97 絶対安静プリンセス
もずく兄弟率いるギルドが強敵すぎて、歌って踊ったらまた倒れちゃいました。
てへぺろ。
☆
なんとか準決勝には勝ったものの、俺は決着と同時に倒れた。
なので試合後の挨拶やなんかの前にさっさと医務室に運ばれてしまった。
その数分後にはギルドメンバーが医務室に到着。
色々声を掛けてくれた後は、説教タイムが始まった。
「姫、無茶はしないで欲しいとあれほど言ったでござる」
「そうだよ姫ちゃん。勝ち負けよりも姫ちゃんの身体の方が大事なんだから」
「そうでござる。拙者等の為に頑張ってくれるのはとても、それはもう至極嬉しいのでござるが、それで姫に倒れられては喜べないでござるよ」
「はい、すみません……」
皆は俺の体調を気遣ってくれて、しばらく会話をした後は控室に引き上げて行った。
残っているのはサンゾウ、レン、リリィの三人だけだ。
そして渋い顔のサンゾウと、苦笑を浮かべるレンに怒られていた。
俺のやったことを考えると当たり前ではあるんだけど。
「ゲーム内で操作が覚束なくなるだけならばまだマシでござる。しかし、ナイン殿が言うには現実にまで影響が出る恐れがあるんでござるよ? 最悪寝たきりでござる」
「そんなことになったら嫌だからね。勿論姫ちゃんや皆と一緒に勝ちたいけど、それは姫ちゃんを犠牲にしてまで叶えたいとは思えないよ」
二人の正論が突き刺さる。
いや、うん、二人の台詞はよく理解出来る。
とても当たり前の話だ。
もし他のメンバーが、身体の無理をおしてまで一緒に戦おうとすれば間違いなく止める。
無理するな。
そこまでしなくてもいい。
絶対俺もそう言う。
だけど、いざ自分のことになると我慢出来なかった。
手段があるのにそれを打たないなんて、出来なかった。
「決勝ではもうしませんから、許して下さい」
頭を下げると、二人とも渋い顔のまま、納得するように頷いてくれた。
リリィは最初からずっと、ただ見守ってくれていた。
今回のことでもっと叱られると思ったけど、彼女は俺のやりたいようにやらせてくれるらしい。
「決勝は僕らも精一杯頑張るから、姫ちゃんは安心して見守っててね」
「そうでござる。姫が応援してくれているだけで拙者達には百人力、いや、千人力でござる」
「お姉様、決勝は私達に任せてください」
「ありがとうございます」
ベッドに寝たきりのままの俺の状態は、深刻だ。
準決勝で無理をしたせいか、もはや身体を起こす事すら出来ない。
ナインの診断では、次の試合まで大人しくしていれば身体を起こすことくらいは出来るだろう、というものだった。
多少回復しても立ち上がることすら困難な状態では、まともに戦闘に加われる訳がない。
スキルを使おうにもモーションが取れないんでは完璧に足手まといだ。
ナインにはログアウトを勧められたが、それだけは断固拒否した。
いくら身体を休めることが回復に一番いいと言われても、今回のイベントの仕様上一度ログアウトすれば終了まで戻って来られない。
それならどれだけ役立たずになろうとも、同じステージの上に立ちたい。
皆と一緒に戦いたい。
「それじゃあ僕達はそろそろ控室に戻るから、試合までゆっくり休んでてね」
「はい、ありがとうございました」
次の試合まではまだしばらくある。
もう一つの準決勝の途中だし、それが終われば二十分程度の休憩時間が設けられている。
その間しっかり休めるよう、気を遣ってくれたようだ。
代表してレンが一声かけてくれた後、揃って退室していった。
「――――さて、どうしようかなぁ」
ふぅと息を吐いてから、呟く。
何も出来なくてもステージに立ちたい。
そしてステージに立ったからには、何かしたい。
モーションが問題なく出来るようになればいいが、そこまで回復しなかった場合はどうするか。
今の俺に何が出来るだろうか。
それを考える為に、準決勝後、ナインに言われた台詞を思い出す。
『歌って踊って戦況を把握して、最適なスキルを選択して発動するなんて脳に負担がかかりすぎなんですってば。せめて歌と踊りが無ければギリギリ大丈夫だとは思うんですけどね。まぁ、腕や身体が動かないと無理でしょうけど』
俺に出来る事。
何も考えずにいるのがこの世界での最高効率の休み方だとも言われたけど、ついつい考えてしまう。
俺無しで勝てるかもしれないけど、相手もトーナメントを勝ち抜いてくる猛者だ。
そんなに余裕はないだろう。
ああああああ、頭がパンクしそうだ。
勝ちたい。
今回は皆の強さを見せつけてやりたい。
産業廃棄物と呼ばれた俺達の強さを知らしめるんだ。




