82 新たな出逢いを歓迎する会
リリィによってもたらされたのは、次のイベントの詳細だった。
その名も、≪第一回 最強ギルド決定戦≫と、≪第一回 最強プレイヤー決定戦≫。
まさかの二本立てである。
どちらも予選を五日間かけて行い、土日を一日ずつ使って開催されるという力の入れ具合。
今までのイベントがどれも名目としては交流目的だったから、本当の意味でのイベントは初めてなのかもしれない。
それがまだリリースされてやっと一ヶ月くらいのゲームでの最強決定戦というのは、どうなんだろうな。
オンラインゲームというのは性質上、時間とお金をどれだけ掛けたかが強さに直結しやすい。
ガチンコ勝負になると廃人には勝てない可能性は高い。
それでも、イベントがあるなら参加して楽しみたい。
俺達の楽しみ方は、いつだって全力投球。
勝てるかどうかは一度置いておいて、とにかく全力でぶつかるのみ。
俺達らしく戦って、でも、最強を競うイベントなんだから、参加するからには勝ちたいとも思う。
俺の可愛さこそが最強だと信じてくれているメンバー達の為にも、一丸となって勝利を目指すんだ。
▽
次の日。
夜八時前というゴールデンタイム。
俺達はギルドホームの豪華なリビングに二人を除いて、ほぼ全員が集合していた。
サンゾウは天井に張り付き、ダイナとダリは高級そうなカーペットの上で腕立てをしている。
レンとリリィは俺の対面のソファに座っていて、時が来るのを待っているようだ。
真剣な表情で、今すぐにでも壮大な何かが始まりそうな顔をしている。
今ここにいるメンバーには、全員が都合のつくこの時間にリビングに集合するようお願いしてあった。
俺達が待っているのは、残りの二人だ。
アズは全てを知っているが、もう一人のランコは何も知らされていない。
さて、そろそろかな。
「連れて来たよー!」
「ア、アズさん突然どうしたんですか!? 実はあの設備が有料でこれまでの使用料を払えとかそういうあれですか!?」
バーン! と大きなドアを開け放って、アズが部屋へ飛び込んで来た。
小さなその手には、同じくらい小さくほっそりとした手首が握られており、引っ張られるようにランコが部屋へ入って来た。
何の説明も無く突然連れてこられたようで、目に見えて混乱している。
キョロキョロ部屋中を見回した後、メンバーが勢ぞろいしていることに気付いて変なトラウマスイッチが入ったらしい。
「そんなあくどい事言いませんから安心してください」
「あ、姫様こんばんは。お世話になってます。さっそくポーションをいくつか作ったので献上しますね! 販売はまだですが、無事に売れたら設備使用料と上納金は纏めてお支払いしますので……」
「大丈夫ですからね。でもせっかくなのでポーションはもらっておきます、ありがとうございます」
「ほっ、受け取ってもらえなかったらまた数日程工房にこもって製薬に励む必要があると思っていたので、安心しました!」
なだめつつも、収拾がつきそうにないのでポーションはもらっておくことにした。
差し出された緑色の液体の詰まった瓶をストレージに放り込むと、ランコは安心したような笑顔を浮かべた。
もらって正解だったらしい。
「それで、取り立てでないのなら突然どうしたんですか?」
ランコは、心底分からないといった風に首を傾げた。
思い当たる事柄が全く無いようだ。
なにはともあれ、これでようやく全員が揃った。
新たなイベントへの意気込みを固めた後では初めてのことだ。
メンバーはみんな普通の人達であって、俺みたいな社会から離脱したおっさん以外は、休日は休日でそれなりに予定が入っているようだ。
なので案外全員揃うタイミングは少ない。
「既に会ったことがある方もいると思いますが、改めて紹介します。こちらはランコさん。このギルドへ新しく入りましたので、仲良くしてあげてください」
「え、あ、そういうことですね! 今までどこのギルドでも顔合わせなんて最小限しかしてなかったので、失念してました!」
「そういうことです。それでは、自己紹介をお願いします」
「はい! えっと、私はランコと言います。名前の由来は胡蝶蘭で、花言葉が≪幸福が飛んで来る≫っていうんです。実は私、とても運が悪くて、運が良い自分になりたくてステータスは全部≪幸運≫に振っています」
「おうおう、また極振りか。全員極振りたぁ、極振りパラダイスだな!」
「しっ、静かに聞きなさい! あ、どうぞ、気にせず続けてください」
いつの間にかスクワットに移行していたダリが口を挟んだ。
極振りというワードに反応して、思ったことがそのまま口からポロッと出てしまったようだ。
同じくスクワットをしていたダイナがダリを黙らせて、ランコに続きを促した。
「あ、はい。種族は≪妖精≫で、クラスは≪錬金術師≫です。ポーションなんかの消耗品を作っていきたいと思っているので、よろしくお願いします! 姫様には忠誠を誓っておりますので、是非ともよろしくお願いします!」
ランコが勢いよく頭を下げると、皆が手を叩いてランコの加入を祝福してくれた。
リリィなんかも、ニヤリと笑ってご機嫌だ。
「見込みがありそうね」
なんて聞こえてきた気がするから、ランコのことは気に入ったようだ。
「あぁ、それではこれからランコさんの歓迎会と行きましょうか」
「え? 私なんかの為に、歓迎会をしてくれるんですか!? これ詐欺だったりしません!?」
「しないでござるよ。安心するでござる」
「あええええええ!? ニンジャ!? 何でニンジャ!?」
「どうも、ランコ殿。サンゾウでござる。よろしく頼むでござるよ」
「おぉ、ホントにニンジャっぽい。よろしくお願いします!」
「オレぁダリラガンってんだ。皆ダリって呼ぶから、お前もそう呼んでくれ」
「僕はダイナです。ダリとは幼馴染ですが、僕の筋肉は静謐でしなやか、かつ柔軟なのでこの騒がしい筋肉とは一緒にしないでくださいね」
「せいひつ? ってなんだ?」
「静かで落ち着いてること、ですよ」
「なにおぅ!? オレの筋肉は情熱的で爆裂的なだけだ。消極的筋肉とは違うんだぜ?」
「ほほう、そこまで言うなら見せてもらいましょうか」
「望むところだぜ!」
「あ、えっと、あわわわわわわわ」
ダリとダイナがヒートアップして上着を脱ごうとしたところで、リリィがランコを庇うように割って入った。
困惑し過ぎてショートしそうになってたから、ナイス判断だ。
「そういうのはあんた達だけで裏庭でやりなさい! その筋肉は目に毒だから仕舞っときなさい! あ、私はリリィよ。よろしくね」
「すごい美人……。よ、よろしくお願いします!」
「僕はレン。≪知力≫特化の魔法職で、主に火力を担当してるよ。よろしくね」
「うわぁ、イケメンエルフだ! よろしくお願いします!」
各々自己紹介が済んだようだ。
若干カオスなのは、≪最強可愛い姫様のギルド≫的には平常運転である。
「それでは歓迎会の会場へ移動しましょうか」
「移動ですか。一体どこでやるんですか?」
「それはついてのお楽しみということで、しゅっぱーつ!」
「「「おー!」」」
「わぁー、楽しみだなぁー!」
こうして俺達は、ランコの歓迎会の会場へと向かうことにした。
こういったゲームでは歓迎会というと皆で狩りに行くことだとダイナやリリィに教わったので、目的地は一層、≪東の森≫である。
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