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96 回想:第四回戦決着!


 ダメージを全てダリが肩代わりしてくれるお陰で、相手の迎撃も気にせず俺達は進む。

 個々の能力では尖り過ぎて、刺さる部分以外は雑魚になりがちな俺達極振りも、こうして力を合わせればトップギルドにだって対抗出来る。

 その事実を体現できている今が、とても楽しい。


「っしゃあ! もう奴らは目の前だぜ!」


「やったー! いけいけー!」


 相手チームとの距離は、もう十メートルもない。

 あと数秒で乱戦に持ち込めるだろう。

 しかも、たたでさえダメージの通らないダリに対して、飛んで来る攻撃の数も減っていた。

 それは明らかにサンゾウが相手の後方からアタックをしかけているお陰だ。


「サンゾウさんに懐に入られるのを警戒してるみたいですね。今の内に突っ込みましょう!」


「了解だぜ姫さん!」


 俺達の戦法をしっかりと理解しているもずく兄弟は、サンゾウを近づけるとロクなことにならないことも骨身に染みているだろう。

 今日の試合であれだけ見せた上に、特訓でも散々ぶつけた作戦だからな。


 だから今も、物凄い速さで接近を試みるサンゾウの迎撃に火力のほとんどが注がれている。

 比率で言ったらこっちに飛んで来るのが二割程度に見える猛攻だ。

 サンゾウへの警戒がよく分かる。


「来ました!」

「よし、手筈通りにやれ!」

「≪グラビティウォール≫!」


 乱戦に持ち込みさえすれば、全ての攻撃を筋肉盾が肩代わりしてくれる俺達がダメージレースで優位に立てる。

 そう思っていた隙を突くように、密集して走っていた俺達の中心に突如黒くて半透明な壁が出現した。


「なっ」

「姫ちゃん!」

「んだ――あっ!?」

「これは――」

「わわわっ!?」


 何人かが驚いたような声を上げる。

 黒い板は幅一メートル、高さは三メートル程。俺から見たら丁度目の前くらいの位置だ。

 俺も普通に驚いた。

 けどダメージは問題にならないと安心しかけて、身体が板に弾かれるように後ろに吹き飛んだ。

 これは――!


「――ノックバックです! 一度集合を」


「今だ! 次!」

「≪ブラストボム≫!」


 相手の意図に気付いた時には遅かった。

 黒い板の効果で全員が放射状に広がった瞬間、その中心部で爆風が渦巻いた。

 風に圧されるようにして更に後ろへ下がってしまう。

 開いた距離が余計に開いて、気付けば前と後ろとの距離は十五メートル程も空いてしまっていた。

 

 しかも相手チームは同時に戦線を上げてきていたようで、既にダリやダイナとぶつかっている。

 前衛二人はともかく、レンやランコがいるのはまずい。

 俺とダリの距離が空きすぎて≪姫は臣下の為に≫と≪臣下は姫の為に≫の効果が切れてしまっている。


「皆があんなところに!」


「お姉様、いくら筋肉馬鹿でもあのままではまずいです」


「早く合流を――」


「≪グラビティウォール≫!」


「――ああもう!」


 慌てて距離を詰めようとしたところで、またしても黒い壁が出現した。

 またしても発生するノックバックに対してつい悪態をついてしまう。

 密集して突き進む俺達に対して、徹底的に俺達を分断する作戦に切り替えたようだ。

 このままだと前衛組が押し潰されてしまう。

 得意分野以外は苦手という極振りの弱点のせいで、ダリ以外は打たれ弱いからな。


「≪グラビトンショット≫!」

「≪アースマシンガン≫!」


「≪プリンセス・ボックス≫!」


 足止めのつもりだろう攻撃を、目の前に箱を出現させて防ぐ。

 これでしばらくは持ちこたえられる。


「お姫様、どうしよう!」


「サンゾウさんは――」


 慌てたアズに聞かれて、サンゾウの様子を窺う。

 サンゾウが上手く切り崩してくれればなんとかなる。

 そう期待を込めていたが、サンゾウも徹底的な迎撃やマークを受けていて近づけそうにない。


 レンとサンゾウを入れ替える手もあったが、今入れ替えるとサンゾウが回避に徹する程の攻撃を受けることになる。

 そんなの間違いなく即死だ。

 箱で援護するにしても遠すぎる。


 いっそダリ達を箱で囲って守るか?

