85 地下に潜む魔王的な何か
大変長らくお待たせしました!
更新を再開します!
久しぶりの更新なのでおかしな点が多いかもしれませんが、ご容赦ください!
穴に落下して行ったランコを追って、俺はダリの筋肉エレベーターで後を追った。
長い縦穴を抜けた先にあったのは薄暗い地下空間。
ダリに潰された以外特にダメージの無かったランコとも無事に合流し、俺達は探索を開始した。
▽
ランコと合流した場所は、ちょっとした広さの空間があった。
奥に続いていそうな通路があったのでそこに入ってみることにした。
掘って作られた通路のようなものは、壁が所々光っていて暗くはない。
土の中に含まれた石がぼんやりと光を放っているようだ。
とはいえ、とても薄いのではっきりと見通せる程でもなく、足元や少し先は暗い。
「二人とも、足元には気を付けた方がいいぜ。俺の腹筋並にデコボコしてらぁ」
「わっ、あ、足元が歩きにくくって仕方がないです。こんなフィールド初めて歩くので、転んじゃうかもしれません。ダリさんの腹筋ってこんななんですか!?」
ランコは幸運特化で、クラスも≪錬金術師≫という商人の系統で戦闘には特化していない。
だから狩りに出る機会も少なく、こういう足場の悪い場所に慣れていないんだろう。
「おう、オレの腹筋は超ボコボコしてるぜ!」
「見たいような見たくないような、わわっ」
「ランコさん、大丈夫ですか?」
「ととと……あ、ありがとうございます」
ダリのよくわからない例えに興味を示したランコが転びそうになったので、咄嗟に腕を掴んだ。
そのまま体勢が整うように支えていると、ランコがにっこり微笑んだ。
「ダリさんの言う通り、気を付けてくださいね」
「はい、ありがとうございます! そうだお姫様、手を繋いでいてもらってもいいですか? このままだといつ転んでもおかしくないので」
「えっと、はい、いいですよ」
「ありがとうございます!」
ランコの腕を掴んでいた手を一度離し、手を取った。
華奢で、ほっそりとしていて、少しひんやりしている。
ゲームだっていうのに感触がはっきりしていてちょっとドキッとした。
何せ、女の子と手を繋ぐなんて経験ほとんどないからな!
しかし、今の俺はお姫様。
女の子と手を繋いでドギマギするなんて、許されない。
挙動不審になるなんてそんな童貞オッサンムーブは見せられない。
鎮まれ俺の童貞。
パーフェクトなお姫様を取り繕うんだ。
「お姫様? どうかしました?」
「いえ、なんでもありませんよ。それじゃあ先へ進みましょう。ダリさん、先導お願いします」
「おう、任せとけ! 右腕をご覧くださーい。こちらが、上腕二頭筋でございまーす!」
「うわぁ、すっごい筋肉!」
なんとか誤魔化せたようだ。
「お、この先はひらけてるっぽいぜ姫さん」
しばらく歩くと、ダリが立ち止った。
通路が途切れて空間があるのが分かるが、暗くてよく見えない。
ここまで来て引き返す選択肢なんてある筈もない。
「いきましょう」
「おうさ」
ダリは素直に、通路の先へと踏み出しだ。
俺とランコも後へ続く。握ったままのランコの手に少し力が入っているのが分かる。
三人共が通路の先へ入った瞬間。
ボッ、っと音が鳴った。
「なんだ!?」
「わわわわわ、な、なんですか!? 幽霊ですか!? それともブラックギルドの元ギルメンが落とし前を付けに来ましたか!?」
ランコが狼狽えている間にも音は連続した。
それは、設置してあったトーチに火が灯って行く音だったようで、見る見るうちに空間が照らされていく。
トーチはまるで通路を作る様に左右に一本ずつ、それが等間隔で奥に伸びている。
更に正面は何段か高くなっており、そこには大きな椅子と、そこにふんぞり返っている何者かが居た。
「な、何かいますよ! サブマスですか!? それとも、ギルマスですか!?」
「落ち着いてくださいランコさん、多分元ギルメンじゃないと思います」
「強そうな奴だな。オレの筋肉が武者震いしてやがるぜ……!」
『よく来たな』
ランコにツッコミを入れつつ、もっと近づいてみようと思ったところで、何者かが口を開いた。
まだ結構距離があるのに声ははっきりと聞こえた。
どうやらプレイヤーではなく、NPCのようだ。
何かのイベントを引き当てたらしい。
「あれ?」
「姫さん、横だ!」
「え」
ふと、男の姿が消えた。
バグでも起きたかと思ったら、ダリの警戒するような声。
なんと、すぐ横にその男は立っていた。
真っ黒い長髪に、中二病真っ盛りの人が好きそうな黒い魔王っぽい服。
頭には大きなヤギみたいな角が二本生えてて、顔は厳つい。
やばい、やられる。
しかし、攻撃してくる様子はない。
それどころか、呆けたような笑顔になった。
『いやほんと良く来てくれたよマジ! 君めっちゃ可愛いね、結婚しない?』
「嫌です」
『あっはー! そりゃこんなに可愛いもんな、よっしゃ、おっちゃんが良いものあげよう。お近づきの印だと思って受け取ってよ』
「ええ……」
なんかものすごく軽かった。
ランコもダリも、びっくりしたまま固まっている。
俺も、呆れたような溜息が勝手に口から出てしまうレベルだ。
『勿論、他の二人にもあげるから安心して。おっちゃん、懐広いし太っ腹だからね。あ、勿論無駄な贅肉はついてないよ? あははははは』
「あ、はい」
『やっぱりスキルかなー。今までにない方向性のものをめっちゃ補うのと、今の方向性を更にめっちゃ強化するの、どっちがいい? 三人共好きな方を選んでくれたらいいよ』
どうやら、スキルをくれるらしい。
流れが怪しい。余りにも雑すぎる。
こんなのでスキルがもらえるなんて、真っ当なゲームじゃありえないだろ。
とはいえ、今までも割とそんな感じだった気がする。
今回もクエストをサクッとクリアしてしまったんだろう。
考えても仕方ないし、どっちを選ぼうか。
短所を補うか、長所を伸ばすか。
それなら長所を伸ばす一択だな。
尖って尖って尖りまくって、究極の一を目指すんだ。
「わりぃ、ちょっといいか?」
『どうした筋肉ダルマ君? 何か質問かい?』
「おいおい筋肉達磨だなんて、照れるじゃねぇかよ」
「そこは照れるとこなんですね……。筋肉達磨って、褒め言葉でしたっけ」
「ダリさん的にはそうみたいですね」
『褒めたつもりはなかったんだけどなぁ。まぁいいよ、で?』
「オレの分を姫さんに譲ることって出来るか?」




