83 それぞれの役割
俺達は、ランコの歓迎会を開くことにした。
全員が問題なく集まれる時間にギルドホームのリビングに集合し、アズにお願いしてランコを引っ張って来てもらったのだ。
ランコは工房をとても気に入ったようで、ギルドに加入してからというもの、プレイ時間のほとんどをそこで過ごしていた。
ほとんどのメンバーとの顔合わせすらまだだったりしたので、歓迎会を全員が集まれるタイミングでの開催と相成ったのだ。
総勢八名となった我がギルドの自己紹介は、中々にカオスだった。
揃いも揃ってキャラが濃い。
正に個性のミックスジュース。どれだけ混ぜてみたところで、混沌とした色合いを保ち続けるに違いない。
そうして無事に顔合わせを済ませた俺達は、全員で一層の≪東の森≫へと向かった。
皆で行う狩り。
これこそがオンラインゲームにおいての歓迎会だと、リリィ達に教わったのだ。
▽
スターレの街から東へ二マップ。
そこに広がる暗く深い森こそが、明らかな高レベル帯狩場である≪東の森≫である。
ここに出現するモンスターはどいつもこいつも凶悪な外見と強さを持っていて、今の俺達でも適性レベルに達しているかは分からない。
しかし、えげつない面と攻撃力と引き換えに、魔法防御は低いようだ。
レンの最大火力である≪空間爆縮≫をぶち当てれば、一撃で倒すことが出来る。
最悪の場合は≪プリンセス・ボックス≫からの≪空間爆縮≫の圧縮箱コンボで処理は可能だ。
とは言っても、注意するに越したことはない。
同時に沢山の数に襲われると捌き切れないからな。
「こ、こここここって東の森ですよね? それはもうえげつないモンスターしか出てこないって聞いてたんですけど、大丈夫なんですか……!?」
「大丈夫じゃないと思うのならお姉様を守る手段を考えておきなさい。≪最強可愛い姫様のギルド≫の一員になったからには、その身がどうなろうともお姉様をお守りするのよ」
「い、イエッサー!」
「サーは男性への敬称よ。返事はイエスマム、いいわね」
「イエスマム!」
「よろしい」
陣形は、先頭にサンゾウ。
続いてダイナとレン。
その後ろに私とアズ。
更に後ろにはリリィとランコが続き、ダリが殿を務める。
俺が必死に考えた、真面目な陣形だ。
ここのモンスターは攻撃力が高く数が少ないので、アクロバティックな動きで攻撃を躱すことの出来るサンゾウが回避盾として先頭を歩く。
「そろそろ何か出て来て欲しいでござるなぁ。この場所のモンスター達の攻撃を凌ぎ切ってこそ、成長が実感出来るというものでござる」
「抱えた後は僕達に任せてください。姫様から賜ったこの大剣を全力で叩き込みます!」
「僕も頑張るけど、なるべく巻き込まないように気を付けるね」
「多少の誤射は拙者も頑張って避けるでござるから、肩の力は抜いて大丈夫でござるよ」
「分かった、ありがとね」
ダイナとレンは言うまでも無く、火力担当。
サンゾウが抱えているモンスターを殲滅するのが役目だ。
「ここの素材で装備作りたいって思ってたんだー! 楽しみ!」
「それは丁度良かったですね。なるべく沢山拾って帰りましょう」
「うん!」
俺は全体への支援と指示出しの為と、危険が一番少ないということで真ん中へ。
アズは素早くアイテムを回収する目的と、非戦闘員という理由で俺の隣にいる。
あとに続くリリィとランコも同じ立場なのだが、流石に四人横並びは移動に難が出る。
その為、二人はやや後方を歩くことになった。
「お姉様はこの世の全てよりも尊いのよ。理解出来るわね?」
「はい! お姫様はこの世の全てよりも尊いです!」
「それじゃあお姉様がピンチになった時にどうする? そのピンチは、戦闘向きじゃない貴女では絶対にどうすることも出来ない相手よ」
「全身全霊を持って身代りになります!」
「正解よ。私達はその為にここにいるのだから。期待してるわね」
「はい、頑張ります!」
「返事は?」
「イエスマム!」
本当に理由はそれだけだろうか。
万が一の時は身代りになる為に、後ろにいるんじゃないよね?
あとなんかやりとりが怖い。
きっとジョークだろうからツッコミを入れたいけど、もしも本気だった時に精神がやられそうだからそっとして置くことにした。
最後尾に陣取っているのは、ダリだ。
極振りばかりが所属するウチの≪体力≫担当で、硬そうな装備と筋肉に身を包んだその防御力はかなりのものだ。
リリィや俺が回復させ続ける限り、そうそう力尽きたりはしない。
後ろや横から不意にモンスターが現れた時は、ダリが受け持つ手筈になっている。
だからリリィやランコが俺の身代りになる展開はきっと無い。多分。
▽
散発的に現れるモンスターは、やはり威圧感がやばかった。
しかし、サンゾウは回避盾としてとても優秀だった。
相手の攻撃は全く受けないし、タゲ取りも完璧だったのだ。
途中から俺やアズ、ランコまで前に出て袋叩きにしていても、誰もダメージを負うことが無かった。
それもサンゾウの適格なヘイト管理と、偶に俺達の方へ向けられる攻撃を即座に弾き落とす脅威の反射速度の賜物だろう。
もはや人間の動きじゃない気がする。
いくらゲームといえど、≪敏捷≫に極振りしたくらいであんな風に動けるだろうか。
そんな調子で、割と順調に楽しく狩りを続ける内に、マップの端までやって来た。
景色的には奥に続いているが、ぶにょっとした見えない壁に阻まれてしまって、ここから先には進めない。
最初は何事かと思って、何度か試したものだ。
「端まで来ちゃったみたいですね。ちょっと休憩してから、あっちに行きましょうか」
俺の提案で、休憩を挟むことにした。
今までに俺がよくやってたようなゲームだと、二三時間ぶっ続けでやることも少なくなかったし、特に支障もなかった。
しかし、このVRMMOってやつは酷く疲れる。
二十分も経ってない今も、結構な疲労感があるのだ。
肉体的な疲れは無いとは言っても、周囲を警戒しながら自分の身体を動かすようにして森を歩いていると、精神的には疲れてしまうんだろうな。
だから俺は、狩りの最中でも小まめに休憩を取ることにしている。
そしてそれは、我がギルドの中では通例となっている。
「ふぃー、皆さんのお陰で楽しいです! こんな楽しい狩り、このゲームを始めてから初めての体験です。上納金や参加費を支払わなくても経験値がもらえて、しかも精算ではきっちり等分してくれるなんて、天国かってくらいです!」
「それは良かったです。さぁ、座ってゆっくり休んでください」
ランコが興奮気味に語るのを見て、思わず笑ってしまう。
苦笑いが混じってしまうものの、幸せそうに笑ってくれるのだから嫌いではない。
「はい。それではお言葉に甘えまして――えぇっ!?」
「ランコさん!?」
ランコは、腰を下ろす前に大き目の岩に寄りかかった。
するとその岩がスゥーっと実に滑らかにスライドし、元あった場所にはぽっかりと大きな穴が空いていた。
体重を岩に預けかけていたランコは、素っ頓狂な声を上げて、穴の中に転がり落ちるようにして姿を消した。
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