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36 何もしてないのに感謝される不思議


 アズを紹介した後ギルドを作る為に必要なアイテムを採りに向かった。

 順調に狩れた為、俺とサンゾウのペアはノルマを達成。

 事前に一部集めていたのも大きかった。


 リリィ達のチームは一層ダンジョンのボスを倒すところからだった為、ノルマには届かなかった。

 なので今度は全員で突撃することにした。


「すみません」


「はい、こちらユースフルサービスです。ご用件はなんでしょうか?」


「転送で、二層へお願いします」


「かしこまりました。個人ですか?」


「パーティーでお願いします」


「はい、それでは転送いたします。お気をつけて」


 メイド服のお姉さんに話しかけて、二層への転送をお願いする。

 この人は≪ユースフルサービス≫という組織に所属する職員さんで、アイテムを預けられる≪倉庫≫や、位置のセーブ、転送等を請け負っているNPCだ。


 この街にも何人かいて、たまり場から一番近かったのがこの青髪ロングのお姉さんというわけだ。

 少し癖のあるウェーブと、大人しそうな目元が愛らしい。

 ミニもいいんだけど、ロングスカートのメイド服もまた素敵である。


 パーティーリーダーがお願いすることで、メンバー全員が一度に移動することも出来る。

 今はまだ二層にしか行けないが、今後どんどん行先が増えて利便性も増すことだろう。


「今日もいい天気ですね。それに、潮風も感じます」


「海の香りまで再現するとは、恐ろしい技術力でござるな」


「ああ、海辺の街に佇むお姉様……良い……!」


 飛ばされてきたのは、二層にある≪港街アルベイト≫。

 その名の通り海に面している街だ。

 魚介系のモンスターの素材はこの周辺なら大体のモンスターが落とす。


 その中でも数が多く、沢山拾えそうな場所があるらしい。

 二層はボスを倒した流れで少し寄っただけで、ほとんど来たことがない。

 狩場に関しては、よく調べているリリィやレンにお任せだ。


「洞窟があるんですか?」


「そうだよ。ちょっと足場が悪いから気を付けてね」


「はい、ありがとうございます」


「岩とかがキラキラ光ってて、すごいんだよ!」


「へー、それは楽しみですね」


 わいわいと話しながら街を海の方へ出た。

 カニみたいなのがのんびり歩く砂浜のエリアを抜けて、洞窟の入り口へとやって来た。


 ここが、二層の洞窟ダンジョンか。

 リリィ達によれば、浅瀬になっていて脚の生えた魚が襲って来るらしい。


 足を踏み入れると、足が水面を叩く感触が帰って来た。

 パシャリパシャリと鳴る音がちょっと楽しい。

 そして隙間だらけの靴の中に水が入ってこないのは地味に嬉しい。


「おおー、面白いですね!」


「楽しいよね!」


「ああ、少女と水辺で戯れるお姉様もなんて可愛いんでしょう……」


 いつも通りあってないような指示を出して、狩りが始まった。


 このダンジョンは手足の生えた魚やまっすぐ走って来るカニ、動かないが触手を伸ばしてくるイソギンチャク等がいた。

 強さ的には一層ダンジョンと同じくらい?

 タイプ的にはパワーよりもスピード寄りだから一概には言えないけど。 


 奥から地下へ行けるそうだけど、そっちはもう少し強くなるそうだ。

 だけど今日は行かない。目的は素材集めだからな。


 三十分程狩ったところで、目標の数が集まった。

 火力が三人もいるとサクサク狩れるな。

 俺も支援の仕事がほぼ無いお陰で可愛さ(物理)を振りまいて撃ち抜いてたりした。


 意外と便利な≪チャーミングショット≫だけど、俺の≪魅力≫の塊だからか、中々の威力がある。

 ここでは硬い方であるカニも一撃でバラバラだ。

 

 狩りが終われば、一層のたまり場に戻る。

 転移があるしそこまで苦でもないな。


「それじゃあアズさん、お願いしますね」


「うん、頑張るよ!」


 アイテムは皆で拾って、アズに預ける方式にしていた。

 微妙に残っていたものも全部アズに渡して、使い道の無さそうなものはNPCへ売ってお金に。

 それ以外のものと併せて、全員に均等に分ける。


 今回は素材集めが目的だったので、目当ての素材は必要な数、全部俺が預かった。

 アズは元気よく駆け出していき、数分後に元気よく帰って来た。

 ガラガラと音をたてるカートがアズの楽しさを表しているようだ。


「アズちゃん、私達五人の分は全てお姉様に渡してもらえる?」


「えっ、どうしたんですか突然」


「お姉様はいつも私達の為に頑張ってくださってるので、何かしてあげられないかと思ったんです。ささやかですが、受け取ってください」


「いえ、そんなことないですよ。助けられてるのはむしろ私の方で」


「アズのもあげる!」


「アズさんまで!?」


「アズもお姫様には助けてもらったし、少しでも恩返ししたいの」


「ええっと……」


 困った。

 狩りとかでろくに何もしてないのにあんなこと言われると、バツが悪い。

 好き勝手に攻撃してただけで回復すらほとんどしてないよ俺。


 しかし、アズの真っ直ぐな瞳に見つめられるとどうにも断りづらい。

 仕方ない。

 受け取っておいて、これはギルドの資金として大事に使わせてもらおう。


「……わかりました、大事に使わせてもらいますね」


「じゃあ、これ!」


「はい。皆さん、ありがとうございます」


「こちらこそありがとうだよ」


「感謝の念が尽きぬでござる」


「今の僕らがあるのも姫様のお陰ですからね。感謝してますよ」


「マジありがとな姫さん! もっともっと恩返しに力を入れるぜ!」


「遠慮しがちなお姉様の笑顔! ああ素敵です! もっとください! もっと!!」


「しかりっ!!」


「アズももっと頑張るね!」


 アズからお金を受け取ると、皆が大興奮だ。

 何故か俺の方が感謝される始末。

 よく分からないけど、皆が楽しそうならいっか。



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