80 俺達筋肉装備隊!
時間も半端でメンバーも揃っていないので、ダリとダイナと一緒に特訓をしていた。
そんな中、ふと自分でも強烈な攻撃をモンスターに叩き込みたい衝動に駆られて、何となく呟いてしまった。
「なんとか私も戦う方法はないでしょうか」
と。
そこで特訓の手を止めて、色々考えてみることにした。
ダイナが提案してくれたのが、攻撃力の高い武器を装備してみること。
ダイナの持っていたメイスを借りて試してみたが、とても扱えそうになかった。
そこで行き詰った俺達に、ダリが自信ありげに笑って見せた。
曰く、すげぇいいことを想いついたらしい。
どんな発想なのか、楽しみでありながらちょっと恐ろしく感じた。
▽
「大剣を装備したダイナを装備したら、姫さんでも大剣を装備したことになるんじゃねぇのか?」
「なるほど、確かにそれはいいアイディアかもしれませんね!」
「ダイナさんを、装備……?」
ダリが自信たっぷりに案を語り、ダイナが賞賛した。
いいアイディアなんだろうか。
どう考えても絵面がやばいんだけど。
「ものは試しって言うだろ、やってみようぜ!」
「そうですね。さぁ姫様、僕を装備してください!」
「あ、はい」
二人の筋肉の勢いに圧されてしまっては、俺に断ることなど出来なかった。
それに、とにかくやってみるのが信条でもある。
ダイナに近づいて、しゃがみこむようにしてその逞しい脚を両腕で抱える。
そして全身に力を込める!
「んん……!!」
「上がらねぇな」
「僕の装備と筋肉が重すぎるようですね。いや、さっきのメイスですら重そうだったんですから、それも当然と言えるかもしれませんが」
予想通りと言うべきか、ダイナは一ミリも持ち上がらなかった。
装備に筋肉の重さまでプラスされるんだから当たり前と言えばそれまでだ。
一旦ダイナを持ち上げるのは諦めて、会話するのに適度な位置へ戻った。
そのまま座り込んだり立ち上がったりすると筋肉に近すぎるからな。
どうしようかと思っていると、転送の光が出現した。
誰かがやって来たようだ。
光が収まってそこに立っていたのは、サンゾウだった。
新装備に身を包んで、未だご機嫌の様子である。
「こんばんはでござるー。このような時間から特訓とは、精が出るでござるな」
「こんばんは」
「おっす!」
「サンゾウさん、いいとこに来てくれましたね。僕達の筋肉に知恵を貸してもらえませんか?」
「勿論良いでござるが、どうしたんでござるか?」
「それが、むきむきしかじかで……」
ダイナはサンゾウに助けを求めることにしたようだ。
さっきまでの流れや状況を説明し始めた。
「なるほどでござる。では、とりあえずパーティーを組んでみると良いでござるよ」
「パーティーですか?」
「さようでござる。確かパーティメンバーに対しては、運ぶ時の重量がかなり緩和される筈でござる。拙者が姫を運んだ時も、そのシステムが無ければもっと手こずっていたでござる」
事情を聞いたサンゾウが提案したのは、パーティーを組むことだった。
なんでも、パーティーメンバーは救護の為に運ぶ際の重量がかなり軽くなるらしい。
知らなかった。
そう言われると確かに、サンゾウも≪筋力≫が初期値の筈なのに俺を背負って逃げるのに全く不都合が無かったように見えた。
まさかそんな仕様だったとは。
「なるほど、ではさっそく試してみましょう! パーティーは僕が作りますね!」
ダイナからパーティー加入申請が飛んで来た。
パーティー名は『筋肉装備隊』。
すげー名前だなこれ。
一瞬怯んだけど、なんとか平静を装いながら参加。
これで俺達は全員パーティーを組んだことになる。
「それでは、やってみますね」
「はい、どうぞ!」
「んん――上がりました!!」
「おお、やりましたね!」
「やったぜ姫さん!」
「やったでござる!」
ダイナのふくらはぎを抱えて全身に力を込めて立ち上がると、持ち上げることに成功した。
それなりに重量は感じるが、それでもメイスより少し重たいかな、くらいである。
設定がガバガバ過ぎないかとちょっと思うが、運営がそういう仕様にしてるのをわざわざ文句を言うつもりはない。
「さぁ姫さん、そいつをドエムに向かって振るんだ!」
「いつでもいいですよ!」
ダリが俺に持ち上げられたまま、立派な大剣を構えている。
これだけでかい上に大剣まで掲げられたら重心が狂ってしまいそうに思えるが、そんなこともない。
これも救護の為なんだろうか。
今はダリの言葉に従うことにして、ふくらはぎを両腕で抱えるようにしていたのを、振りやすいように持ち変える。
両足首を両手でしっかりと握りしめる。
こんな持ち方をしても不安定にならないのは、ゲーム特有の力学が働いているに違いない。
「行きます!」
「どうぞ!」
「えいっ!」
地面に対して垂直に持っていたダイナを、まずは斜めに持ち上げる。
ダイナの返事を待ってから、気合いと共に振り抜く!
地面に叩きつけると良くないから、ドエムくん一号の腰の辺りを狙って水平にフルスイングした。
――バシコーン!
ちょっとコミカルな大きな音が鳴って、ダメージを表す数値が飛び出した。
結構なダメージに見える。
俺が振り抜くのに合わせてダイナが大剣を振るのを見たから、そのお陰だと思う。
「おっとっと……」
振り抜いたダイナの頭を地面にこすらないよう、胸の前で掲げる。
「おお、いい音したぜ今!」
「タイミングばっちりでござったな!」
「姫様と僕の呼吸がピッタリ合わさりましたね!」
「ええ、ありがとうございます皆さん!」
全員大喜びである。
かくいう俺も、普通に気持ち良かった。
今までに感じたことのない手ごたえだったからな。
「これで僕は名実共に姫様の剣ということですね!」
「あっ! ずっりぃ! それじゃあオレは姫さんの盾になるぜ!」
「では拙者は姫の靴となるでござる!」
ダイナが俺に持たれたまま誇らしげに言うと、ダリとサンゾウが反応した。
皆俺の装備になりたいらしい。
なんだそれ。どんだけ姫様のこと好きなの君達。
その後もしばらく、代わる代わる俺の装備としての練習を積んだのだった。
『条件を満たした為、称号≪臣なる武具を纏う者≫を手に入れました。
クラススキル≪ロイヤリティアームズ≫を習得しました』
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