68 可愛いものは筋肉よりも強し?
ギルドホームの裏庭へ行くと、そこでは鬼コンビによる筋トレが行われていた。
二人が言うには≪筋肉花≫のお世話らしい。
そんな世話の仕方があるのかとは思うが、実際目覚ましく成長しているんだからきっと効果はあるんだろう。
そんな鬼コンビと一緒にいたのが、レンだ。
肩口で切り揃えられた紫髪のエルフ。
美形種族で有名なエルフだけあって、華奢でイケメン。いつも爽やかな笑顔を浮かべている。
そのイケメンのレンが、鬼コンビの筋トレに付き合わされて死にそうになった。
精神的に。
すっかり憔悴し切って、≪ピラミッドダンジョン≫の≪マミー≫の方が精気に満ちてると思う程だ。
余りにも可哀想過ぎて、俺とリリィはすっかり同情してしまった。
そんな彼を癒す為に、一緒にお出掛けする約束をしたのだった。
▽
そして次の日。
俺とリリィ、そしてレンの三人で出かける為の話し合いの場を設けた。
筋肉に巻き込まれたレンは未だダメージが抜けきれず、それを癒す為俺達から提案した。
「レンさん、どこか行きたいところはありますか?」
「僕は姫ちゃんが付き合ってくれるならどこでもいいよ」
「心ここにあらずって感じね」
「そうですね。目線が虚空を彷徨ってます」
受け答えは普通にしてるものの、いつもの爽やかさがない。
イケメンスマイルもすっかり陰が差してしまって、闇堕ちした王子キャラみたいになってる。
それでもイケメンであることに変わらないあたり、ちょっと腹立つな。
「何か希望とか無いんですか? レンさんの希望に出来る限り応えますよ」
「これはあんたを励ます為の提案なんだから、あんたの希望が出てこないとどうにも出来ないでしょ」
「気持ちは嬉しいんだけど……うぅ、筋肉が押し寄せてくる」
「筋肉に怯えてる……。お姉様、かなり参ってるようです」
「あはは……」
何かないかと聞いてみるも、レンは頭を抱えてしまう。
リリィはレンの様子を見た後、困ったように首を振った。
どうしよう、苦笑でしか返せない。
まさかそこまでのダメージを負ってるとは思わなかった。
男だし多少筋トレしたくらいじゃそんなに気にならないと思ってたんだけど。
「えーっと、そうだレンさん、何か好きなものはないですか?」
「僕の好きなもの? ……可愛いもの、かな」
「可愛いものですね。リリィさん、可愛いものが見れる場所はどこかないですか?」
なんとかしようとレンに聞いてみると、やっと答えが返ってきた。
そこで何か可愛いものが無いかリリィに聞いてみた。
リリィはこの世界のことを良く調べたりしてるし、この世界についてとても詳しい。
きっと何かいい情報をくれるに違いない。
「可愛いものですか? 今私の目の前にいらっしゃいますよ!」
「私、ですか?」
「ええそうです! お姉様以上に可愛いものなんて、存在しません!」
リリィは高らかに宣言した。
どうしよう、思ってたのと違う。
いや確かに俺は可愛いけども。
「私なんて見ていても仕方ないんじゃないですかね……」
「姫ちゃんを、見る? それいいね」
「え?」
「可愛いものが好き。お姉様は可愛い。そうなると――お姉様、いい案を思いつきました。協力してもらえますか?」
「それでレンさんが元気になってくれるなら、喜んで」
「それでは決定ですね。行きましょうお姉様! レンもさあ、行くわよ!」
▽
「キャー! 流石お姉様可愛いです!」
「ど、どうも」
いつもの装備以上にヒラッヒラな服を着た俺を見て、リリィが上機嫌に叫んだ。
今の俺は、ロリータと呼ばれる類のドレスのようなものを着ていた。
ロングスカートから覗く白のニーソックスが素晴らしい。
俺が履いてるんじゃなければな。
「姫ちゃん姫ちゃん、次はこっちを着てみてくれない!?」
「あ、はい、わかりました」
レンに差し出された装備を受け取り、装備画面を突く。
操作を完了した瞬間、俺は新しい装備に身を包んだ。
マーチング衣装をアイドルっぽくアレンジした白を基調とした上着に、水色のプリーツスカート。
ベストには水色のラインが入っていて、同じ色の帽子が頭の上にチョコンと載っている。
白のブーツにも同じ水色が入っていて、統一感が出ている。
この衣装も可愛くて、見るだけで楽しくなる。
俺が着てるんじゃなければ。
「あなたも中々やるわね。いいセンスしてるじゃない」
「いや、僕なんてまだまだ、リリィさんの姫ちゃんを引き立てる腕には敵わないさ。それに、何を着てても姫ちゃんは可愛い」
「全くその通りね! 色々な可愛い装備を来たお姉様を楽しみましょう!」
レンとリリィはとてつもなく興奮し、盛り上がっている。
あれだけ筋肉に怯えていたレンが、今ではすっかり元通りどころか元気百倍になった。
ここはリリィの知り合いの生産職の店。
可愛い装備を作るのが趣味らしい。
俺は可愛いものが好きなレンの着せ替え人形になることで、元気を出してもらうことになったのだ。
レンだけじゃなくてリリィも楽しそうだが、多分レンがはしゃぎやすくなるよう気を遣ってくれてるんだろう。
リリィはああ見えて、優しいんだ。
「お姉様! 次はこのサイバーパンクな臍出し衣装をお願いします!」
「うわぁすごい! 僕もそれを着た姫ちゃん見たいな!」
「はい、今着替えますね」
俺は次の装備を受け取って、装備画面を開く。
レンが元気になってくれたんなら、これくらいお安い御用だな。
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