74 アクセル全開新装備!
※装備の外見描写を少し追加しました
俺とサンゾウが二人でクリアしたクエストの、報酬の配分で少し揉めた。
もっと多く寄越せとかではなく、サンゾウが一つのアイテムだけでいいと頑なだったのだ。
それだって、どうしても、と必死にお願いされる始末。
山分けという発想がウチのギルドメンバーにはないらしい。
サンゾウが欲しがったのは≪クラス装備の素≫というアイテム。
それは、クラス専用の装備を作る為の素材だ。
これを使用すると、難易度と必要コストが大幅カット。
浮いた分のリソースを性能アップにつぎ込める為、高性能な装備が作りやすいらしい。
そこで俺は、とある提案をした。
何も特別な話ではなく、装備作成の為の他の素材集めの手伝いを申し出ただけだ。
これにサンゾウは、渋々ながらも了承。
丁度ログインしたアズと三人で、理想のシノビ装束を作る為に必要な素材を求めて爆走を開始した。
どうせならとことんやろう、ということで、俺達の素材集めは三日にも及んだ。
時には人数やメンバーも変えながら、サンゾウが求める素材を集めて回ったのだ。
勿論、三日丸ごとぶっ続けではない。
一日数時間程度を三日だ。
俺はソロじゃ素材集めは出来ないからな。
その代わり、サンゾウは空いた時間に一人でも集めて回っていたらしい。
サンゾウのソロ性能はうちのギルドでもトップクラスだからな。
他のメンバーが低すぎるとも言うけども。
▽
土曜日の朝。
珍しく早い時間に起きたのでログインしてみると、アズがいた。
俺の方を向いていたアズが、にこやかな可愛い顔を更に笑顔を咲かせて駆け寄ってきた。
「おはようお姫様!」
「アズさん、おはようございます。お一人ですか?」
「ううん、サンゾウ君もいるよ! これからアズの工房で防具作るの!」
「私もお邪魔しちゃってもいいですか?」
「もちろん! サンゾウ君は先に行ってるから、お姫様はアズと一緒に行こ!」
「はい、行きましょうか」
アズは、ギルドを設立する寸前に仲間になった女の子だ。
茶色い髪をツインテールにしたその姿は、中学生くらいの容姿と相まって大変よろしい。
いつも元気一杯で、≪最強可愛い姫様のギルド≫においての癒し枠である。
アズに手を引かれてやって来たのは、アズの工房だ。
広い部屋の半分程のスペースで、装備を作成する為の設備が一通り揃えてある。
もう半分は錬金術や薬品を作成出来るようになっているが、今のところ活用出来るメンバーは存在しない。
「おはようございます」
「おや、姫、見に来たんでござるな。おはようでござる」
「集めた素材を準備してたらお姫様と会ったから一緒に来たの!」
「おお、アズ殿、準備は万端でござるか? 拙者、もうワクワクドキドキが止まらなくてフィーバーしかねんでござる」
「準備ばっちりだよ! すぐ始めるから、待っててね!」
「了解でござる。いやぁ、楽しみでござるなぁ」
サンゾウはほくほく顔だ。
口元は布で隠れていて見えないが、嬉しそうに緩んでいるのはなんとなく分かる。
「それじゃあ、素材を並べるね」
「大漁大漁、でござるな!」
「こうしてみると、すごい量ですね」
大きなテーブルの上に素材が並べられる。
それなりに時間をかけただけあって結構な種類だ。
これはあくまでも、素材にする為にサンゾウが厳選した一部でしかない。
少しでもレアな素材を使いたいということで、大量に狩ったからな。
必要ないドロップアイテムの大半は既に売り払ってしまった。
「それじゃあ、始めるね!」
「頼むでござる」
「はーい! わ、すごい、≪クラス装備の素≫って、持ち主のクラスに合わせたデザインになってるんだ」
≪クラス装備の素≫を取り出したアズが、空中に浮かんだ操作ウインドウを突き始める。
何かに驚いて独り言を呟いた後、サンゾウの方へ向き直った。
「サンゾウ君、基本のデザインはこれだけど、変えた方がいい場所ってある?」
「おお、これはまさしく忍装束。しかし、せっかくだからもっと派手なのが良いでござるかな」
「派手って、この辺りを角ばらせてみるとか?」
「おお、良いでござるな。あとは各部にアーマーも追加して、この辺りを光らせるというのはどうでござろうか」
「あはは、おもしろーい! じゃあじゃあ、ここのアーマーを可動式にしてみるのは?」
「おお! これは最高にクールでござるな!」
「じゃあそうするね!」
アズとサンゾウが顔を突き合わせて盛り上がっている。
どうやらデザイン的なものを打ち合わせているようだ。
やがてそれが性能の話になり、意見が出尽くした。
話をしながら操作をしていたアズの指も止まる。
「うん、これでオッケーかな。それじゃあ、最後の仕上げをしちゃうね」
色々な素材を取り込んだ≪クラス装備の素≫を持ち上げて、アズはそれを金床の上に置いた。
そして、壁に掛かっていた大きな金槌を手に持った。
大きく振りかぶる。
「えいっ!」
ガツーン!