 いや、相手に位置指定型の魔法やスキルがあれば逃げられずに食らってしまう。


 相手チームの前衛を囲うか?

 とりあえずそうしよう。


「≪プリンセス・ボックス≫!」


 モズの方を箱で囲ったが、それでも一人少なくなっただけで数的不利は変わっていない。

 レンも詠唱の長い≪空間爆縮(インプロージョン)≫を使う余裕がないせいで倒せるわけでもないし。

 まずい。ジリ貧だ。

 このままだと負ける。


「流石に、トッププレイヤーは強いですね」


「お姉様、まさか」


「……はい。決勝戦では役立たずになるかもしれませんが、このまま負けるよりはマシだと思うので」


「お姫様、無理しちゃ駄目だよ! アズがなんとかするから! リリィちゃんも、お姫様止めないとまた倒れちゃうよ!」


 何かを察したアズが、俺に縋り付いてくる。

 申し訳ないし有難いけど今は時間が惜しい。

 なんとか説得しようと口を開きかけると、その前にリリィがアズをそっと引き剥がした。


「アズ、私はお姉様のしたいようにしてもらいたいと思うの」


「でもでも、それじゃあお姫様が」


「そうね。お姉様一人に辛い思いをさせるのは本当に、心の底から嫌なのだけど、それでも、お姉様には思うまま行動して欲しいの。だからアズ、お願い。お姉様を躍らせてあげて」


 リリィはしゃがみこんで、アズと目線を合わせた上で俺を援護してくれた。

 反論しようとするアズを宥めるように、ゆっくり、優しく。

 相手プレイヤーはダリ達に殺到していて、こっちへは時々魔法が飛んで来る程度ではあるが、戦闘中なのは間違いない。


 それでもこれだけ丁寧にお願いするのは、リリィがアズへ対してそれだけ真摯に思っているからだろう。


「……分かった。アズも、お姫様の好きなようにしてほしいもん」


 それが伝わったのか、アズは頷いてくれた。


「ありがとう、アズ」


「ううん。アズも決勝戦ではもっともっと頑張るから!」


「そうね。私もアズに負けないくらい頑張るわ」


「えへへー」


 リリィは優しく微笑んで、アズの頭を撫でた。

 照れたように笑うアズがこれまた可愛い。

 ちょっと和んでいると、リリィが真剣な表情でこっちに顔を向けた。

 

「お姉様」


「はい。二人とも、ありがとうございます」


 まだ重たい足を踏み出す。重たい腕を振るう。

 遠くなりそうな思考を引き戻して、しっかりと見据える。

 歌を、紡ぐ。





 こうして俺達は、強敵である≪七海の覇者≫に勝利した。 

 けど無茶が祟って試合終了と同時に再び倒れてしまった。

 

 次はいよいよ決勝戦。

 ベッドから身体を起こすことすら満足に出来ない俺に、一体何が出来るんだろうか。

 無駄に作り込まれた天井を眺めながら、ため息を一つ吐いた。


 もう少ししたら雪崩れ込んでくるであろう皆にも無茶したことを怒られそうだし、それを考えると余計憂鬱だ。

 困ったなぁ。



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― 新着の感想 ―
[一言] そこへやって来た、イカしたナイスガイ。 スラッとしつつも、詰め込まれた筋肉は怪物級。 素晴らしく輝くニクい奴(果物) ムッキー「…………」 とても良く切れたナイスな筋肉で、あなたからの声…
[気になる点] もしかしてこの作品そろそろ終わる?
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