72 あれは誰じゃ!?ニンジャ!?
クエスト中、気付けば俺は一人で牢屋に入れられていた。
理由は分からないがじっとしているわけにもいかない。
脱出の方法を捜して壁を触っていたら、なんと不思議な棒を発見。
使うと落ちているアイテムを引き寄せることが出来るのだ。
更にタイミングの良いことに、酔っぱらった山賊風の男が牢屋の鍵を落としていった。
ゲーム特有の予定調和的なものを感じるが、スルーするのは勿体無い。
俺は床に落ちた鍵を不思議な棒で引き寄せて、それを使って牢屋の扉を開けた。
▽
牢屋を脱出した俺は、洞窟の出口に向かって慎重に進む。
牢屋まで連れて行かれた時に目隠しされていたわけでもないし、意識もばっちりあった。
ついでに言えばマップも見ることが出来るので、迷うこともないだろう。
そう、マップが確認出来たのは有難い。
おかげで牢屋よりも奥に位置していた財宝置場みたいなところでいくつかのアイテムをゲット出来た。
どうせなら全部奪えたら良かったんだが、置かれているお金やアイテムのほとんどは背景みたいなもので入手することは出来なかった。
手に入った分だけでも十分有難いけどな。
このクエストの追加報酬だと思っておこう。
ちなみに、見張りはいなかった。
多分一仕事終えたから皆で飲めや歌えのドンチャン騒ぎをしてるんだろう。
「問題はここだよな……」
マップの中でも一際大きな空間を突いては悩む。
そこには、大広間と書いてある。
さっきチラッと覗いてみたら結構な人数が酒盛りをしていた。
何が問題かと言えば、この大広間を迂回する道がない。
牢屋や財宝置場に向かう敵をここで迎撃する為の造りなんだろう。
つまり、俺が脱出しようと思うとこの大広間を突っ切る必要がある。
スキルも装備も使えない状態で、そんなこと出来るだろうか。
多分無理。
素のステータスは≪魅力≫しか振ってない、可愛いだけの貧弱キャラだからな。
あんな大勢を相手にして勝てる訳がない。
「さて、どうしよう……ん?」
大広間の方から騒がしい声が聞こえてきた。
さっきまでの楽しげな宴会の声じゃなく、もっと焦ったような、そんな声。
何かが起きているようだ。
隠れていた小部屋から出て、大広間をそっと覗いてみる。
「姫ー! どこにござるかー!?」
「くそっ、なんだこいつ!」
「やれ! 奴を早く殺せ!」
「速い!?」
「邪魔でござる! ≪苦無投げ≫!!」
「ぎゃあああ!?」
見覚えのある人物が、大勢の山賊風NPCを相手に大立ち回りを繰り広げていた。
ほぼ初期装備に、口元だけを覆う布。茶色い逆毛。
サンゾウだ。
山賊達が武器を手にしてサンゾウを囲もうとするも、素早い動きで翻弄している。
隙あらば目の前の山賊を切りつけては移動し、鋭いひし形のような物を投げた。
それを食らった山賊は結構なダメージを受けてダウンする。
あんなスキルいつの間に覚えたのか。
山賊達はサンゾウを捉えきれず、翻弄されている。
むしろ人数の多さが災いしてグッチャグチャに混乱している。
よく見たらさっき撃沈したのがボスっぽい奴だった。
そのせいで誰も命令する者が居ない為、立ち直れないようだ。
今がチャンスか?
でも、流石のサンゾウでも俺を守りながら戦うのは難しい気がする。
サンゾウと違って俺はあんなに速く動けないしな。
「姫! そこにいたでござるか!」
「あ」
「今参るでござる!」
覗き込んだまま色々考えていたら見つかってしまった。
姿を見せていいものか悩んでたのに。
俺の失敗に気付いた様子もなく、サンゾウは嬉しそうに俊敏な動きで目の前にやってきた。
「さあ姫、ここから脱出するでござるよ!」
「助けにきてくれてありがとうございます。けど、私がいると足手まといでは……」
俺の姿を見つけた山賊達は、サンゾウの目的を理解した。
俺達の丁度反対側にある出口から逃げられないよう人数で壁を作り、ジリジリと迫ってくる。
ああされると俺を連れて逃げるのは難しい筈だ。
「大丈夫でござる。しかし、多少急ぐ必要があるので拙者の背に乗るでござる」
サンゾウは俺に背中を向けて、少ししゃがんだ。
つまりはおんぶするということだな。
サンゾウには何か考えがあるようだし、ここは任せよう。
そんなに大きくないサンゾウの背中に乗って、肩に両手を置く。
サンゾウがすっと立ち上がると同時に、ゆっくり近づいていた山賊達が一斉に駆けだしてきた。
「お願いします!」
「しっかり掴まってるでござるよ!」
サンゾウが地面を蹴って、跳び上がる。
更に空中を蹴って、上へ。
それでも山賊達を跳び越えられる程ではない。
俺を背負っているせいでいつもより低い。
「サンゾウさん――!」
「心配いらぬでござるよ! ≪瞬歩≫!」
「――っ!?」
サンゾウがスキル名を叫ぶと同時に、視界が一瞬にして切り替わった。
大広間の空中にいた筈なのに、既に洞窟の通路を走っている景色だ。
後ろを振り返ってみると、大広間の奥の方に呆然と佇んでいる山賊達の姿が、入り口から確認出来た。
「サンゾウさん、今のは一体なんですか?」
「≪瞬歩≫というスキルで、見える範囲の距離を一歩で移動するスキルでござる」
「それはすごいですね! 一体いつの間に習得したんですか?」
「御姿を見失った後、姫を捜して必死に走っていたらいつの間にか得ていたでござる。これもひとえに、姫のお陰でござるな」
「そうでしょうか……?」
「そうでござるよ!」
洞窟の通路を凄い速さで駆け抜けながら、サンゾウは嬉しそうに言う。
俺を捜しててスキルを得るって、なんというか凄い。
そしてそれは俺のお陰ではないと思う。
思わず疑問形で口から洩れてしまったが、サンゾウには断言されてしまった。
どうやらそうらしい。
▽
こうして俺達は山賊のアジトを脱出して、依頼人の貴族の下へと向かった。
そこで、今回の件の真相が発覚した。
なんと、護衛隊の隊長が敵対している貴族と内通している、裏切り者だった。
本当は貴族の娘を相手方に引き渡すつもりだった。
しかし、本物の娘は秘密裏に移動されることとなり、その動向をしっているのは依頼人と信頼出来る数名のみ。
影武者の俺を護送することになった騎士団長は、大人しく任務を全うする予定だった。
しかし、俺の姿を見て考えが変わった。
こいつは高く売れる、そう思ったそうだ。
そこで山賊達を使って俺を拉致。
貴族の娘の替え玉をしていた俺が襲われても、敵対している貴族に罪をなすりつけることが出来る、的なあれだったそうだ。
依頼人からは深く謝罪され、報酬も追加でもらった。
サンゾウは納得していない感じだったが、アジトで追加報酬ももらってたからそれでクエスト完了とした。
しかし、≪魅力≫の影響で別ルートに入るとは思わなかった。
こういうパターンもあるんだな。
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