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43 棚から宮殿

本日三回目の更新です!


 俺達はギルドホームを購入する為、金策に精を出し始めた。

 ただのホームではない。

 目指すのは、価格帯で言うと五百万Jのランクだ。

 現状手が出せる範囲と質を比べた結果、妥協したのがそこだったそうだ。


 それを語るリリィはとても悔しそうで、二十億Jの大豪邸が欲しくて仕方がないのは明らかだ。

 でも、諦めて正解だと思う。

 まだゲームが始まって二週間くらいなのに、そんなにお金が稼げる訳がない。


 そもそも、プレイヤーが持っているお金がそんなに無いだろうし。

 目標とした五百万Jですら、時間をお金で買うような連中に期待してのことだからな。

 実はこのゲーム、リアルマネーでゲーム内のお金を買うことが出来る。


 勿論無制限ではない。

 一回限りで、数種類あるパックから選んで購入出来る。

 安くて千円、高くて一万円。

 レートは百倍で、金額が高いものはオマケも多くなる。

 最初のスタートダッシュを決めたい奴や、こつこつ金策する時間が取れない人にバカウケらしい。


 だから俺達は、そんな人達がどんどん値段を釣り上げて買い取りを募集している素材をかき集めることで、金策としたのだ。





 金策を開始して一週間が過ぎた。

 資金は百四十万溜まっていた。

 百二十万ちょっと稼いだ計算になる。


「思ったよりペースが落ちてしまったわね……」


 しかし、リリィは難しい顔をしてギルド資産の画面を睨んでいる。

 リリィ的にはもう三百万くらい稼げる予定だったらしい。


「やはり、廃人ギルドが乗り出してきたのがつらかったでござるな」


「畜生、せっかく途中まで順調だったのによぉ。マジぶっ潰してやる」


「……そうですね。この雪辱は、次の日曜日に開催される第一回ギルド対抗戦で果たしてあげましょう。その時まで、いっそう筋肉を鍛えるんですよダリ!」


「おう任せとけダイナ!」


 そう、二日目くらいまでは調子が良かった。

 石系モンスターの素材が一個あたり千二百Jで売れたりして、うはうはだった。

 陰りが見えたのは三日目から。

 

 俺一人じゃロクに狩れないから、最低でもアタッカーと組む必要がある。

 その日はお昼くらいからレンがやってきたので、二人で一層ダンジョンへと向かった。


 俺とのペアだとアクティブモンスターしかいない一層ダンジョンでは安定性に欠けるが、危なくなったら箱がある。

 後はレンの近接魔法でイチコロだ。


 しかし、いつもよりも遭遇する数が少ない。

 そして、金策を始めた頃はほとんどいなかったプレイヤー達とすれ違うようになっていた。


 一応、それなりには拾えていたのでその時はあまり気にしていなかった。

 それが夜になって全員で出向いた時、はっきりと気付いた。


 人、人、人。

 数が多い筈のモンスターよりもプレイヤーの方が遭遇率が高いという、恐ろしいことになっていた。


 拾える量でも相場的な意味でも、金銭的な効率は下がっていった。

 途中で方針を変えるのも何か負ける気がしたので続けてみたが、リリィの目標からは大きく下がってしまったようだ。


「でもでも、一週間で百二十万円ってすごいよ!」


「そうですね。十分稼げたと思います」


 アズが純粋に喜んでいるので、俺も乗っかる。

 いや、一週間で百二十万Jなら十分すごいって。

 俺としては本当にそう思う。


「でも……しかし……」


 それでもリリィは納得していない様子だ。

 うーん、どうしたらいいだろうか。


 そうだ。

 困った時のあいつだ。


 というわけで、ギルドメンバー総出で≪東の森≫へとやってきた。

 凶悪なモンスターがいるが、数は少ない。

 一体一体を丁寧に処理することで、難なく目的地である中央へと到着した。


 そこには相も変わらず、イケメン騎士が立っていた。

 どことなく前よりも元気そうだ。


 ある程度近づくと、爽やかなイケメンスマイルで出迎えてくれた。


「これは姫、このような場所に何度も足を運んでくださるなど、とても嬉しく思います。して、そちらの方々は?」


「彼女達は――」


「私達は、お姉様の僕よ!」


「しかり。従者にござる」


「ほう、姫様の――」


 俺が紹介しようとしたのを遮って、リリィが前に出た。

 続くようにサンゾウまで。

 他の皆も行動には移さないが、何故かやる気に満ち溢れている。

 何のやる気だろう。


 トラストルも何かを感じ取ったのか、若干険しい顔で皆を眺め出した。

 もしかして、やべー奴同士が反発し合って一悶着あるんだろうか。


「初めまして。私は姫様の騎士として忠誠を誓った、トラストルと申します。同胞(どうほう)として、お見知りおきを下さい」


 ほんの少しの間の後、トラストルは笑顔になった。

 良かった、何も起きなかった。

 イベントバトルとか始まったらどうしようかと思ってビクビクしてたわ。


「ええ、よろしく頼むわね」


 ギルドメンバーを代表して、リリィが握手を交わした。

 なんかとても仲が良さげだ。

 まさか今の一瞬で、お互いのやべーレベルを確かめ合い、認め合ったというのか?


「ところで姫、大勢でどうされたのですか?」


「あ、えっとですね」


 そうだ。変なことを考えている場合じゃない。

 トラストルに事情を説明しようと口を開きかけたところで、リリィが割り込んできた。


「お姉様、私から説明いたします!」


「えっと、それじゃあお願いしますね」


「はい!」

 

 リリィは満面の笑顔だ。

 俺は説明とかあまり得意じゃないから、ちょっと助かった。


 リリィは大胆かつ的確に、情熱に満ち溢れた説明をトラストルに対して行った。

 聞いているトラストルの顔も、真剣そのものだ。

 

「というわけなんです。私達としても、せいぜい百二十万J程度のギルドホームでは、姫様の拠点として使っていただくのは忍びなく……」


「シノビならここにいるでござるが」


「ちょっと黙ってなさい」


「はい」


「事情は分かりました。たった一週間で百二十万も稼げるのは凄いと、素直にそう思います。しかし、それだけでは姫様の居城とするには足りないのもまた事実」


「そうなんです。お姉様と釣り合う為には、まだ足りない!」


「であるならば、私が助力するのは騎士として当然の務めと言えましょう」


 そうなの?


「ええ、そうね」


 そうらしい。

 俺の混ざれないところで交渉は進んで行く。

 他のメンバーも空気だが、真剣な顔で二人の話を聞いている。

 

「それでは、私が拠点としている場所へ案内致します」


 トラストルに連れられてやってきたのは、≪スターレの街≫の中でも一等地と思われる場所だった。

 その中でも宮殿と見間違うレベルの建物。

 その門の前に俺達はいた。


「これは姫がこの地の王より(たまわ)ったものですから、それは即ち姫のもの。どうぞ、好きに使って下さい」

 

 マジかよ。

 なんかものすごい豪邸をもらってしまったんだけど。



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