78 逃げるのも幸せへの第一歩!
運が悪いらしい少女、ランコが仲間になった。
彼女自身の行動や判断も迂闊な部分はあるように思うが、それでもやっぱり運が悪いんだろう。
少なくとも俺は、一度たりとも家が吹き飛んだことは無いからな。
ランコはギルドに所属していたが、抜けるのはそう難しい事じゃない。
メニューを開いて脱退のボタンを押すだけだ。
本来それは、それぞれのプレイヤー自身に委ねられるものであって、誰かに禁止されるようなものではない。
「うぅ、抜けちゃいますよ? ほんとに抜けちゃって大丈夫ですかね?」
「大丈夫です。誰かに文句を言われるようなことじゃないですよ。ランコさんがそのギルドに義理とか恩を感じているなら止めませんけど」
「拾ってくれた恩はあります。けど、冷静に考えるとその後はずっと地獄でしたね……。あれ、私なんで残ってたんでしょう。あんなブラッククソギルドなんてクソくらえですね! 脱退ボタンポチー!」
「あはは、おもしろーい!」
最初は躊躇っていたランコだったが、改めて問いかけてみると表情が変わった。
何かを悟ったように晴れやかな顔で画面を操作した。
ランコの頭上を見てみると、ギルドの名前とエンブレムが表示されていない。
どうやらきちんと脱退することが出来たようだ。
「いやー、なんだか清々しましたね! ……げ、先輩やギルマスからメッセージが来ました。うぅ、開きたくないよう」
「消しましょう」
「え?」
「見たくないなら消しちゃえばいいんです。ついでにブロックしちゃえばいいと思います」
「でもそんなことしたら恨まれそうじゃないですか?」
「大丈夫です。合わない人と無理に付き合わなくてもいいようにする為の機能なんですから、活用しないと」
「わ、わかりました」
こういったことは他人の俺が口を出すことでもないと思うが、ランコを放っておくとズルズルと暗黒人間関係に引きずりこまれそうだ。
なのでスパッとブロックしてもらって、メッセージ等の連絡が取れないようにしてもらった。
「それじゃあ加入の申請送りますね」
「ありがとうございます! やったー、まさか私なんかを入れてくれるギルドが本当にあるなんて、正直信じられなかったんですよ」
「そんなに心配してたんですか。これからよろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いしますお姫様! 精一杯ギルドの為に尽くします!」
「いえ、好きなように楽しんでもらったら大丈夫ですから」
「サーイエッサー!」
「よろしくねランコちゃん!」
「よろしくお願いしますアズさん!」
ハイテンションになったランコは、早速アズと意気投合している。
ウェーブのかかったセミロングの金髪に、幼さの残る感じの顔立ち。
年齢で言えば、十七ってところだろうか。
種族的な特徴はよく分からないけど、普通だ。
人間っぽい。
装備は白衣のような外套を羽織っているだけで、それ以外はほぼ初期装備に見える。
「そういえばランコさんって、ステータスは≪幸運≫極振りなんですよね。クラスとか種族って聞いても良いですか?」
「あ、はい。私は種族は≪妖精≫で、クラスは≪錬金術師≫です。幸運値の恩恵の中にアイテム作成の成功率上昇というのがあったので、ポーションなんかの回復アイテムを作れたらなーと思って選びました」
「なるほど、いいですね!」
「じゃあ仲間だね! アズと一緒に頑張ろう?」
「え、あ、はい?」
≪錬金術師≫は商人系であり、薬や特殊なアイテムの作成に特化したクラスらしい。
消耗品として有名な回復アイテム≪ポーション≫なんかも作れるのだ。
俺はほとんど使ってないけど、鬼コンビやサンゾウ等の前衛には必須アイテムとも言える。
喜ぶ俺とアズは、よく分かっていない様子のランコを連れてギルドホームへと向かった。
▽
やって来たのは、ギルドホームの中にあるアズの工房だ。
そこは教室二個分はあろうかという広い部屋で、半分は装備を制作する為の設備が取り揃えられており、素材の加工等も出来る。
もう半分は科学っぽい不思議な機材が据え付けられているスペースだ。
いつか使えるかもというノリと勢いで作ったものの、こちら側は活用できる人間はいなかった。そう、今までは。
「うっわなんですかこれめちゃくちゃ豪華じゃないですか!」
「すごいでしょ! ギルド自慢の工房だよ!」
「お金があったので勢いで作ったんですよ。薬品系を作れる人がいなくてスペースの半分は持て余してたので、ランコさんが加入してくれて良かったです」
「いえいえそんな、私の方こそありがとうございますですよ! え、これ自由に使ってもいいんですか? 有料だったりしませんか!?」
「はい、好きに使ってもらって大丈夫ですよ。他のメンバーは使いませんから」
「アズは使えなくもないけど、装備作るのが楽しいから気にしなくていいよ!」
「ここは天国ですね!? そうなんですね!? 露店のノルマから解放されて好きにアイテム作れるなんて、ついに幸福が飛んで来ちゃったんですね!?」
≪最強可愛い姫様のギルド≫が誇る工房を見て、ランコは大興奮だった。
相変わらずテンションがランナウェイしてるけど、段々慣れてきた。
むしろ、怒鳴られて怯えていた彼女が喜んでいる姿を見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってきてしまう。
ギルドの仲間として、この世界を楽しんでもらえたら幸いだ。
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