63 岩を登って筋肉狩り!
本日三回目の更新です!
ガタイの良いナイスミドルな執事、セバスさんは依頼について詳しく教えてくれた。
依頼内容は、≪筋肉花≫の採取、そして納品。
この花は高純度のタンパク質を含み、滋養強壮に効く。
そして、≪筋欠病≫という奇病への特攻薬の原料となるらしい。
「我がご主人様は、それはそれは立派な筋肉を纏った紳士でした。それが突然あの病を患い、今では起き上がることも出来ない程に筋肉が衰えてしまったのです。どうか、ご主人様を救ってはいただけませんか?」
「なんてむごい……!」
「筋肉を衰えさせる病気……これは放ってはおけません。姫様、力を貸してください」
セバスの言葉に、鬼コンビのやる気が急上昇だ。
マッスルというワードに喜んでいた楽しげな笑顔はもうどこにもない。
あるのは、筋肉を救いたいという熱い意思だけだ。
「勿論です。私達は依頼を受ける為に来たんですから」
「おお……! ありがとうございます……!」
「オレ達に任せといてくれよな!」
「はい、姫様と僕達が、間違いなく採取して来ます!」
「おじいさん、アズも頑張るよ!」
「ありがとう、ありがとう……!」
セバスが目に涙を溜めて感謝してくれる。
NPCなのに感情表現が豊かだとか、受け答えが滑らかだとか、無粋なことは一旦置いておく。
今はこのクエストを完璧にこなすことだけ考えよう。
▽
屋敷を出た俺達は、街の港へと向かった。
≪筋肉花≫が生えるのはとある島の、断崖絶壁を上った先らしい。
セバスの手配でここから船を出してもらうようになっているのだ。
港の船着き場には小型の船と、背は低いがやたらと胸板が分厚くガタイの良い男が立っていた。
岩のような顔に眼帯をしていて、海賊の頭みたいな迫力がある。
「あの人ですかね」
「ちょっくら声掛けてみらぁ。おーい!」
「おう、お前らがセバスさんから話のあった冒険者か。準備は出来てるぜ」
「はい。ではよろしくお願いします」
この海賊で間違いなかったようだ。
既に準備は万端とのことだったので、会話は最低限に船に乗り込んだ。
すぐに船は動きだし、海面を滑り始めた。
体感で一分程船に揺られたところで視界が一瞬暗転し、気が付いたら目の前に島があった。
まるで肘を曲げて力こぶを作った腕のような形に岩が盛り上がっているのが分かる。
「着いたぞ! ここが目的の、筋肉島だ」
「おぉ……」
「なんつぅ立派な上腕二頭筋――上等だぜ!」
「ふふふ、これは、筋肉がなりますね」
「すごーい! でかーい!」
威圧感に、思わず声が洩れる。
鬼コンビは謎のやる気を見せて、アズは純粋に大きな岩にはしゃいでいる。
島は周囲が全て崖で、砂浜などは無かった。
まるで船を停めてくださいと言わんばかりに丁度良い岩場があったので、そこから上陸することに。
「オレはここで待ってるからな、用が済んだら声をかけてくれ」
「はい、ありがとうございます」
「おう、気をつけて行って来い。……死ぬんじゃねぇぞ」
「はい!」
これも≪魅力≫の効果なのか、船長は謎のデレを見せてくれた。
挨拶を交わしてからいよいよ島へ。
島には、植物系のモンスターが生息していた。
蔦で編んだ人形のようなモンスターや、大きなオレンジに手足が生えたようなモンスターなど、植物に無理矢理筋肉要素を持たせたとも言える。
「皆さん、着きました」
「こいつが筋肉岩か。間近で見るとすげぇ迫力だぜ!」
「筋肉花はこの前腕部分に生息しているんでしたね。それでは、上りましょうか」
「楽しそう! アズも頑張るね!」
筋肉花とは、モンスターの名前でもある。
この天をつくように伸びた肘から先の部分の表面に生えているらしい。
そのモンスターがドロップする同じ名前のアイテムこそが、今回採取を依頼されたものだ。
セバス曰く、その存在も採取方法も機密として扱われ、この島の存在も必死になってようやく探し当てたらしい。
だから何が起こるか分からない。
それでも俺達は即断でこのクエストを受けた。
ゲームなんだから、いくらでもやりなおせる。
どんどん挑戦あるのみだ。
大体、ゲームなんてトライアンドエラーの繰り返しだからな。死んで覚えるのが当たり前みたいなところもある。
「それでは上りましょう!」
「「「おー!」」」
こうして俺達は、岩肌へ取りつき登り始めた。
ステータスが影響するらしく、ダイナとダリは結構な勢いで上へ上へと進んでいく。
アズもその≪器用≫の高さのお陰か、苦は無いようだ。
「く、これは、つらい……!」
しかし、俺にとってはかなりしんどい。
それはそうだ。
≪魅力≫がどれだけ高かろうと、岩肌が優しくしてくれる訳でもない。
今回の岩をよじ登るというのは俺にとってかなり大変なようだ。
まぁ姫様だし仕方ないよな!
「おっ、いたぞ!」
「本当ですね! ダリ、攻撃は僕に任せてください!」
「おう! 頼んだぜ!」
ダリが指差す先には、人の腕のような形の植物が、岩の表面に生えていた。
長さは六十センチくらいだろうか。
太さは、鍛えた成人男性の腕って感じ。
というか見た目がそのまんまだ。
腕を切り取って腕部分は緑に、拳は白く塗って岩に挿したらそっくりになるに違いない。
正直に言ってちょっと気持ち悪い。
「よいしょ!」
そんな筋肉花にダイナが攻撃を仕掛けた。
今は武器を装備していない為、素手の攻撃だ。
それでもダイナは≪筋力≫極振り。
一撃で筋肉花のHPバーは全損し、砕け散った。
ドロップアイテムは、無し。
ダイナが残念そうな顔をしている。
「アイテムは出なかったようです」
「大丈夫ですよ。次にいきましょう」
「はい!」
「ダイナくん、ダリくん、上の方にたっくさんいるよ!」
「おっ、マジだ!」
「今度こそ捥ぎ取ってやります!」
アズの声で上を見上げると、そこには大量の筋肉花がそそり立っていた。
岩肌に肩口の部分をくっつけて、力を入れているように蠢いている。
普通にえぐい。
しかし、他の三人にはただの獲物としか映らなかったようだ。
一目散に登って行く。
しんどいけど、俺でも登れないことはない。
ステータスが登るのに向いてる三人はかなり簡単に登れるようだ。
流石ゲーム。
そうして三十分程かけて筋肉花を狩り続けたが、一度もアイテムをドロップすることは無かった。
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