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70 ダイブインザ牢獄!


 いつもの時間にログインした俺は、サンゾウのお願いで一緒にクエストに行くことになった。

 内容は、とある貴族の娘を、とある場所へ送り届ける手伝い。


 この貴族は他の有力貴族と水面下で争っており、それが激化してきた為に娘を避難させたいらしい。

 しかもその相手は前々から娘を狙っているからこその措置(そち)だという。

 俺達は最初、普通の護衛かと思っていた。

 馬車に乗る貴族の娘を守り、特定の距離を移動する的な。


 しかし、まずは貴族の娘を紹介されて驚いた。

 俺とよく似ているのだ。

 綺麗な黒髪にやや吊り目がちだけど大きく綺麗な瞳。

 頭の上の狐耳まで生えている。


 貴族が言うには、数ある応募者の中から見た目の似ている俺達に決めたそうだ。

 多分、ゲーム的にそういう設定なんだろう。

 他のプレイヤーが受ければ、そのプレイヤーと同じ顔のNPCが現れる筈だ。


 そしてその娘さんが着ていた服と同じような服を渡された。

 それに着替えて馬車に乗り、移動することが依頼の内容だった。

 ようは、貴族の娘の影武者である。


 男女ペア限定の依頼というからどういうことかと思ったら、そういうことらしい。

 おかげで、やっと条件の意味が理解出来た。





 俺とサンゾウを乗せて、馬車が揺れる。

 今俺達は、馬車で平原をひた走っていた。

 ここはクエスト用マップらしく、窓から覗いてみても他プレイヤーの姿を一切見掛けない。


「しかし姫、影武者になるクエストとは思わなかったでござるな」


「そうですね。てっきり普通の護衛かと思ってました」


「申し訳ないでござる」


「いえいえ、気にしないでください。クエストには変わりないですから」


 可愛く上品な黄色いワンピースの袖をパタパタと揺らす。

 貴族の娘に成り代わる為、俺は貴族に渡された装備一式を着こんでいる。

 見事な装飾の(ほどこ)された腕輪やネックレスまで渡されて、装備枠は全て借り物で埋まってしまった。


 サンゾウは申し訳なさそうにしているが、大したことじゃない。

 どちらにせよ多少の危険はあるものだし、戦闘になった場合。護衛対象が側に居ない今の方がいっそ楽でいい。


「それにしても、こんな状況で襲ってくる人っているんですかね」


「強そうな護衛がこんなにいるでござるからなぁ。しかし、何も無しでクエストが終わるとも思えないでござる」


「そうですよね。ゲームですし、襲ってきますよね」


 馬車の中は、力のある貴族の馬車だけあって豪華で広い。

 立派な窓からは外の様子がよく見える。


 大きな鳥のような生き物に乗った騎士が八人、馬車を囲うように並走している。

 立派な鎧を身に付けている彼らは、貴族がつけてくれた護衛だ。

 流石にサンゾウだけでは、あからさますぎて怪しい。

 本物の娘と思わせる為にも必要だということでこうなった訳だ。


 普通に考えたらこの状況で襲撃して来るとは思えないが、ここはゲームの世界で、今はクエスト中だ。

 このまま無事に街について、それでは報酬です、なんてなる訳がない。

 もしそんなことになったら、簡単すぎてびっくりするわ。


「となれば、それまではリラックスしているでござる。ずっと気を張り詰めていては――」


「敵襲! 敵襲だー!」


「――来たでござるか!」


 サンゾウの台詞の途中で、焦ったような声が外から聞こえてきた。

 これは出がけに挨拶したこの馬車の御者のものだ。

 サンゾウは素早く反応し、扉を開けて馬車の上へ飛び乗った。


「……前方から十、後方から十、挟み撃ちでござるか。姫、馬車の中で待機しているでござる」


「分かりました。頑張ってください」


「任せておくでござる!」


 クエストを受けるにあたって、俺に対していくつかの条件が出された。

 装備を変更しないこと。

 無事に街に着くまでは、なるべく戦闘に参加しないこと。

 この二つだ。


 クエストの目的を考えると、俺の正体がばれてしまうと失敗になる可能性が高い。

 例えばれるにしても、出来る限りの時間は稼ぎたい。

 だからこんな条件が出されたんだろう。


 その為、クエストをクリアしようと思うと俺は何も出来ない。

 頑張れサンゾウ。

 全ては君の肩に掛かっている!


「サンゾウ殿! 私達は正面の右側を突破する。後方の敵は任せても良いか!?」


「分かったでござる!」


「前方の敵は我らで対処する。敵を排除し終えたら、手筈通りこの先の合流ポイントで落ち合おう!」


「了解でござる!」


「健闘を祈る! 行くぞお前達! お嬢様の道を拓け!」


 馬車の隣までやってきた護衛隊の隊長が声を張り上げて、サンゾウへ作戦を伝える。

 サンゾウが快諾したのを確認して、一声かけてから他の騎士数名と共に突撃して行った。


「それでは姫、拙者も行くでござる!」


 サンゾウを見送る為に、空きっぱなしのドアから顔だけ出す。

 風が当たるが吹き飛ばされるほどでもない。


「はい、お気をつけて!」


「その言葉だけで百人力でござるううぅぅぅぅぅ……!!」


 俺が返事として言葉を掛けると、ご機嫌なハイテンションで後方へ向かって飛んで行った。

 楽しそうで何よりだよ。


 前方では、騎士達が襲撃者達と接敵。

 激しい戦いが始まった。

 馬車は少し横に逸れながらも前へ走る。


 距離が近くなった頃、前方で煙幕が発生し出した。

 誰かが魔法かアイテムを使ったようだ。

 煙はすごい勢いで広がって行く。前方が真っ白になってしまいそうだ。


 馬車は煙幕を大きく迂回していくようだ。

 ふと後ろを見ると、サンゾウが襲撃者相手に奮闘している様子も見えた。

 かなり遠いが、空中を跳び回ってるおかげで良く分かる。

 あの調子なら、問題なく合流できそうだ。


 顔を引っ込めて、扉を閉める。

 そうして馬車に揺られること十分少々。


 気付けば俺は、怪しい洞窟の中にある牢屋の中に入れられていた。



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