66 姫様の箱は幸せ空間
本日三回目の更新です!
リリィと共に三層へとやってきた。
よく考えるとリリィとは初めてのペア狩りだ。
火力的に不安が残るものの、リリィはアンデッドと悪魔系のモンスターへダメージを与えられるスキルがある。
というわけでマミーがいっぱい徘徊しているという≪ピラミッドダンジョン≫へ来た訳だ。
二層にも海賊の成れの果てがいるダンジョンもあるが、今回の目的はレアアイテム。
リリィの希望で、それを目当てにしているからこそ、この場所を選んだ。
▽
「それじゃあ行きますね」
「はい、お願いしますお姉様」
初めてのペア狩り。
布陣は俺がやや前だけど、ほぼ横並びだ。
これは俺達の特殊な狩り方に起因する。
歩いていると、ボロボロの包帯で全身をグルグル巻きにしたようなモンスターを見つけた。
両手を前に突き出して、覚束ない足取りでこっちへと向かって来る。
名前はそのまんま、≪マミー≫だ。
速くはないが、遅くもない。
むしろ俺のイメージするミイラとかにしては速いかもしれない。
そんなマミーが横の方からも現れて、合計三体程向かって来る。
「お姉様、お願いします!」
「はい。≪プリンセス・ボックス≫!」
「……!」
半透明の箱が現れて包み込む。
対象は俺とリリィをまとめてだ。
微妙に狭いが、そこまで窮屈でもない。
リリィは細いし俺も小さいからな。
そしてリリィは杖を出来るだけ突き出し、スキルの準備を始める。
地面指定型のスキルらしく、地面に直径五メートル程の魔法陣が現れた。
リリィの頭上で詠唱ゲージが少しずつ溜まっていくが、レンの≪空間爆縮≫並みに溜まりが遅い。
その間に、リリィは杖を構えたままクネクネとし出した。
「ああ、お姉様とこんなに狭い箱の中で二人っきり……! なんて幸せな空間なんでしょう!」
「リリィさん、余裕ですね」
「お姉様の創り出した箱ですから、信頼してるんですよ」
「ありがとうございます」
箱のすぐ外には、一体増えて四体のマミー。
箱に縋り付いてベチベチと箱の壁面を叩いている。
ゾンビものの映画とかって大体こんなシーンあるよな。
「行きます! ≪マグヌスエクソシズム≫!」
『ギィアァァァァァアアア――!!』
リリィがスキル名を叫ぶと、地面に広がっていた魔法陣が輝いて、光る円と十字架が地面に出現する。
それが効果は抜群だったようで、バシバシと大きなダメージをマミー達に与えた。
包帯の破片を残して溶けて消えた。
「流石お姉様、マミーの四体程度ではこの箱は壊れないようです!」
「みたいですね、良かったです。リリィさんのスキルもすごいですね」
「時間が掛かるので、ソロだと使えないのが難点ですけど、私達二人なら問題ないです!」
「ええ、ばっちりですね」
「うふふふふ、お姉様に褒められてしまいました」
これが、俺達の戦法だ。
ある程度のマミーを集めて、箱に閉じこもる。
そして箱に群がっているマミーをリリィのスキルで一網打尽にする。
リリィのスキルは地面を指定して、そこを中心にして発動される。
だから箱の中からでも問題なく攻撃出来るのだ。
便利便利。
「それではどんどん行きましょうか」
「はいお姉様!」
俺達の狩りは続く。
俺とリリィは狭い箱の中に閉じこもり、群がるマミーを聖なる光で焼いていく。
「あぁっ、お姉様の感触、お姉様の香り――!」
「何か言いました?」
「いえ何も」
「詠唱終わりますよ」
「……むぅ、≪マグヌスエクソシズム≫!」
何か箱にこもる度にリリィがテンションを上げていたようだが、マミーのうめき声のせいでよく聞こえなかった。
そうして狩りを続けていたが、俺達の目当てはマミーではない。
「お姉様、いました!」
リリィの視線の先には、小さな宝箱があった。
ピョンピョンと跳ねながら移動している。
こいつこそが今回の目的であるモンスター、≪ミミック≫だ。
他のゲームだと宝箱に擬態して、開けようとしたところを襲い掛かってくる感じのモンスターだ。
しかし、この世界だと宝箱の見た目ではあるが、自ら動き回って獲物を捜すアクティブさを獲得したらしい。
しかもかなり素早い。
「来ました!」
「≪チャーミングショット≫!」
こっちへ気付いて飛び掛かって来たミミックへ、俺の可愛さを撃ち込む。
事前に聞いていた通り素早かったが、その分耐久力は無いようだ。
ピンク色のハートの形をした光弾の一撃を受けてバラバラになった。
小さくて綺麗な装飾が施された、古ぼけた青い箱が地面に転がった。
リリィが箱へ駆け寄って、拾い上げる。
「お姉様、出ましたよ! この箱です!」
「おー、おめでとうございます!」
「ありがとうございます! 一回目で出るなんて、流石お姉様、運が良いです!」
箱型のこのアイテムの名前は≪青く古い箱≫。
このアイテムを使用すると、特定のアイテムの中からランダムで手に入るそうだ。
今のところは価値の低いアイテムの報告ばかりだが、極稀にさらなるレアアイテムが出るとの話もある。
だからその期待値と、青い箱自体のドロップ率の低さを加味して結構な値段らしい。
「出来れば、もっと欲しいですね」
「はい。あと六つは拾って帰りましょう!」
「そうですね。では行きましょう!」
「ふふ、ドロップ率の低さからして、数が集まるまで数時間は掛かる。その間何度も狭い箱でお姉様と密着。ふふふふ……!!」
あと六つというのは恐らく、ギルドメンバー全員分、一人一個用意する計算だろう。
姫様キチと見せかけてリリィは実は優しいんだ。
普段よく言い合いをしている鬼コンビの分もカウントしてるあたり、リリィの性格が覗える。
そんなリリィの優しさに、俺は応えたい。
張り切ってミミックを撃ち抜くとしよう!
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