75 可愛い二人で港町観光!
※74話のサンゾウの装備の見た目描写を少し追加しました
サンゾウの新しい装備が遂に完成した。
その名も≪加速の忍装束≫。
従来の忍装束にメカニカルな装甲と雰囲気をプラスした、ロマン溢れる逸品だ。
各部の装甲や口元の布に大きく書かれた≪忍者≫の字等、目を引く箇所は多い。
布部分の赤と青と紫の迷彩柄の時点でかなり目立つだろう。
忍ぶってどういう意味だっけ? と首を傾げたくなるレベルだ。
しかし、一番目立つのは、胸部装甲が展開するギミックだろう。
サンゾウの新たな装備はなんと、スキルまで備えていたのだ。
スキル名はそのまま≪加速形態≫。
発動させると、防御力が0になり、受けるダメージが五倍になる。
その代わりに、≪敏捷≫を倍にするらしい。
発動時に胸部装甲が左右に開いて、肩に装着される。
動きが大変格好いい。
ただでさえ格好いい見た目なのに、更にカッコよくなるのはズルい。
発動までに二秒間、効果はきっかり十秒間。
ギミック自体は、スキルを発動させなくても動かせるそうだ。
そんな高性能な装備を作れるなんて、アズはすごい。
▽
一度ログアウトした俺は、正しく昼飯を摂った。
十二時を回った頃合でご飯を食べるなんて、いつぶりだろうか。
仕事を止めてから昼前まで寝て、遅め朝食兼早めの昼食を摂る生活だったからな。
偶にはこんな生活も良いだろう。
軽く身体を動かし終わったら、時間は十三時目前だった。
いつもなら昼寝をするところだけど、今はなんだか無性にゲームがしたい気分だ。
多分サンゾウの装備の格好よさにあてられたな。
これも、偶にはいいだろう。
誰もいなかったら久しぶりに一人で駆けずり回って、夕方から昼寝をすればいい。
「ダイブスタート!」
キーワードを呟けば、一瞬でベッドの上からファンタジー世界へこんにちは。
ギルドホームを手に入れてからは豪華なお屋敷に景色が変わるせいで、今まで豪華な部屋に縁の無かった俺は未だにちょっと驚く。
その内慣れるだろうか。
「あ、お姫様だ! おかえりー!」
「アズさん。さっきぶりですね。お昼はもう済ませたんですか?」
「うん! もう食べたよ!」
「そうですか。他の方は……誰もいないんですね」
「そうみたい。サンゾウ君も、夜まで来られないって言ってたよ」
「そうなんですね」
ギルドメンバーリストを確認してみると、俺とアズ以外はログアウトしているようだった。
アズは若干寂しそうな顔をするが、すぐに笑顔に切り替わる。
「でもでも、お姫様が来てくれたから寂しくないよ! お姫様も次は夕方になるって言ってたのに、どうしたの?」
「そのつもりだったんですけど、えっと、用事が突然無くなっちゃったので」
「そっかー! それじゃあ、一緒に遊ぼう?」
「はい、是非お願いします」
昼寝するつもりだったけど何かテンションが上がって、とは言えなかった。
完全にゲームにやる気を出したダメ人間の発言だ。
二十代前半女子と勝手に俺の中で設定してる≪カオル≫の中の人がそんなこと言える訳がない。
なんとか誤魔化した俺の言葉を聞いて、アズは何も疑問に思わなかったようだ。
素直で明るい笑顔を浮かべて俺に問いかけてくる。
答えは勿論イエス。イエスオアイエス。
こんな可愛い少女に誘われて、イエス以外の選択肢などこの世に存在しない。
それもこれも、煩わしい現実世界のしがらみに囚われていないからこそ可能である。
ビバ無職!
こうして俺とアズは、二人で出かけることとなった。
転送を利用して移動した先は、二層にある≪港街アルベイト≫。
二人とも戦闘はからっきしなので、目的は街の観光だ。
素材集めツアーもどうかという話にはなったが、良い素材の採れる場所はアクティブなモンスターが多い為、断念した。
倒せないからって逃げ回ると、モンスターを引き連れてしまう可能性が高い。
そうなると、迷惑行為である≪トレイン≫をしてしまう恐れがある。
そのまま他のプレイヤーに遭遇すれば、モンスターを使ったプレイヤーキル、≪MPK≫にまで発展してもおかしくない。
せっかく前回のイベントでアイドルとしての知名度を稼いだのに、迷惑行為をしていたなんて悪評が広まってしまうのはよろしくない。
美少女は美少女らしく、潔白に生きていたい。
俺はおっさんだけど、美少女なのだ。
「うわぁ、ここはいつ来ても綺麗だね!」
「そうですね。いい天気で、風も気持ちいいです」
「お姫様、あっちに行ってみよう!?」
「あまり走ると転んじゃいますよ」
「はやくはやくー!」
「ふふ、今行きますから」
青い空、青い海。
太陽がギラギラ輝いて、海もキラキラ光っている。
ほのかに潮が香る爽やかな風が心地よい。
狩りやクエストの通り道としてしか通ったことがなかった為、アズは大はしゃぎだ。
元気一杯に走り出しては俺の方を振り返る。
それなりに人が多いせいで早足で追いかけるが、距離が縮まればアズはまた走り出す。
実に楽しそうだ。
俺まで楽しくなって、思わず笑みがこぼれてしまう。
「すごいすごーい! 色々売ってるよ!」
「ほんとですね。しかも、露店がこんなに沢山」
「いっぱいだねー!」
街の中心部へ行くと、大通りに出た。
そこでは沢山のプレイヤー達が道の両側で露店を構えていた。
露店というのは、商人系のクラスのスキルを使用することで出すことの出来るお店だ。
細かい仕様は俺は知らないが、スターレにもいっぱいいる。
そもそも、初めてこの街に来た時はここまでの露店は出ていなかった。
時間が経って、ここを拠点にするプレイヤーが増えたんだろう。
「アズ、ここのお店覗いてみたいな! ……いい?」
「勿論いいですよ。私も気になります」
「やったー!」
アズが可愛く小首を傾げ、上目使いで俺を見つめてくる。
当然イエス。
この世の森羅万象がイエスと俺に囁いている。
なんてうるさい世界だ。
言われなくても分かってるさ。俺は子供が大好きだからな。
▽
「お前、まだこれっぽっちしか売れてねーのかよ! 何グズグズしてんだ!」
「お姫様……!」
「一体どうしたんでしょう」
楽しく露店を眺めていると、進行方向の先から怒声のようなものが聞こえて来た。
アズはビクッとして俺の袖を掴み、声のした方を覗き込んでいる。
覗き込んでいた露店から顔を上げて見るが、イマイチ様子が分からない。
丁度場所が悪いのかもしれないな。
「あ、アズ、見てくる!」
「アズさん!?」
少し位置を変えようと一歩踏み出したところで、アズが駆け出して行った。
ウチの元気娘は行動力ありすぎてびっくりするな。
慌てて追いかけると、一人の少女が背を向けて露店の内側で座り込んでいる。
大通りの通路側ではなく建物側、露店を見る客が通らない後ろ側に一人の男が怒りの形相で立っていて、アズはその間に割り込んでいた。
「何だこのガキ……!」
「い、いじめちゃ駄目だよ!」
明らかに怯えてはいるが、背筋を伸ばして、精一杯手を広げている。
露店の少女を庇っているようだ。
良く見ると見覚えがある。
あれは先日の、ギルド対抗戦。
俺にバカスカとクリティカルを決めていた、あの少女だった。
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