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77 新しい仲間!


 街中で怒声をあげていた男は、突然現れた姫様大好きな悲哀の騎士トラストルに引き()られていった。

 トラストルはイケメン騎士のNPCで、普段は一層の≪東の森≫にいる。

 彼はそこで、かつての主だったという姫様のことを想って、お墓と思われる場所に佇んでいる。


 なんて聞こえはいいが、俺からすると熱狂的な姫様狂信者である。

 俺に対して謎の姫様判定を出し、俺にいくつもの装備を(みつ)いできたり、敵が鬼強くて経験値もバリ高い≪東の森≫でパワーレベリングをしてくれたりした。

 尖りに尖った針みたいなステータスの俺が早い段階で支援役としてパーティーに貢献出来ていたのも、奴のお陰だったりする。


 特にこのプリンセスシリーズは、やばい。

 最終装備の権化みたいなもので、後一つ入手出来ればとんでもないことになる気しかしない。


 そんなイケメン騎士が何故二層の港街なんかにいたのか、連れて行かれたあの男がどうなるのか、俺には知る由もない。

 どちらも極めて健全であることを祈ろう。

 

 そして俺とアズは、怒鳴られていた少女ランコを連れて、海辺の喫茶店で話を聞くことにした。





 まずは世間話とばかりに語られた彼女の半生は、それはもう悲惨で、もう帰りたい気分になってしまっていた。

 ゲームを始めたきっかけが酷過ぎる。


「それで、夢も希望も家も吹き飛んでしまったしいい加減お金も尽きてきたので、売り払う前に別の世界ってやつを楽しんでみたかったんですよ。ほら、このゲームのキャッチコピーって、新しい可能性に出会う場所、じゃないですか」


「アズそれ知ってる!」


「確かにそんな感じでしたね」


「私も、最高についてる人生っていう可能性に出会いたかったんですよね。名前も、≪幸福が飛んで来る≫が花言葉の胡蝶蘭っていう花からとってみたり、幸運特化にしてみたんですけど、あまり変わりませんでしたね。詐欺には遭うし、優しく迎えてくれたギルドはノルマの厳しいブラックギルドだったし……。今のギルド、売上の三割を納めないと狩りに連れて行ってもらえないんですよ」


「それはまた、すごいギルドですね」


「ひっどーい!」


 相変わらずランコの話は重い。

 本人の喋り方や口調が軽くて明るいものなのがまだ救いか。

 可愛く憤慨(プンスカ)するアズを見て、いやー、参っちゃいますねー、なんて笑っているランコをジッと見る。


 頭上にアイコンと名前、そして所属しているギルドネームとエンブレムが表示された。

 ≪白英―白き英雄―≫、か。

 そこはかとなく、中学二年生的な波動を感じる。

 字面で言えば俺も好き。だけどそんな感じの草があった気がするんだけど、気のせいだろうか。


 エンブレムのデザインは、白い剣と盾がセットで描かれている。

 これも中々のかっこよさを醸し出している。

 

「私のステータスじゃソロで狩りも難しくて、ギルドのルールで臨時広場へ行くのも禁止されてて、いい加減疲れてしまいました。さっきのも、先輩に委託されてたものが売れ残ってたから怒られてたんです」


「さっきのはギルドの先輩なんですね」


「はい。ことあるごとに怒鳴ってきて、すごく怖いんですよー。ゲームの中ですらああいう人ばかりと縁が出来ちゃって、嫌になっちゃいますね」

 

 ランコはおどけたように笑う。

 どこまでが本気かよく分からなくなってくるが、さっきの怯えた様子は嘘じゃなかったと思う。


 そういえば、さっきの男も同じエンブレムだった気がするな。 

 ギルドの先輩ってだけであんな態度を取るなんて、恐ろしい世界だ。

 ウチのギルドは変人……個性的な人が多いけど、皆いい奴だからな。そう考えると運が良かったのかもしれない。


「そんなギルド、抜けちゃったらいいんじゃないですか?」


「そうだよ、抜けちゃおーよ!」


 普通に本音で聞いてみる。

 完全な部外者の勝手な意見でしかないが、そんなところにいても何もいいことは無い気がするからな。

 アズも俺に同意なようだ。


「えへへ、そうしたいのは山々なんですけどね。私みたいな運の無い女に構ってくれる人も全然いないんですよ。だからもうこのゲーム自体辞めちゃおっかなって思ってます」


「それなら、ウチのギルドに入りませんか?」


「え?」


 せっかくなので勧誘してみた。

 この世界は、俺にとって間違いなく楽しい。

 そんな世界にまで絶望してしまうのは、とても勿体無く思ってしまった。


 キョトンとするランコに、更に畳み掛ける。


「ちょっとアクの強いメンバーばかりですけどまだ七人しかいませんし、きっと居心地は悪くないと思いますよ」


「うん! 皆良い人ばっかりだよ! アズも、困ってる時にお姫様に助けてもらったんだ!」


「お姫様、ですか?」


「うん、お姫様!」


「自分で言うのもちょっとあれなんですが、皆私の事をそう呼んでくれるんですよ」


 ここでちょっと苦笑い。

 私、ギルドの皆にお姫様って呼ばれるんですー、キャハッ☆

 なんて、どう考えても頭ユルユルのガバガバなヤベー奴でしかないから、言い方に気を付ける必要がある。

 チヤホヤされるのは嬉しいが、変な風に思われたくはないからな。


 ギルドネームとエンブレムで全て察してしまう可能性は高いが。

 ≪最強可愛い姫様のギルド≫だからな。

 エンブレムはドヤ顔ピースの俺のアップのスクショだからな。

 自己顕示欲の塊にしか見えない。


 ランコの視線が俺の頭上にいったのも、それらを再確認してのことだろう。

 冷静に考えるとめっちゃ恥ずかしい。


「えっと、ノルマとかあったりしますか?」


「特にないですよ。皆、好きな時間にログインして好きに遊んでいます。メンバーだけとしかどこかへ行ってはダメとかもありませんし」


「それじゃあ、上納金とかは?」


「ありません」


「狩りの精算でまず半分をギルド資金として持っていくなんてことも――」


「ないですよ。いつの時代の制度なんですかそれ」


 余りにもなルールに、思わずツッコミを入れてしまった。

 聞けば聞くほど酷いギルドだ。

 そんなギルドから自分で離脱出来ないくらい弱ってたと思うと、なんだか俺まで悲しくなってくる。


「そんなギルドが存在してたんですね……」


「そちらの方が珍しいと思うんですけど」


「先輩には、どこも同じだと聞かされていたものですから。なんて酷い人なんでしょうね、まったくもう」


 ランコは困ったように笑いながら怒り出した。

 明るくて、感情表現が豊かなところを見ると、根は強いんだろう。

 少しの間眺めていると、落ち着いた様子で俺とアズの方に向き直った。


「是非とも仲間に入れてください!」


 ランコは、テーブルに叩きつける勢いで頭を下げたのだった。

 テンションがジェットコースター過ぎてちょっと引いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] この子運が悪いのもあるけど情報調査能力が低すぎる…… ついでに人を見る目とか家を選ぶときの基準がおかしいとか 絶対幸運以外に何か原因あるよ!
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