13 悪役令嬢に転生した干物女はキッチンカーで焼き鳥を売りたい。
前回までのあらすじ。
ワインとチーズはズッ友だよね。ついでに、飲んだくれアンニュイな王子が飲み友になった。
えー、このたび私クリティアはWASHOKUレシピ本の出版にこぎつけた。
ミーティア家のパーティーで提供した実績もあって、そこで食べた貴族は本を買ってくれた。そして本を買った人から口コミで広まり、売り上げを伸ばしている。
だが庶民にも認知してもらうにはこれだけじゃ足りない。
私の目標、この世界でも普通にレストランで和食が提供されるようになるには、庶民の目にも留まる必要がある。
フローレンス領の市場で、デモンストレーションとしてキッチンカーを出した。
荷車の荷台を魔法具のキッチンに加工して、その場で焼く煮るなどの作業ができる。
え。レストランじゃないのかって?
店舗を経営するって、まず勝算がないとできないもの。
キッチンカー第一弾は、焼き鳥。
焼き鳥は開店前に食べられるほどに焼いておいて、魔法保冷庫に納めておく。注文が入ったら温め直す。
これで食中毒はある程度防げるはずだ。それに焼き立てを提供することができる。
屋敷の調理場担当の使用人、クックを調理補助として連れてきている。
売り子は侍女のジーニャ。この二人、実は夫婦らしい。冷静に仕事をこなしてくれるジーニャに料理上手なクック。最高のパートナーなのね。阿吽の呼吸で準備を手伝ってくれる。
初めての開店から一時間。
物珍しそうに覗いてはくれるものの、買うまでにはいたらない。
お客さんたち安定思考かな。見たことないものは美味しいかどうか分からないから買いたくないって日本でもよくあるものね。
自分で食べて「美味しいよ!」って言うのは……はワザとらしくて怪しまれちゃうか。
悩んでいると、ミラとミゲル姉弟がお忍びでやってきた。
使用人から服を借りてきたのか、ミラの着慣れない感が可愛い。ミゲルは、なんだろ。シャツの胸元のボタンをいくつか外しているせいで、ホストかチャラ男感が否めない。
「お姉様が店を出すと聞いたので、お手伝いできることがあればと思いまして」
「やあやあクリティアー。キッチンカーを出すって聞いたから食べにきたよ! 焼き鳥6本ちょうだい」
「わあ! ありがとう。来てくれて嬉しいわ! さっそく用意するわね」
クックとジーニャが笑顔で焼き鳥を温める。
この日のために作った塩ダレを塗って、もう一度焼く。
出来立て熱々をミゲルに渡すと、一瞬のためらいもなくかぶりつく。立ち食いで焼き鳥を頬張るこの少年が貴族の跡取りだと、誰がわかるだろう。
「ウッっまーーーい! 前にパーティーで出した時はただの塩焼き鳥だったけど、今回塩ダレになったんだね。甘じょっぱくてすんごく美味しいよ!」
「本当。前よりさらに美味しくなっていますわ。お姉様研究熱心ですのね! 肉汁も美味しい。ハフハフ」
ミラも初の屋台で立ち食いを経験して、嬉々としている。
二人がすぐにかぶりついて美味しい美味しいと言ってくれるから、市で買い物をしていた通行人もチラチラこちらを見て、店に並び始めた。
頑固そうなおじさんも、食べた瞬間子どものような無邪気な顔に変わる。
「かーーーー! うめえ! なんだこれは! こんな料理初めて食った!」
「あら、褒めてもらえて嬉しいわ。もう1本いかが?」
「2本……いや、あと5本もらおうか。家で待ってる嫁さんにも食わしてやりてえ」
一人が買って美味いと言えば、さらに次の客も続々と数本一気にお買い上げ。
ありがとうミーティア姉弟。頼んだわけでもないのにからリアクションがテレフォンショッピングみたい。偉業がすごいよ!
「どうも、クリティア。露店でとっておきの料理を売ると聞いたんだが……」
舞踏会の仮面に農夫の服装という、めちゃくちゃ怪しい組合わせの装いの男が現れた。声の感じからして、カイン王子だ。
いいのか、王子がお忍びで焼き鳥食いにきて。
王子だって人の子だし、たまにはジャンクなもの食べたいかもしれない。あえて普通の客として扱ってあげよう。
「どうも。何本にする?」
「これで買えるだけもらおう」
ざっと100本分の札をドンと受け皿に乗せてきた。
屋台の焼き鳥を大人買いする人初めて見た。金銭感覚の狂ったセレブって怖い。
「ちょっと待ったーーーー! それを買うのは僕だ。仮面の変態は下がっていたまえ!!!! クリティア。君の手料理を食べたい。アーンしておくれ!!」
どこかで見たようなお花畑が、列に割り込んできた。
「クック、ジーニャ」
「承知しました」
私が手を叩くと、使用人夫婦が連携プレイでお花畑を列からつまみ出した。
「留学先で何を学んできたのでしょう」
「俺、ああいう大人にはなりたくないなー」
美形姉弟が綺麗な笑顔で辛辣な感想を言いながら、焼き鳥の追加注文をした。
今日も平和だな。





