40 詐欺師の先の大詐欺師
紆余曲折あってギルド名は≪最強可愛い姫様のギルド≫に決まった。
俺も色々な案は出した。
しかし、何故か皆これ系の名前に肯定的で、押し負けてしまった。
出た案の中には社会的終身刑みたいなのもあったから、これでもマシな方なのがまだ救いだな。
あんなのつけられたらもう表を歩けなくなってしまう。
そんなこんながあった翌日。
俺は一人で≪西の平原≫に来ていた。
もはやここが懐かしい。
ピョンピョン跳ねる≪白玉兎≫を狩ってたのも、かなり短い間だった。
レンや皆と出会わなければ、今でもまだ杖でペチペチ叩いてた恐れがあるのが怖い。
そう考えると、やはり皆との出会いには感謝しかない。
ここへやって来たのは、スキルの検証の為だ。
街中でもスキルの使用は出来るが、普通に目立つ。
いつこの間みたいな対人イベントが開催されるか分からないし、人目は避けるべきだろう。
このエリアは初心者向けで、今や真面目に兎を狩ってる人はほとんどいない。
一層ダンジョンへの通り道か、街の入り口付近でのんびりしてるかがほとんどの状態だ。
「この辺りでいいかな」
街とダンジョンの直線上から逸れてしまえば、人の気配は全く無くなった。
≪白玉兎≫がちらほらいる程度だ。
「えーっと、まずはこのスキルから」
本来のモーションは武器か鎧に手を翳すポーズだが、攻撃以外のスキルは全て≪フェイクモーション≫の効果で祈るようなポーズに変更されている。
このスキルも例外ではない。
≪プリンセスロッド≫を握る右手に左手を重ねるようにして、両手を握りしめる。
「≪エンチャントファイア≫」
対象は武器。
スキル名を口にすると、杖の先端に赤い炎が灯った。
試しにこの状態で≪白玉兎≫を叩いてみる。
「ピッ」
一撃で撲殺してしまった。
ふむ、道中で叩いた時よりも表示されるダメージが大きい。
地属性相手には五割アップするらしいから、物理戦闘職には便利なスキルかもしれない。
ちなみに、この状態で苦手属性と同属性に攻撃するとダメージが半減してしまう。
すなわち水と火。
属性が入り乱れてるようなところだと逆に使いづらいかもしれないな。
防具に使用した場合は、同属性と得意属性を半減して、苦手属性は五割増しになる。
火属性を鎧に付与すると、火と地はダメージを下げられるが、水はダメージが増える。
関係ない風属性は等倍。
さて、では次のスキル。
「これもなんか使い所に困る感じなんだよな」
スキルの名前は≪フェイクスペル≫。
そう、これは≪大詐欺師≫の称号で得たスキルだ。
≪詐欺師≫の称号で得たスキルが≪フェイクモーション≫だったから、同系統なのがこの時点で分かる。
説明では、スキル名を他の物に変更すると書いてある。
色々と設定出来るらしいけど……おお?
スキルの詳細画面を見つめていると、設定画面が飛び出してきた。
そこには、いくつかの項目がリストアップされていた。
≪食べ物≫に≪動物≫、≪会話≫……なんだこれ?
一先ず無難そうな≪動物≫を選択。
すると、さらに細かいリストが現れた。
≪猫≫、≪犬≫、≪兎≫、等々。
猫を選択。
設定画面が閉じた。
今ので設定が完了したらしい。
それじゃあさっそく、スキルを使ってみるか。
両手を握りしめる。
「≪マンチカン≫――っ!?」
≪フェイクモーション≫と言った筈の俺の口から聞こえてきたのは、猫の一種。
短い足が特徴で、比較的大人しめで人によく懐く、滅茶苦茶可愛い猫の一種!
動物全般好きだが、猫は大好き。
その中でもマンチカンはめっちゃ好き。可愛い。
長毛や短毛、色んな毛皮のマンチカン達とモフりモフられゴロゴロしたい。
いや、問題は何故俺の口からその名前が出て来たのか、ということだ。
まず間違いなく≪フェイクスペル≫の効果だろう。
きちんと発動したということだ。
これでフェイク状態になって、もう一度≪フェイクスペル≫を使用するまでは解かれることはなく、一定時間ごとにMPが消費されていく。
試しに他のスキルを使ってみるか。
「≪ノルウェージャンフォレストキャット≫!!」
五メートル程向こうを跳ねていた≪白玉兎≫が箱で囲われた。
なるほど。やっぱりそういう効果か。
しばらく時間を置いて、もう一度スキルを発動する。
「≪ベンガル≫!」
箱がもう一つ、別の≪白玉兎≫を囲うように出現した。
同じスキルでも同じ名前になるわけではないらしい。
木に向かって≪チャーミングショット≫を連打した結果、特に規則性は見られなかった。
完全にランダムだと思う。多分。
「≪フェイクスペル≫」
解除の為の発動は、普通に発声されるらしい。
言ったつもりの言葉と実際に出てきた言葉が違うせいで、まだ頭が混乱している。
これは、慣れるのに時間が掛かりそうだ。
使うスキルの名前を詐称するスキルか。
結局これは、どういう場面で使うんだろう。
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