67 筋肉花のお世話の仕方
本日四回目の更新です!
俺とリリィは、マミーというアンデッドモンスターの蔓延る≪ピラミッドダンジョン≫で狩りをした。
目的は、≪ミミック≫という動く宝箱のモンスターだ。
こいつが落とす≪青く古い箱≫。
数の多いマミーはリリィのスキルで処理し、ミミックは俺の可愛さで撃ち抜く。
リリィの≪マグヌスエクソシズム≫は強力な光属性のスキルだが、アンデッドと悪魔以外の種族にはダメージが通らないのだ。
ミミックは素早い代わりに耐久が低いようなので、俺の一撃で倒せる。
後はギルドメンバー分の数を揃える為、俺とリリィは時間の許す限り粘った。
▽
狩りを終えたリリィと俺は、必要の無いアイテムを売り飛ばし精算を済ませる。
その後、もう夕方だった為NPCの道具屋の前で解散してログアウトした。
リリィは早めに昼食を済ませていたそうで、昼食の時間は取れなかった。
俺の遅めの朝食と食べた時間は同じだろうに、この習慣の違いはなんだろうか。
まぁ、俺はおじさんだし仕方ない。
朝が多少遅くとも、お昼にはお腹が空くんだ。
晩飯、仮眠、ストレッチの順で日課をこなし、再びログイン。
時間は午後八時。
ギルドメンバーは何人かいるようだ。
メンバーリストを確認した後、意気揚々とギルドホームへ向かう。
門をくぐって直接リビングへ移動する。
ギルドホームの中ではいくつかの場所へはメニューの操作で転送してもらうことが出来るのだ。
リビングに着くと、誰も居なかった。
ログイン自体はしている筈なんだけど。
今いるメンバーはダイナ、ダリ、レンだ。
そうなると面子的に裏庭かもしれない。
移動先に裏庭を指定して、もう一度移動する。
「おらもう一セット行くぞおらぁ!」
「はんっ、僕はまだまだ行けますよ!」
「そんなら三セット追加だうぉらぁ!!」
「あ、姫ちゃん、こんばんは」
ダリとダイナが物凄い勢いでスクワットをしている。
二人の間、その足元には、いつか見た≪筋肉花≫が生えていた。
しかも二本。
サイズは半分くらいだが、筋肉質な腕を肩から引き抜いて地面に突き指したような見た目。
拳だけ白く、他は緑色。
正直言ってちょっと気持ち悪いビジュアルをしている。
そんな植物を挟んで、競うようにスクワットをする鬼コンビ。
筋肉花もダリの大剣を二本で支えてダンベル運動の如く上下している。
意味不明過ぎる。
困ったように棒立ちしていたレンが、俺に気付いて挨拶をくれる。
ここで一体何をしていたんだろうか。
「レンさん、こんばんは。これは……どうしたんですか?」
「ええっと、二人が筋肉花の世話をするって言うから、手伝おうと思って一緒に来たんだ」
「筋肉花のお世話、ですか?」
「うん」
「これ、お世話だったんですか?」
「うん」
筋トレすることが世話することになるのか。
知らなかったよ。
「っふぅ! レン、そろそろお前も一緒に――おっす姫さん! 来てたんだな!」
「ふっ、ふっ! おや、姫様来てたんですね。こんばんは」
「二人ともこんばんは。何をしてたんですか?」
「何って、この通りこいつの世話だぜ!」
「どうですか姫様、ここまで立派になりましたよ!」
「ね?」
「あはは……なるほど」
二人が俺に気付いたので、念の為聞いてみた。
すると二人とも、レンから聞いた通りに世話だと答えた。
マジだった。
言った通りだろうとレンが視線を向けてくる。
信じてないわけではなかったけど、まさか本当だとは。
誇らしげにしている二人の足元には、≪筋肉花≫。
まだ植えてから数日しか経ってないのに、もうここまで大きくなったのか。
「少し見ない間にとても立派になりましたね」
「おう、オレ達が必死に世話した甲斐があったってもんだぜ!」
「そういえばレンさん、そろそろご一緒にどうですか?」
「そうだな、レン、オレ達と一緒にこいつの世話を手伝ってくれんだろ!」
「いや、僕は、あの」
「いよっしゃスクワット行くぞ!」
「さぁレンさんもご一緒に!」
「ぼ、僕は、あ、あああああ――!!」
ダイナとダリがレンを両側から花のお世話に誘う。
レンは遠慮しようとするが、二人は聞く耳を持とうとしない。
両側から片腕ずつがっしりと掴み、そのままスクワットを始めた。
両腕をホールドされたレンは抗うことなど出来ず、強制スクワットが開始された。
レン、なんて哀れな……。
下手なことを言って巻き込まれるのも嫌なので、俺はその光景を眺める事しか出来なかった。
▽
「お姉様、あれは何をやっているんですか?」
「お花のお世話だそうですよ」
「なんとも筋肉馬鹿らしいですね……」
「そう言わないであげてください」
さっきログインしたリリィと横並びで、リリィが用意してくれた布の上に腰かけて、スクワットを終えた三人を眺めている。
リリィの呆れたような声色に、俺は苦笑する。
「っはー! よっしゃあ、今日はこれでノルマ達成だぜ! レンもお疲れさん!」
「っふぅ、いい汗をかきましたね! レンさんも、お疲れ様でした」
「……うん、身体は疲れない筈なのに、すごく疲れた。とても、疲れた……」
爽やかにやり切った顔をする鬼コンビ。
それとは対照的に、レンは憔悴しきった顔をしている。
無理もない。
俺だってあの二人に挟まれて筋トレとかやりたくない。
「次は筋肉水をやりましょうか。ダリは筋肉肥料を用意してください。レンさん、一緒にお世話してもらってありがとうございました!」
「おう任せとけ! レン、ありがとな!」
「……うん、気にしないでよ……」
ダイナはデロデロとした謎の液体を、ダリはプロテインの粉末を取り出している。
そんな二人は上機嫌にレンにお礼を言った。
レンはなんかもう、見てるだけで可哀想になってきた。
助けてあげられなかったから、せめて慰めてあげよう。
「レンさん、お疲れ様です」
「貴方、災難だったわね……」
「姫ちゃん、リリィさん、ありがとう」
「一緒にどこか出掛けましょう」
「そうね、筋肉の居ないどこか遠いところへ行きましょう」




