52 可愛さの為にその四!
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アズにお願いしていた装備が完成したという報せを受けて、俺とリリィはアズの工房へ招かれた。
そこでは完成した装備のお披露目会が行われた。
どれもアズの気合いがこもった素晴らしいものだった。
いくつかはステータスの都合上俺には装備出来ないものだったが、それは装備出来る人に分配することに決まった。
鬼コンビが可愛いリボンを装備することになったのも、そういう事情がある。
アズには俺の装備だけでなく皆の分もお願いしていた為、それも一緒に見せてもらった。
俺がこっそり依頼していた月を象ったヘアピンをリリィに渡した時の反応は、とても面白かった。
あそこまで狼狽える姿は珍しいからな。
流石に感極まって号泣し始めた時は焦ったが。
兎にも角にも、俺達の装備は大体が出来上がった。
▽
可愛さの為にその四!
「ではお願いします!」
「――かかれ!」
俺の合図と共に、リリィの号令がかかる。
場所はギルドホームの裏手にある訓練場。
その場所で俺は、アズ以外のメンバーと向かい合っていた。
俺が駆け出すのと同時に、皆も向かって来る。
武器まで抜いて本気の形相だ。
「なんて迫力……!」
前衛の鬼コンビの圧力がヤバイ。
二人とも可愛いリボンをつけてたりするが、そんなこと笑ってる場合じゃないくらい怖い。
それでも俺は逃げる訳にはいかない。
何も、争っている訳ではない。
これも本番が目前まで迫ったイベントの為の特訓だ。
「すぅー」
大きく息を吸って、歌い出す。
曲は勿論俺の大好きなあの歌。
それと同時に、足はステップを踏み始める。
歌い、踊る。
これによって二つのパッシブスキルが効果を発動する。
一つは、≪アイドルステップ≫。
素早く突進してきたサンゾウの攻撃が空を切る。
踊りながら躱そうとするが、ナイフが綺麗に俺の身体を通り抜けた。
「ござ……!?」
英語で≪lucky≫という文字のエフェクトが出現した、ということは完全回避が発動した。
これが≪アイドルステップ≫の効果だ。
踊っている間は、完全回避の確率がアップする。
そしてその上、≪魅力≫が高い程効果もアップする。
今回の方針になんてぴったりのスキルなのか。
ちなみに、完全回避とは運良く攻撃を回避出来た状態のことで、ダメージはゼロになる。
物理にしか判定が出ないらしいので要注意だ。
「~~♪」
「あっぶな、でござる!」
「へぶっ!?」
歌いながら片手のピースを目の横に持っていく。
≪チャーミングショット≫が発動して、ピンク色の光弾が発射された。
ギリギリで躱されたが、サンゾウを驚かせることは出来たようだ。
しかも、射線上にいたダイナが直撃を受けていた。
突然サンゾウが回避した位置から攻撃が飛んできたら、避けられなくても仕方がない。
むしろ狙ってみた。
この隙に後ろへ下がる。
もう一つのスキルが、≪歌姫≫だ。
歌っている間はスキルの発動に必要なスキル名の発声がいらなくなる。
それだけなら別に大した効果ではないが、なんと歌っている間は≪魅力≫が二割アップする効果もある。
なら歌わない理由は無い。
続けてプリンセスボックスを発動。
完全回避じゃ躱せない攻撃を持つレンを箱で囲んでしまう。
「やっぱりそう来るよね」
箱で囲まれたレンは焦った様子も無く、スキルの詠唱を開始した。
あの遅さは≪空間爆縮≫だ。
どうやらあれで箱を破壊するようだ。
こっちからは攻撃手段がないから手が出しようがない。
なんて厄介な。
「~~♪」
歌いながら、踊りながら、前へ出る。
サンゾウの攻撃はなんとか避けつつ、どうしても避けられない攻撃は完全回避に祈る。
数回切り付けられたが、全部当たらなかった。
ダリとリリィに回復してもらったダイナもすぐ目の前だ。
三人共が射程に入ったのを確認して、≪プリンセスミスト≫を発動する。
ピンク色の霧がブシャーっと噴射されて地面に広がった。
俺の≪魅力≫が濃縮されたこの霧は、範囲内の敵の速度と攻撃力を低下させる。
回避しやすくするためにとても便利なスキルだ。
そしてステップを踏みながら、迫ってくる前衛を待ち構える。
ここからは、ひたすら攻撃を躱しながら≪チャーミングショット≫を撃ちこんでいく戦術を練習した。
▽
「お姉様、御疲れ様でした」
「ありがとうございます」
メンバー相手に模擬戦をした後、俺は訓練場に座り込んでいた。
このゲームで肉体的な疲労は無いが、ずっと気を張り詰めていたせいで精神的に疲れた。
攻撃を受け続けるのしんどいわ。
「やっぱり姫ちゃんの箱、厄介だね。自分が受けて良く分かったよ」
「あれはえぐいでござるな。位置指定のスキルを取得している者もそう多くない故、かなりの相手に効果は抜群でござる」
「そうですね。だからなるべく頼らないようにしたい気持ちもあります」
「便利なスキルを自ら封印しようと努力なさるなんて、流石お姉様!」
「そ、そんなに大袈裟な話ではないですよ?」
負けず嫌いというか、天邪鬼というか。
それだけで勝てると言われると、なんとなく使いたくなくなってしまうのだ。
流石にこのチート装備一式は手放さないけどな。
これがあるからこそ俺はまだ戦えてるに違いないんだから。
「お姫様ー、お客さんだよー!」
「え?」
元気一杯な声のした方を見ると、アズが向かって来ていた。
相変わらず大きなカートを引いている。
問題はその後ろ。
よく似た顔のソフトモヒカン二人組と、更に後には三人の男と一人の女性が続いている。
なんだあの不審者集団は。
「来ましたか。安心してくださいお姉様、奴らは私がレンに頼んで呼んでもらいました」
「リリィさんが?」
「はい」
「おっす姫様。と、愉快な仲間達。元気してたか? オレ達は元気だぜ、なあ兄者!」
「そうだな弟者。よお姫様。立派なギルドホームだなこいつは。オレ達のよりも広いぜ」
「こんにちは。お陰様で元気でやってます」
突然の登場に疑問に思いながら、とりあえず挨拶を返す。
そして、彼らを呼び出した理由をリリィが教えてくれた。
「私達はパーティー単位での対人戦の経験がほとんどありません。なので、サンドバッ――訓練の相手として彼らに来てもらったのです。彼らも、お姉様の糧になるのなら本望でしょう!」
サンドバッグとか言いそうになってるし、糧とか言っちゃってる。
もずく兄弟とその仲間達がざわついているが、リリィに気にとめた様子はない。
もしかして、俺とレンが馬鹿にされたことを根に持ってるんだろうか。
「とにかく、オレ達は模擬戦の相手をすりゃあいいんだな?」
「はい、お願いします」
「了解した。オレ達も色々試したかったところだし、いい機会だぜ。なあ兄者!」
「そうだな弟者! せっかくの機会、全力であたらせてもらおう!」
こうして俺達は、もずく兄弟率いるパーティーとの模擬戦闘で連携を鍛えていった。
もずくパーティーはβテスターの集団らしく、とても強かった。
勉強になる部分も沢山あるし、連携の重要性も認識出来る、良い相手だ。
セッティングしてくれたレンとリリィには感謝しかないな。
こうして俺達は、時間が許す限り模擬戦に勤しんだ。
『条件を満たした為、称号≪指揮官≫を手に入れました。
クラススキル≪ポジションチェンジ≫を習得しました』
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