64 筋肉を越えていけ!
俺、ダイナ、ダリ、アズの四人はダイナの見つけてきたクエストへと出発した。
二層の≪港街アルベイト≫の屋敷で説明を受けた俺達は、≪筋肉島≫へとやってきた。
そこは断崖絶壁に囲まれた島で、まるで肘を曲げて上腕二頭筋を見せつける腕のような形の、巨大な岩が佇む島だった。
目的の≪筋肉花≫は、天高くそそり立つ前腕部分に生えているとの情報だったので、早速よじ登りはじめた。
俺以外は特に苦戦することもなく登り、やがて群生地へと到着した。
しかし、倒せど倒せど、目的のアイテムどころか何もドロップしなかった。
▽
三十分程狩ってみた俺達は一度岩を下りていた。
一度もアイテムをドロップしないのは何かがおかしく、このままでは埒があかないと判断した為だ。
ただ倒せばいいだけなら、もう手に入ってもいい筈だからな。
「やっぱり、何か条件があるんじゃないでしょうか」
「そうですね。僕の筋肉もそんな空気を感じました」
「じゃあ一体、どうすりゃいいっていうんだ?」
「うーん……」
俺の言葉にダイナが同意してくれた。
しかし、ダリの問いかけに困ってしまう。
俺だってそこまでは何も思いついていない。
ただ単純に、何かの条件があって、それを満たしていないと手に入らないんじゃないかとそう思っただけだからな。
俺が唸り声をあげていると、しゅばっと大きく手が上がった。
アズだ。
ツインテールを揺らして、片手をピンと伸ばしたままピョンピョン跳ねている。
可愛い。
「はいアズさん」
「お姫様の歌を聴かせてあげたらどうかな! 植物って、歌を聴かせてあげたら育つって何かで聞いたよ!」
「なるほど、姫さんの歌ならいけるかもしれねぇな!」
「ええ、そうですね。姫様の歌声ならきっと植物にすら届く筈です!」
「そ、そうですか?」
アズのアイディアにちょっと困惑してしまう。
植物に歌を聴かせるというのは確かに俺も聞いたことはあるが……あれは植物と呼んでも良いんだろうか。
緑色の腕だよだって。
筋肉の質感の植物とか俺は認めたくない。
ダリもダイナもナイスアイディア! みたいにテンション上げてるのが余計に困る。
俺の歌でどうこうなったら逆にびっくりする。
しかし、俺の≪魅力≫はこれまでもクエストを解決に導いている。
その威力は、話しかけただけでクエストが終わるレベルだ。
やるだけやってみよう。
「それでは行ってきます!」
岩肌について登る。
二度目だからさっきよりはマシだが、それでもきつい。
まだまだ経験とステータスが足りない。
なんとか、≪筋肉花≫が沢山咲く場所へと辿り着いた。
その内の一本の横へと近付いて、大きく息を吸う。
そして、歌を口ずさむ。
「~~♪」
いつもの十八番を披露する。
腕みたいな植物モンスター相手に何やってるんだと思わないでもないが、感情を押し込めて真剣に歌う。
すると、筋肉花の白い拳の部分が、段々と開いていく。
今までになかった反応だ。
これは、もしかしたらもしかするのか!?
まるで掌のような白い花が開ききった。
白い花弁が五枚で、百合の花に似ている。
で、咲いたのはいいけどこれからどうすれば?
ビシュッ!! ビシビシッ!!
「うわっ!?」
どうしようかと思っていたら、花びらから何かが飛んできた。
硬い感触を胸に受けて、ダメージエフェクトが表示される。
突然の事で驚いて、ワンドから手を離しそうになりながらも、なんとか離脱。
作戦は失敗だ。
▽
色々試行錯誤した結果、≪筋肉花≫を手に入れた。
どうやったかと言うと……。
「おおおおお!!」
「いけダイナ! そこだ! 全ての筋繊維に力を込めろぉ!」
「おおおおおおっしょおい!!」
バァン!!
「っしゃああああ! やったなダイナ!」
「ええ、やりましたよ! 姫様! 見ててくれましたか!」
「お疲れ様ですダイナさん!」
「やったー!」
ダイナが、握り締めていた≪筋肉花≫の拳部分を岩肌に叩きつけた。
それと同時にモンスターとしての≪筋肉花≫がスゥッと消えて、ダイナの手の中にアイテムとしての≪筋肉花≫が残った。
ようは、腕相撲だ。
筋肉を比べて勝利することにより、アイテムが入手できる特殊なモンスターだったわけだな。
なんだそれは。
▽
こうして俺達は無事に依頼を達成。
セバスさんには泣いて喜ばれた。
納品して屋敷を出て、すぐに戻ったら元気な主人に会えた。
数秒しか経っていない筈なのに全快しており、ムッキムキな筋肉を見せつけてくれた。
ダイナとダリは喜んでポーズを見せ合ってたよ。
報酬は、≪筋力≫や≪体力≫が上がる装備品に、定番のお金と経験値だった。
鬼コンビは装備品に大喜びしていた。
これで終わったと思ったが、まだ続きがあった。
それは、ギルドホームに戻ってきた時のことだ。
「おん? 姫さん、服になんか付いてんぜ?」
「え、ありがとうございます」
ダリが俺に向かって手を伸ばしたところで、ギルドホームの庭の植木からリリィが飛び出してきた。
そしてダリへとドロップキックを決めた。
見事なおみ足だ。
「そこの筋肉ダルマ! 何してんのよ!」
「うわっ、なんだよ突然!?」
「お姉様の胸に手を伸ばしてたじゃないケダモノ!」
「ち、ちげぇ! オレはただゴミがついてたからそれを取ろうと――」
「問答無用!!」
「ちょ、まっ」
ダリがリリィにしばかれるのに巻き込まれないよう、距離を取る。
その拍子に、俺の服についていた黒い粒が地面に落ちた。
そして、ズモモモモっと地面に潜ったと思ったら、緑色の芽が地面を突き破って生えてきた。
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