も最初はそんな感じだったわ」
「そうだろうね。でもぼく、市井のみんなに混じって屋台で飲み食いする楽しさを知ってしまったから、どうしてもまたここで飲みたくて。テーブルマナーを守りながら飲むワインより、ジョッキで飲むビールがいい」
「わっかる!」
我が家もはじめは反対されたけれど、今やフローレンス家の料理人デールは、自らWASHOKUレシピを研究している。
昨夜の刻みネギ乗せローストビーフ丼は最高でした。
あまりの旨さに酒が欲しくなったが、禁酒されているから飲めなくて血の涙が出そうだった。
「つまり。WASHOKUやジャージのときと同じで、常識を打ち破ればいいと思うのです」
「と言うと……ぼくの父上と母上にも、屋台で立ち食いしてもらうということかな? そうか、実際にやってみて楽しいと共感してもらえたら、少しは許してもらえるようになるのか」
「察しがいいですね」
「これでも王子だからね」
カインはニヒルな笑みを浮かべる。
古狸やらキツネやらが満員電車になっている国政の場、議会を見ているから、相手の言いたいことを推し量る力が培われるのか。
残念なことに、変装にはその察しの良さが活かされていない。
ミゲルみたいに、庶民の服を着て眼鏡をかけるくらいにしとけばいいのに。
「とはいえ、陛下とお后様がいらしたら……警備が物々しくなるでしょうね。視察という体をとっても、みんな気を使ってしまって普段通りとはいかないでしょうし」
「うーん。ならクリティア。キッチンカーで城まで出張してもらえないか。城の庭園内でなら、余計な警備もいらないだろう」
お祭で屋台の他にキッチンカーが出張するのはよくある話。
「わかりました」
「では詳しい日時は後ほど調整しよう」
カインを引き連れてキッチンカーに戻ると、ルールーが飛び跳ねた。
「びゃーーー!! もふもふが!!?? 知りませんでしたの、人間にも換毛期がありますの!?」
そういえばカイン、アフロを抱えてたね。
ルールーが呼んだ自警団が来ていて、カインの肩をぽんと叩く。
「きみ、詰め所まで来てもらえるかな。なぜそんなにも顔を隠して歩いているのかな。何かやましいことでも……」
「え、ちょ、ぼくは怪しいものでは」
「怪しいですの! タイホですの!」
この場で王子とバレるととてもとても大変なことになるから、私は名前は伏せて助ける。
「彼は仕事関係の知人です。私を驚かせようとしてその格好をしてみたそうです」
「この男が、クリティア様のお知り合い……」
まだ怪しんでいる自警団のおじさんが、剣の柄から手を離さず、カインを横目で見やる。
カインは赤べこみたいに激しく頭を上下させる。
「そ、そうなんだよ。クリティアの仕事場を見てみたくて。本当だよ」
「名前は?」
カイン王子だなんて名乗れるはずもなく。偽名を考える余裕もなく、持っていたアフロかつらを見て口走った。
「……アフロン。ぼくの名前は…………ぼくの名前はアフロンです」
これ以降、お忍びで市場に来るたびアフロンと呼ばれることになった。





