10 悪役令嬢に令嬢に転生した干物女はタコの唐揚げを食べたい。 ☆挿絵あり
前回までのあらすじ。
親子丼を作っていたらミゲルがめちゃくちゃ食った。
「クリティア様、ユージーン領を助けてくださいませ!」
「何、一体どうしたのですかヨイ様」
ある日、我が屋敷にとある令嬢が飛び込んできた。
ミラの家の夜会でジャージを購入してくれた、ヨイ・ユージーン子爵令嬢だ。
ユージーン領というと港のある国の南部を治めている。
「最近領地の海に魔物が出て、漁師達が困っているんです。ミラ様に相談したところ、クリティア様なら天からの思召で解決できるのではと伺ったのです」
料理を教えるとき、天からの声とか雑な言い訳するんじゃなかったあああああ。
本気で私が神の声を聞き届ける聖女と思い込んじゃったの?
魔物と戦うなんて、普通の人間である私には無理よ。兵士じゃないし、冒険者でもない。
最近の乙女ゲームって、イベント(?)で一般人を戦場に放り込むの?
でも、もしかしたら現代知識でどうにかなるかもしれないし、助けてと言われているのに放置なんてできそうもない。
「ヨイ様。私に何ができるかはわかりませんが、同行しましょう」
「ありがとうございます、クリティア様!」
ユージーン家の馬車に同乗させてもらい、まる三日かけてユージーン領へと向かう。
前世も含めて、海に行くなんて何年ぶりだろう。魚はスーパーで買えるから、釣りなんてしないし、一緒に行く相手もいない。
港に着くと、漁師達が網の前で座り込んで頭を抱えていた。
パッと見モンスター的な何かが出た気配はない。誰も怪我していないし。
けれどヨイの護衛剣士は魔物を発見したようで抜刀。
「ヨイお嬢様、クリティア様、お下がりください! 今回の網にもかかったようです。なんと不気味な姿なのだ。頭から直に足が生えているなんて」
「そんな! このままではユージーン領はおしまいだわ!」
跳ねる魚に混じってうごめいているのは、タコだった。
私が食べたくて仕方なかったあれ!
「落ち着いて、みんな。こいつは魔物じゃないわ。魚の一種でタコというの。食べられるわ」
「た、食べる? こんな気持ち悪いウネウネをですか!?」
そういや現代でも欧州あたりではタコを悪魔の魚って呼んでいたわね。
食文化の違いはやはり異世界でも同じかぁ。
「食べてみればわかるわ。美味しいのよ」
這って海に逃げようとするタコを、そこらにあった鉤爪で刺してゲッチュ!
逃がさないわよタコ。あなたはこれから私の胃袋に入る運命にあるの。
っと、ここだけ聞かれたら私、悪役。
「鍋を用意していただける? 塩と小麦粉と油、あと、調味料をいくつか」
「は、はい」
護衛として連れてきた我が家の使用人が、道具を揃えるために走り出した。
シゴデキな我が使用人クック。調理場の下働き。三〇分足らずで用意してくれた。
タコを見てガクブルするみんな。食べ物だと認識していない不気味な生き物を嬉々として調理しようとしている私、側から見たらヤバい人ですか。
まあいいわ。おいしいタコ料理を食べたいもの。
包丁で頭と内臓を取り、塩でぬめりをとって洗う。
っと、死んでからも動いてんのよね。足が手首にまとわりついた。ジャージだから無問題。汚れない。
「あ、危ないですわクリティア様! 逃げたほうが」
「うふふ。大丈夫よー」
包丁で足もぶった切る。
ボウルに少量のワインと臭み消しに生姜みたいな味の根菜をすりおろして入れる。あと塩。
水気を拭き取ったら小麦粉をまぶして、熱した油に投入!
跳ねる油、一気に赤くなるタコ、ギャラリーから上がる悲鳴。
「できたわ! タコの唐揚げよ!」
豪快に皿に盛り付ける。
ああ、ようやく出会えたのねタコ。わさびがあればタコわさを作れて完璧だったんだけど、それはいつか別の機会に探しましょう。
ピックで刺していただきます。
プリップリで超美味しい。唐揚げ大好き! 手が止まらない悪魔的なうまさだわ。
ついでに木製ジョッキのビールをグイッと一杯。かーーっうめーー!!!!
「さ、みなさんもどうぞ。味は保証するわ。ほら、私が食べても何にも起こらないでしょう」
「クリティアお嬢様がそう仰るなら、食べないわけにはいきません」
私の奇行に慣れているクックは、ピックを渡すと一口で食べた。
「アチチチ、わ、美味しい! お嬢様、すごく美味しいです!」
「そ、そんなに美味しいんですか? では、わたしも一つ……お、美味しい! このタコというのは見た目は化け物だったのに、こんなに美味しくなるんですの!? 本当に、魔物ではなかったのですね」
「魔物どころか、貴重なタンパク源よ。調理法をきちんと広めればみんな食べてくれるようになるわ」
タコ料理も何品か料理本に収録しないとね。
「わたしたちだけでは、怯えるだけで何もできませんでした。やはりクリティア様は食神に愛された聖女様なのですわ」
悪役令嬢から一転、私は食神の天啓を聴く聖女になったらしい。
なぜだ。