気合いと共に振り下ろされた金槌は、素にぶちあたって盛大に火花を散らす。
「えいっ! えいっ! ――えいっ!!」
ガツーン! ガツーン! ――ガッツーン!!
パパパパー! シャキーン!
何度目かに力を溜めた渾身の一撃が叩くと同時に、成功を示すエフェクトがアズの頭上に出現した。
「ふぅー、出来たよ!」
「お疲れ様でござる!」
「お疲れ様です。装備を作るところは初めて見ましたけど、ずっと画面の操作だったのに、最後だけ実際に金槌で叩くんですね」
「うん! ここの叩き方で性能がまた変わるって聞いたよ。だからアズ、思いっきり叩くの!」
「なるほど」
「アズ殿アズ殿、着てみてもいいでござるか!?」
「いいよ!」
「うひゃー、楽しみでござる!」
出来上がった装備を拾い上げたサンゾウは、とても楽しそうな顔をしている。
アズの了承を得て更にご機嫌な様子で、ストレージに仕舞い込む。
そこから選択するだけで装備完了だ。
「おぉー! 最高にかっちょいーでござる!」
「すごーい! やっぱり実物はもっとかっこいいね!」
「かっこいいですね」
かっこいいけど、俺の思ってた忍者とちょっと違った。
サンゾウが身に着けている装備は、主に布っぽく見える。
よくある忍者装束をベースにしているが、大胆なアレンジが施されている。
まずは色。
俺のイメージする忍者っていうのは、黒い。
だけどサンゾウの装備は、赤と紫と青、三色を使った迷彩柄だ。
ふとももの部分は少し太くなっていて、逆にふくらはぎ部分は細く絞ってある。
脛、前腕、胸、肩には鈍い銀色の装甲が装着されていて、メカニカルな雰囲気が漂う。
各部アーマーは黄色いラインで繋がっていて、意味は分からないがかっこいい。
首元には太く長い、赤い布が二本垂れている。
これが風にたなびいたらさぞかっこいいだろう。
最後に顔部分。
頭部は頭巾で覆われており、口元も布で覆われていて、目元しか露出していない。
そして口の布には大きく『忍者』という漢字が、達筆で書かれている。
まごうこと無きニンジャだな。
「姫、これを見るでござる!」
「どうしました?」
「なんとこの線、光るのでござる」
「ほんとですね」
「しかもこの胸部装甲が、なんと、展開するでござる!」
サンゾウが叫ぶと同時に、胸部に張り付いていた分厚い二枚の装甲が左右に割れて、それぞれが肩に張り付いた。
空いた胸部は謎の基盤っぽい模様やコアっぽいクリスタルな薄い球体が張り付いていたりで、情報量が多い。
なんか昔の特撮でこんなのを見た気がする。
一つ言えるのは、滅茶苦茶かっこいいということだ。
「いいですね! 高速戦闘全振りって感じがとても良いです!」
「おお、姫もいけるクチでござるな。やはりスピード特化型はロマンでござるよなぁ」
サンゾウはカラカラと笑った。
≪敏捷≫極振りの男が言うと、説得力が違うな。
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