38 渇いた大地に雨よ降れ!
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珍しく早起きした俺は、突発型のクエストでもこなそうとしていたところ、リリィと合流した。
そのまま当初の予定通り二層にある≪港街アルベイト≫へ。
そこで早速困っていそうな老人を発見したので声をかけたところ、突然発狂した。
俺を見た老人に女神かと問われた時に、リリィがそうだと断言してしまったせいだ。
女神じゃああああと大絶叫する老人を大人しくさせるのに一分もかかってしまった。
満足そうに頷くリリィに、興奮して叫ぶジジイ、そして周囲の視線を浴びながらパニックになりそうな俺。
なんて酷い絵面なんだ。
俺の可愛さ(物理)をぶつけてやろうかと本気で悩んだよ。
最終的に≪プリンセス・ボックス≫で隔離したところで、やっと落ち着いた。
「すみませんのう、ワシとしたことが、つい興奮しすぎてしまいましたわい。女神様、これを受け取ってくだせぇ」
「お姉様の真の姿に気付いてしまったのだもの、仕方ないわ」
「おお、なんと慈悲深い……。流石は女神様に仕える神官様じゃあ……」
誰が慈悲深い神官か。
いや、確かにリリィは神官系のクラスだけど。
どう考えてもやべーやつだろ。
ちなみに、老人からは五千Jと経験値をいただいた。
もしかしてこれもクエストで、お手軽クリアしてしまった報酬かな。
もらえるものはもらっておく。
「女神様、お願いがありますじゃ」
「聞きましょう」
「ワシの村では作物を作っておるのですが、ここのところ雨が全く降らず、困っておるのですじゃ。女神様のお力で、なんとかしていただけないでしょうか」
「なるほど。お姉様は慈悲深いお方です。助けになると約束しましょう」
「おおお、引き受けて下さいますかのう!」
なお、俺は喋っていない。
全てリリィが受け答えしている状態だ。
俺としても可哀そうなNPCを放っておくつもりはないし、話を進めてもらえるなら構わない。
いっそ楽でいい。
俺を女神と呼ばれたことが嬉しいのか、その神官扱いされたことが嬉しいのか、その両方なのか。
詳しくは不明だが、リリィはえらく上機嫌だ。
どことなく喋り方も神官っぽい。
「お姉様、やりましょう!」
「はい、私達で解決しましょう」
満面の笑みで振られて、俺も笑顔で返した。
ゲームのクエストなんだし、そんなに深く考えなくても大丈夫だろう。
失敗したところで誰もしなないだろうし、仮に完璧にクリアしたところで、他のプレイヤーがまた哀れな老人に出会ったりするんだ。
オンラインゲームってそういうものだと聞く。
「それでは村までお送りしますじゃ」
『移動しますか?』
『YES』『NO』
選択肢が現れた。
どうやら、転送してくれるらしい。
「お姉様、私はいつでも大丈夫です」
「では移動しますね」
ポチっとイエスを押した。
瞬間、景色が暗転、そして真っ白になり、色づいていく。
茶色い。
カラッカラに乾いた赤茶けた大地が広がっている。
ここは村の入り口らしく、奥の方には家や畑が見える。
日差しは強く、全てが赤茶色に見える。
「ここがワシらの村、≪アレータ村≫ですじゃ」
「本当に荒れ果てた村って感じですね」
老人の紹介に対して、リリィが呟いた。
ホントにな。
俺も思ったけど、口に出すのはなんとか堪えた。
「とりあえず、日照りの原因を探りましょうか」
「はいお姉様!」
何はともあれ探索だ。
原因を探さない事には解決の糸口も見えない。
「あれ?」
「え?」
そう思っていたところ、なんだか暗くなってきた。
そしてリリィが不思議そうな声を漏らしつつ、手のひらを上に向ける。
その上にポタッと水滴が落ちたかと思うと、その数を増して、乾いた地面を叩き始めた。
驚きの声をあげる間もなく、雨が村中を包み込む。
どこからか村人たちがやってきて、歓喜の声を挙げ始めた。
「あ、雨じゃあああああ!」
「き、きせ、き、きき奇跡だ!!」
「女神様じゃ! 女神様がやってくだすったんじゃ!」
「女神様じゃと!?」
「おお、女神様じゃ!!」
「なんと神々しい!」
村人たちの注目が俺に集まった。
なんだこれ、いや、なんだこれ。
ハイテンション過ぎて恐怖すら感じる。
いや、さっきまでお通夜みたいな空気で村人なんて誰もいなかったじゃん。
今は軽く五十人くらいいる気がする。
お前らどっから湧いて来た。
どどっと寄ってくる村人達。
恐怖に悲鳴をあげそうになったが、寸前で堪えた。
俺の前に立つ影があったからだ。
「貴方達!」
リリィ、なんてかっこいいんだ。
俺を姉と慕ってくれてるのは伊達じゃなかったんだな。
やべーやつランキングの上位にランクインさせていてすまなかった。
「全ては女神であるお姉様のお力よ! 感謝を捧げなさい!」
「え?」
「女神様に祈りを捧げるのじゃあああああ!!」
「「「「「「ははぁー!!」」」」」
気付けば、村人たちが俺達を囲むように跪いて祈りを捧げていた。
なんだこれ。なんだこれ!?
思わず相当な勢いでリリィの方へ顔を向けると、相変わらず、リリィは満足げだった。
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