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84 次は、地下一階でございまぁす!!


 歓迎会の狩りの最中、ランコが突然現れた穴へと吸い込まれるように落ちて行った。





「どうしましたお姉様!?」


 俺とランコの声を聞いて、リリィが駆け寄って来た。

 他のメンバーも何事かと集まっている。


「ランコさんがこの穴の中に」


「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!!」


「ああ、ランコ殿の声がどんどん遠ざかっていくでござる」


「ランコちゃーん!」


「深そうだなこりゃ。こんな穴、さっきまであったか?」


「僕は気付かなかったですね」


「落ちる瞬間を見てましたけど、穴はそこの岩で隠れてたんです。ランコさんが触った瞬間にすーっと動いて、それで穴に……」


「お姉様の危険を感じて自ら飛び込んで行ったのね。なんて立派な心がけなのかしら。そこの筋肉達も見習って飛び込んでもいいのよ」


「多分違うと思うんだけどなぁ」


 皆が思い思いに話している。

 ランコは無事だろうか。


「助けてくださいいいぃぃぃぃぃ…………!」


 穴の中から、ランコの悲しげな叫びが聞こえてきた。

 なんとか無事なようだ。

 流石に放っておくのも可哀そうなので、ランコを助けに行かないと。


「ダリさん!」


「おう!」


 穴の直径は二メートルくらい。

 ダリは俺の声に短く答えると、穴に向かって倒れ込んだ。

 そして、身体が落下を始める前に腕と脚を壁面に突っ張って身体を支えた。


 まさか名前を呼んだだけで俺の考えが伝わるとは。

 言ってみるもんだな。


 感心しながら俺はダリの背中に立つ。

 その行動に驚いたのか、リリィが愕然とした顔をしていた。

 悪いなリリィ、この筋肉、一人乗りなんだ。


「お姉様!?」


「リリィさん、向こうに着いたら連絡します。それじゃあダリさん、行きますよ!」


「あいよ! 秘技、筋肉エレベーター!! 下へ参りまぁす!!」


 ダリは裏声で謎の台詞を言いながら、四肢に込めていた力を緩めた。

 その瞬間、ダリの身体が落下していく。

 これぞ筋肉エレベーター。

 俺の視界は一瞬で、真っ暗な地下へと(いざな)われた。



 ▽



 ザリザリザリザリ、と何かを削るような音を響かせながら筋肉で出来たエレベーターは下降していく。

 これは、ダリが両手両足を穴の壁面に擦らせている音だ。

 

 落下スピードを維持しつつも、身体が傾いたり、俺が落ちたりしないよう己の肉体で調節してくれているのだ。

 ついた両手がじんわり生暖かい以外は乗り心地も快適だ。

 すごいぞ筋肉エレベーター。

 こんなことが出来るのは、≪体力≫極振りでとんでもない防御力を備えたダリだけだ。


「姫さん、下に何か明かりが見えるぜ?」


「ほんとですね。あれは一体……」


 身体を水平に保つ為にダリが手足で調整しているとはいえ、俺達は結構なスピードで落下を続けている。

 そんな中、ダリが下に何かを見つけたらしかった。

 俺も慎重に下を覗いてみると、灯りのようなものが見える。


 段々近づいてきたことで、それが何かはっきりと確認出来た。

 松明を掲げたランコが、穴の真下に立っていた。


「あわわわわわわわ! 筋肉のお化けが降ってくるううううぅぅぅぅ!!」


「ダリさん、ブレーキ! ブレーキ!!」


「げっ! そこどけ! 危ねぇぞ!」


 松明の灯りは長く続く穴の先にあったせいか、距離感が掴めていなかった。

 そのせいで、やっとそれが何か確認する頃にはかなり近づいてしまっていた。


 しかもランコはパニックになってしまったらしく、悲鳴を上げるだけで逃げようとしない。

 慌てて筋肉エレベーターにブレーキを指示。

 言いながら、思わず背中をペシペシ叩いてしまう。

 このままのスピードで激突すれば大惨事は間違いなく、俺も必死だ。


「ふんぎぎぎぎぎぎ――!」


 ゴギャギャギャギャギャ!!


 今まで以上に派手な音を撒き散らし、スピードが遅くなっていく。

 これならなんとかなる。

 そう思った。


「げっ」


「あっ――!」


「ぐべっ!?」


 思ったんだけど、完全に止まり切る前に穴の方が途切れてしまった。

 空中に投げ出されたダリは、ランコに見事なボディプレスをかました。

 潰れたカエルみたいな悲鳴が聞こえてきた。


「ふぎゃっ!?」


 更に、一瞬遅れて俺もダリの背中に着地したが、ダメージを受けたのはランコだけだったようだ。

 申し訳ない。


「すみません、今どきますね」


「姫さんは無事みてぇだな。完璧に止まるつもりが、タイミングを見誤ったぜ、すまねぇな」


「いえ、お陰で無事に辿り着けました」


 ダリの背中から降りると、ダイナも立ち上がった。

 あれだけ激しい音がしてたのに大したダメージは受けていないようだ。

 流石ウチのメイン盾。


「うぅ……」


「あ、ランコさん! 大丈夫ですか!?」


 一瞬忘れかけたが、俺達はランコの救出に来たんだった。

 うつ伏せで倒れているランコの側でしゃがみ込んで確認してみる。

 うん、辛うじてHPは残っているな。 


「さっきまでは大丈夫でした……」


「わりぃわりぃ。止まり切れなかったぜ。けどよ、穴の下から避けてくれりゃあぶつからずに済んだんだぜ? 筋肉は急には止まれない、ってよく言うだろ?」


「うぅ、確かに、車に()かれそうになった猫の如く身動きが取れませんでした。これからは筋肉が降って来たら必死に逃げます……」


「おう、そうしてくれ。オレも気をつけるからよ」


 ランコとダリの話し合いは一応終わったようだ。

 今は内容にまでは突っ込むのは止めておこう。


「ランコさん、無事で安心しました」


「姫様、助けに来てくれたんですね! ありがとうございます! もうダメかと思い、うぅ、おもいまじだー!」


「泣かないでください、もう大丈夫ですから」


 突然号泣し出したランコをなだめる。

 頭を抱いてやってしばらく撫でることで、ようやく落ち着つかせることが出来た。


 その間に、リリィにはメッセージを送っておいた。

 特に危険は無さそうなのでしばらく探索してから戻ることを伝えると、戻りやすいようにロープでも用意してくれると返事が来た。

 これで帰りは何とかなりそうだ。


「うぅ……それで、ここはどこなんでしょう?」


「どこなんでしょうね。≪東の森≫にこんな場所があったなんて、二人は何か聞いてましたか?」


「いえ、聞いたこともありません」


「狩場はダイナの奴がよく調べてるけど、こんな場所聞いたことねぇな」


「そうですか」


 そうなると、ここは特別な空間の可能性が高い。

 単純にダンジョンなのか、それとも何かのイベントやクエストだったりするのか。

 どれにせよ、隠されていたのは間違いない。

 これは、探索してみるしかないな!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 筋肉エレベーターふいたー。。わらえる。。 [一言] この小説はおわっちゃってるけど次回作も期待しています^^
[一言] >悪いなリリィ、この筋肉、一人乗りなんだ。 >じんわり生暖かい >すごいぞ筋肉エレベーター。 >悲鳴を上げるだけで逃げようとしない。 >慌てて筋肉エレベーターにブレーキを指示。 >言いながら…
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