71 岩の中にある!
俺はサンゾウと共にクエストを受けた。
ただの護衛かと思いきや、その内容は貴族の娘の影武者になることだった。
俺にそっくりな貴族の娘の代わりに敵貴族の注目を集め、その隙に貴族の娘を別ルートで移動させる作戦だ。
説明を聞いた俺達は了承。
渡された可愛い服に身を包み、馬車で揺られていた。
護衛も十分な数いるし、襲撃する奴なんているのか。でもゲームでクエストだしいるよなぁ。
なんて考えていたそんな時、襲撃者達が現れた。
護衛の騎士と同じく大きな二足歩行する鳥に跨った奴らが、前後それぞれ十。
隊長の指示でサンゾウは後ろの敵へ跳んで行き、前には護衛騎士が打って出た。
前方で焚かれた煙幕を回避して馬車が大きく迂回する内に、森の中へ。
そのまま様子を見ていると、何故か怪しげな洞窟の前で馬車は停止した。
そして事情を聞く暇も無く、俺は洞窟奥の牢屋へ放り込まれた。
素直に襲撃を撃退してはい終わり、とはならないらしい。
▽
「まさかの展開だった……これからどうしようかな」
ぽつりと一人呟く。
牢屋は洞窟の壁をくり抜いて作った空間に、鉄格子をはめ込んだだけの簡素なものだ。
腕くらいは出すことが出来るが身体は通らない。
試しに揺らそうとしてみたけど俺の力じゃびくともしなかった。
「むー……サンゾウさんを待つしかないかな」
地面に敷いてある汚いゴザのようなものの上に座り込む。
今着ているのは俺の服じゃないし、そもそも汚れなんて付かないから地面に座ったところで問題ない。
今の状況を整理しよう。
俺は今、貴族の娘に変装する為にあの子の服やアクセサリーを借りている。
どうやらそれに細工がしてあったようで、装備を変更することが出来ない。
それどころか、スキルも使用不可能なようだ。
今装備の詳細を確認してみたら、説明の最後に
『よく見ると、何か不思議な力がこめられているようだ』
なんていう一文が追加されていた。
出発前に見た時は無かったのに。
何か隠されたものを看破するようなスキルがあれば見抜けたかもしれないが、今はそんなこと言っても仕方がない。
とりあえずはサンゾウに連絡するか。
メニューからフレンドリストを開いて、サンゾウの名前をタップ。
メッセージ画面を開こうとしたところで、見慣れない画面が現れた。
『この機能を使用するとクエスト失敗となります。よろしいですか?』
『YES』『NO』
よろしくないよろしくない。
即座にノーを選択。
なるほど、直接連絡するのはNGか。
一応試してみたが、ログアウトしようとしても同じ確認が現れた。
終わらせるまではログアウト出来ないじゃないか。
まぁ、次の予定が差し迫ってる時にこんな時間食いそうなクエスト受けるやつはいないとは思うけど。
それでも緊急の用事が発生したなら失敗を受け入れるしかないな。
さて、これはあれか。
俺はなんとかして脱出。
サンゾウは俺の救出が目的になるのかな。
どうして俺が閉じ込められてるのかとか知りたいけど、上手くやればその辺りも知ることが出来るんだろうか。
まずは脱出を目指してみるか。
この牢屋は、洞窟の壁をくり抜いて、入口に扉付きの鉄格子をはめ込んだだけだ。
シンプル過ぎて何かする余地がない。
それでももう一度調べてみるか。
「あれ?」
岩肌をペタペタ触ってみる。
特に変なところはないか、と諦めかけていたが、地面から十センチ程上の辺りで不意に手がするっと中に入った。
どうやら岩肌に穴を空けて、魔法か何かで他の岩肌と同じように偽装していたらしい。
更に手を伸ばしてみると肘まで入ったところで手の先に何かが当たった。
硬くて冷たい感触のそれを掴んで引っ張り出してみる。
「これは……なんだろう」
見た目は金属の棒。
感触も金属の棒。
長さは三十センチくらいで、太さは現実の俺の人差し指くらい?
先に向かう程ゆるやかーに細くなっていて、先端は丸い。
見た目だけじゃさっぱり分からないので説明を見てみる。
どうやらこれは、≪引き寄せスティック≫というものらしい。
二十メートルくらいまでの範囲で、落ちているアイテムを手元に引き寄せることが出来るようだ。
アイテムを見つけたのはいいけど、これでどうしろと。
「あ、誰か来るみたいだ」
遠くから、靴の音がする。
微妙に覚束ないような、ご機嫌なステップだ。
慌てて棒を隠して座り込むと、顔を赤くした山賊っぽい男が姿を現した。
側には下っ端っぽい男もいる。
NPCのようだが、二人とも完全に酔っぱらっている。
「おうおう、こいつぁ上玉だ! こいつを引き渡せばオレ達はしばらく遊んで暮らせるぜ!」
「流石ですお頭!」
「がっはっは! そうだろそうだろ! 明日にはあの貴族様からがっぽり報酬をいただかねぇとだからな。今の内に目一杯飲んでおけよ!」
「そりゃあ勿論でさぁ!」
「がっはっは! 分かってるとは思うが、逃げられるんじゃねぇぞ? 鍵はちゃんとかけてるんだろうなぁ!?」
「へい、しっかりと鍵をかけてまさぁ。鍵もほらこの通り、ちゃあんと持ち歩いてますんで、安心でさ!」
「がっはっは! そうか、そうか、そいじゃあもっと飲むぞ!」
「あいさぁ!」
チャリン。
山賊の親分と下っ端っぽい二人組は、肩を組んで歌を歌いながらご機嫌に去って行った。
どうやら宴会の最中に、捕らえた俺の姿を確認しに来ただけっぽいな。
十八禁みたいな展開にならなくて良かった。
そんなことになったらトラウマになってこのゲーム出来なくなっちまうわ。
で、下っ端の方は取り出した鍵を仕舞おうとして落としたことに気付かなかったようだ。
調子はずれの歌と自分の靴音で、甲高い金属音も聞こえなかったのかもしれない。
鍵が落ちている場所は、鉄格子から二メートル程向こう。
手を伸ばしても届かない。
しかし、今の俺にはタイムリーなアイテムがある。
ヒョイと棒を振ってみると、鍵が飛んできて俺の手の中に納まった。
使い所は限られるが、便利な気がする。ちょっとした物を取る時とかに現実で欲しい。
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