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51 可愛さの為にその三!


 リリィとの猛特訓のお陰で、歌とダンスはある程度形になった。

 生身の肉体じゃないからこそ出来た芸当だな。

 現実で同じ動きをしようと思っても無理だと思う。多分肉体が意識について来れずに死ぬ。

 いいんだ。

 現実ではただのおっさんだからな。

 歌って踊る機会なんて一生来ないだろう。

 

 そして、二つの称号とスキルを得た。

 どちらも有用で、有難い効果を持っている。

 まるで俺達の努力が認められているかのようで、少し嬉しくなった。





 可愛さの為にその三!

 

「お姫様ー!」


「アズさん。こんにちは」


「こんにちは!」


 リリィとスキルを見せ合いながら話をしていると、ダンスホールに一人の少女が飛び込んで来た。

 アズだ。

 茶色いツインテールを揺らしてご機嫌に駆け寄ってくる。


 俺の前で止まったアズに挨拶をすると、笑顔で返してくれる。

 なんだこの可愛い生き物は。

 現実に持って帰りたい。

 駄目だ、絵面が犯罪的過ぎる。普通に捕まるわ。


「あら、アズちゃん。もしかして完成したの?」


「うん! 呼びに行こうと思って探してたら、お姫様はここにいるってサンゾウさんが教えてくれたの!」


「そうなのね。お姉様のレッスンも一区切りだったから、丁度良かったわ。お姉様、行きましょう」


「行こ行こー!」


「あ、はい……?」


 よく分からない内にリリィとアズに片腕ずつ引っ張られ、連れて行かれる。

 少し歩いて着いたのは、工房。 

 現状リリィ専用の作業場である。


 広い部屋の半分が鍛冶エリアで、大きな窯や金床(かなとこ)が設置してある。

 奥には扉があって、あそこから裏庭へと出ることが出来る。

 裏庭は訓練場の隣なので、試し切りにももってこいだ。


 先導していたアズが、くるっとこちらを振り返る。

 まるで自慢のオモチャを見せつけるような、物凄い笑顔だ。


「アズの工房へようこそ!」


 そうか。ここはいわば自分の城だもんな。

 自慢げにしたくなるのも、嬉しくって仕方がないのもよく分かる。

 しかもこれから完成した装備を見せてくれるらしい。

 アズもリリィも俺も、ワクワクを抑えきれないぜ。


「それじゃあアズさん、早速見せてもらってもいいですか?」


「うん!」


「お姉様の新しい装備……どんなのでしょう。ふふ、ふふう」


 アズが何やら画面を操作し出している間、リリィは何かを妄想しはじめた。

 だらしなく不気味に笑っていて美人が台無しだ。

 っていうかもうこわい。


「まずは一つ目! 名前は≪おっきな赤いリボン≫! 頭の後ろにつけるの!」


 アズが取り出したのは、赤く大きなリボンだった。

 まるで金属のような光沢があってキラキラと光っている。


「確かに可愛いわ! メタリックな赤色がお姉様の黒髪をよく引き立ててくれそうね!」


「確かに、デザインも可愛いですね」


 大きなリボンは頭の後ろに着けるようだ。

 姫っぽい感じがして良さそうに見える。


「はいこれ、つけてみて!」


「はい」

 

