閑話 ダリラガン
閑話ですが妙に長くなりました!
祝☆総合評価5000pt突破!!
とある街のとある小学校、六年生の教室。
そこでは丁度一日の授業が終わり、子供達にとっての無敵の時間、放課後を迎えていた。
「飛鳥、サッカーしようぜ!」
飛鳥と呼ばれたのは、長めの茶髪に中性的な顔立ちの子供だった。
大きな目は活発さをよく表しており、ハーフパンツにTシャツというラフな格好もその印象を強めている。
飛鳥は鞄をひっつかんで肩に掛けている所だった。
声を掛けてきた少年の方を見やり、申し訳なさそうに片手を上げる。
その仕草からは今すぐにでも駆け出したい気持ちがはっきりと見て取れた。
「悪い、今日はどうしても外せない用事があるんだよ。また今度な!」
「何だよ、またあいつのお見舞いか?」
「んー、まぁ、そんな感じ。それじゃな!」
「ちぇー。じゃあまたな。あいつにもよろしく言っといてくれ!」
「おう!」
短い返事で会話を打ち切ると、飛鳥は小走りで教室を出た。
他の生徒にぶつからないように注意しつつ、それでも逸る気持ちを抑えられなかった。
飛鳥は週に何日かは友達のお見舞いで病院へ向かう。
しかし、今日急いでいるのはどこかへ行く為ではなかった。
学校を出た飛鳥は全速力で、自分の家へ向けて走り出した。
▽
数か月前。
飛鳥のクラスメイトが、入院することになった。
そのクラスメイトは持病を患っており、身体が弱かった。
その持病が悪化した為、遂に入院することになったのだ。
筋肉の発達が遅く、また、ある程度進行すると筋肉は衰えていく一方となる奇病。
その名も、≪筋欠病≫。
デジタル技術が発達した現代においても有効な治療方法が見つかっていない、十億人に一人の割合とも言われるほどの稀有な病だった。
「そんなに弱気になるなって。すぐに良くなるさ!」
飛鳥は、いつも通りの元気な笑顔で語った。
しかし、その笑顔に少しだけ悲しみが差していた。
飛鳥が語りかけたのは、ベッドの上で上体を起こしている一人の少年。
彼こそが、筋欠病に罹ってしまった飛鳥の友人であった。
少年は力なく笑うと、静かに首を振った。
「今まで治った例は無いそうです。原因も不明で、治療法も見つかっていないんですよ」
「それでも大丈夫だって。お前、あんなに運動頑張ってたじゃんか。体力だって付いてきてただろ? すぐに退院出来るって」
「確かに、飛鳥が僕を引っ張り出してくれたお陰で、少しずつ体力がついていました。でも、今はもう歩くのも大変なんです。いつ立てなくなるか、分かりません……」
「そんなこと言うなよ。ほら、お前の好きなゲーム雑誌、今日発売だったろ? 買ってきたんだぜ、ほら!」
少年の声は段々と弱々しくなり、顔も俯いてしまった。
飛鳥は、こみ上げてくる悲しさをグッと堪えて、それでも笑おうと努めた。
飛鳥は、肩に掛けていたカバンをベッドの端に置いて中身を漁る。
一冊の雑誌を取り出して、出来る限りの笑顔でそれを少年へ見せつけた。
「……ありがとうございます。ここの売店には売ってなかったので助かりました」
「へへ、そうだろ。そのくらいいつでも買って来てやるから、もっとオレを頼ってもいいんだぞ」
「考えておきます」
飛鳥の気遣いを察した少年は雑誌を受け取った後、暗い話は終わりとばかりにいつもの調子で微笑んだ。
それを見た飛鳥も、嬉しそうに笑った。
やっと、今まで通りの気さくな雰囲気が戻ってきたのだ。
少年は雑誌を開いて、視線を紙面へと落とした。
そんな様子を、飛鳥は不思議なものでも見るように見つめる。
「それにしても、お前ほんとにそういうの好きだよな。オレが母さんに連れられて初めて家に行った時もゲームばっかしてたし」
「面白いんですから仕方ないじゃないですか。飛鳥と遊ぶようになってからも、それは変わりません」
「なんだよー、オレと外で遊ぶよりもゲームの方が楽しいってのかよー」
「うーん、甲乙つけがたいですね」
「なんだそりゃ」
「それぞれ良い所も悪い所もあるので、一概にどっちとは言えないんですよ」
「ぶー。そこはオレと遊ぶ方が楽しいって言っとけよな」
飛鳥は、ゲームと比べられて圧倒的に勝利出来なかったことに不満を覚えた。
頬を膨らませて眉を寄せ、睨みつけることで気持ちを少年にぶつける。
そんな可愛らしくもある親友の姿を見た少年は、思わず笑ってしまった。
「ははは、すみません。飛鳥が一緒にゲームをしてくれれば、それが一番楽しいと思いますよ」
「ゲームかぁ。前に一回触らせてもらったけど、操作とかオレには難しいんだよな。やっぱオレには外で身体を動かすのが合ってるんだよ」
「なるほど。――こういうのなら、飛鳥でも簡単に操作出来るかもしれませんよ」
飛鳥の台詞をしっかり聞いていた少年の視線は、雑誌のとあるページに釘付けになった。
そのページを開いたまま、雑誌を飛鳥の方へ向ける。
「何々……? 最新VRゲーム、≪CPO≫、抽選販売予約、受付開始。自分の身体を動かすように操作する、自分の可能性と出会う別の世界……なんだこれ?」
「新作ゲームの広告ですよ。ゲームの世界に意識ごと入り込んで、まるで身体を動かすように操作出来るみたいですね」
「マジかよ」
「マジみたいですよ。これなら、飛鳥でも問題なく操作できるだろうし、気分的にも外で遊んでるのに近いんじゃないでしょうか。気に入って貰えれば、僕も飛鳥と一緒にゲーム出来て言うことなしです」
少年はそこまで語ってから、笑顔を曇らせた。
自分で語っていた夢のような物語が、まさしく夢だと察したからだ。
「こんなものすごい最新ゲームが、一万台限定ですよ。値段も高いし、僕らにはとても手が出せるものでは――」
「買う!」
「飛鳥?」
「お金は、オレが何とかする! 抽選だから買えるかは分からないけど、とにかく申し込むだけ申し込んでみる! だからお前も応募しろよな!」
「……分かりました。ダメで元々ですし、応募してみます。それに、もし当選したらお金は自分でなんとかしますからね」
「え、自分で払うってお前、大丈夫なのか?」
「僕のお母さんは何だかんだ言っても僕に甘いので、なんとかなると思います」
「そっか! それじゃあなんとしてでも手に入れて、二人で一緒に遊ぼうな!」
「はい、僕も楽しみにしてます」
「そうと決まれば早速母さんと交渉してくる! またな!」
「はい、また」
飛鳥はベッドの上に置いていたカバンを肩にかけると、病室を飛び出していった。
その背中を見送った少年は、静かになった病室で一つ息を吐いた。
「もし神様がいるなら、こんな病気にした分ゲームくらい買わせて欲しいですね……」
神様がいるかどうかは、今まであまり気にしたことのない少年も、この時ばかりは祈らずにはいられなかった。
そして数か月の後、二人の元に最新ゲーム機が届けられたのであった。
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