「あっ、お姉様、私につけさせてください!」


「それじゃあお願いします」


「はい!」


 リリィがリボンを受け取ったので、俺は背中を向ける。


「あ、あれ?」


 どんな感じになるかなー、なんて思っていたら、目線が自然と持ち上がって行った。

 というよりも、何かに引っ張られるように頭が後ろに倒れていく感じだ。


「っとと?」


「お姉様? どうしました?」


「いえ、なんだか頭が勝手に……あれ?」


 首に力を込めて引き戻すと、今度は逆に前に倒れそうになる。

 リリィが心配して声を掛けてきたので、なんとなく感想を伝える。

 ふと、頭を引っ張る不思議な力が消えた。

 振り向くと、リリィがリボンを持っている。


「これ、物凄く重たいみたいですね」


「え?」


「よく見たら重量が金属の兜並にあります。お姉様の≪筋力≫で装備するとペナルティが発生しちゃうんですね」


「なるほど、そういうことでしたか」


 納得した。どうやらさっき俺の頭を引っ張っていたのはリボンの重さだったらしい。

 このゲーム、装備の重量によって必要な≪筋力≫値が決まっており、足りないとペナルティが発生する。

 武器だと命中率と攻撃速度の低下。

 防具だと身体のふらつきと移動速度の低下。


 今までギリギリ装備出来ていたから体感したことはなかったけど、あんな感じなんだな。

 あれは確かに大きなペナルティだ。


「お姫様、大丈夫!?」


「はい、心配しなくても大丈夫ですよ」


「良かったー」


「アズちゃん、これは何で出来てるの?」


「えっと、≪レッドメタル≫っていう金属だよ! 赤くてキラキラで可愛いよね!」


「お姉様、このリボン総レッドメタル製です。重たい代わりに攻撃力増加のボーナスが付く金属素材ですね」


「重たいわけですね」


 あれだけ重たいと俺が装備するわけにもいかない。

 ダンスに支障が出てしまうからな。


 リリィが手に持った時に気付かなかったのは、武器以外の装備は持つだけならペナルティは発生しないからだ。

 実際に身に着けた時にだけ判定が入る仕様なのは、ゲーム的な都合だろう。


「それじゃあ今度は、これ! ≪小さな青いリボン≫! 顔の横につけるんだよ!」


「美しい青さね。これは、お姉様の黒髪と調和して美しさを強調してくれるに違いないわ!」


 アズが取り出したのは、その名の通り小さな青いリボン。

 さっきのものとは違った、落ち着いた青色は艶やかに光を反射している。


「それではお姉様、失礼します」


「はい、お願いします」


「左右どちらにしますか?」


「うーん、左でお願いします」


「分かりました!」


 このリボンは顔の右側か左側かの、片方に着ける方式のようなので、左側頭部をリリィに向ける。


「う、ぬぬぬぬぬ」


 今度のは大丈夫そうだな、なんて思った瞬間、顔が左に傾いた。

 身体まで傾きそうになるのを堪えて顔を起こす。


 次の瞬間には重みが消えて、顔だけ向けるとリリィが青いリボンを持っていた。

 なんかさっきも見たぞこの光景。


「アズちゃん、このリボンは何で出来てるの?」


「えっと、≪ブルーメタル≫かな! この青色、すっごく綺麗だよね!」


「お姉様、このリボン総ブルーメタル製です。重たい代わりに防御力増加のボーナスが付く金属素材ですね」


「重たいわけですね……」


 これもか。

 やっぱり重たすぎて俺には装備出来ない。

 

 こうしてアズの装備品評会はどんどんと進んで行った。


 ちなみに、青いリボンと赤いリボンはせっかくなので使うことにした。

 勿論、俺ではない。


「うおおおお! こいつ、防御力が三十もアップしやがるぜ!」


「こっちのも、攻撃力が三十も上がりますよ! アクセサリー枠でこの数値は破格ですね!」


 赤鬼のダリが小さな青いリボンを頭の右側に。

 短い黒髪と調和して美しさを強調している。


 青鬼のダイナが赤いリボンを頭の後ろに。

 短い黒髪をよく引き立てている。


 それぞれがリボンを揺らして超ご機嫌である。正直こわい。

 だけど脳味噌が筋肉な二人にとって、重要なのは見た目よりも数値であるようで、とても気に入ったようだ。


「こんないい装備をありがとうな姫さん!」


「ええ、ほんとですよ! 姫様ありがとうございます!」


「お礼ならそれを作ったアズさんに言ってあげてください」


「おお、そうだな! ありがとよアズ!」


「ありがとうございますアズさん!」


「二人ともかわいー! どういたしましてー!」


 まぁ、本人達が気に入ったんなら俺も気にしないでおこう。

 アズが頑張って作ったものを捨てたり売ったりするのも勿体ないしな。



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― 新着の感想 ―
[一言] あえて言おう周りに人がいるにも関わらず吹き出しました 責任取って毎秒投稿お願いします これからも頑張ってください
[一言] アズちゃんはそれでいいのね笑
[一言] お前らが可愛い装備をつけるのか(困惑)
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