93 ドジっ子属性?
しばらくの待機時間を挟んで、二戦目の時間となった。
三十二のギルドの戦いをトーナメントで、一戦ずつ行うから時間は結構かかる。
それでも回を追う毎に短くなっていく筈だ。
試合会場へは転送で直接移動出来る。
光に包まれたかと思えば、一瞬で視界が切り替わった。
石畳で作られたステージ。沢山の観客。歓声。
対戦相手も丁度到着したところのようだ。
「キター!!」
「姫様―!」
「姫様可愛いいぃぃぃぃぃぃいぃぃいい!!!」
「リリィ様あぁぁぁぁ!!!」
「姫様愛してるー!」
「お前の全身超合金肉ー!」
なんかすごい聞こえてくる。
一部しか聞き取れないくらい圧がすごい。
俺に向けてだけじゃなく、他のメンバーにも歓声は向けられているようだ。
「ちぇっ、オレももっと筋肉が見えるような装備がいいぜ」
なんて、ダリがぼやいている。
ダイナがポージングしてるのを見て羨ましくなったようだ。
今回、防御特化のダリはそれなりの重装備に身を包んでいる。
腹筋は丸出しなんだが、それでは足りなかったようだ。
『それでは、カウントが0になったら開始だよー!』
モグラの声でカウントが開始する。
「火力だ、火力で圧せ!」
「ダメです、当たりません!」
「味方に当たっても良い、範囲攻撃を撃て!」
「に、忍者に、は、貼り付かれて魔法が――!!」
二戦目も危なげなく勝利した。
やっぱり俺達は強い。
というか俺のスキル群の組み合わせがチート臭い。
こんなにやりたい放題やってもいいんだろうかと少し不安になるが、運営側であるモグラも何も言わないし、周りのプレイヤーも盛り上がっている。
きっと問題ないんだろう。
何はともあれ、これでベストエイトに残った。
本戦に出場したギルドは三十二しかいないから、たった二回勝っただけでもすごいことだ。
あと三回勝てば優勝だ。
しかし。
三回戦目、それは起こった。
☆
試合が始まってしばらくは順調だった。
今まで通りに歌い踊りながらスキルを連射する。
それだけで相手の陣形は乱れ、俺のギルドメンバーが大暴れする。
「――っ!?」
問題が起きたのは中盤、相手の陣形が完全に崩れかけた辺り。
ダイナを敵陣のど真ん中に出そうとしたところで転んでしまったのだ
「お姉様!?」
「姫! 大丈夫でござるか!?」
近くにいたリリィとサンゾウが駆け寄ってくる。
サンゾウは少し離れた位置で背中を向けてた筈なのに反応が滅茶苦茶早かった。
流石、よく見てる。
「ちょっと躓いちゃいました。大丈夫ですよ」
「ほんとにござるか?」
「ええ。私は大丈夫ですから。早く戻らないと、相手チームが体勢を立て直しちゃいますよ」
「承知にござる」
相手も同じくベストエイトに残る猛者だ。
俺達の連携で崩れかかっていた戦線も、ウチのメンバーが動揺している間に立て直しつつある。
逆に、こっちは俺に気を取られてしまったのか攻めあぐねている。
要である俺が機能してないし、動きにキレが無い。
「お姉様、大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ。早く、歌わないと――」
俺はスキルを無詠唱、無ディレイ、無クールタイムで連打出来る。
それでも通常はスキル名の発声とスキル毎に設定されたモーションが必要となる。
しかし、俺はその二つすらも無視出来る。
正確には、歌っていればスキルの発声はいらないし、踊っていればモーションもとらなくていい。
それが俺の強みだ。
だから今までと同じように歌う。
「すべてが思い通りになる、わけじゃない♪」
更に踊る。
声優ユニットが完璧に再現していた、最高の振り付けだ。
必死に練習した俺は拙いながらも完璧に覚えている。
「だけど可愛ければ私が変わる 世界も変わる~♪」
そして対象を見据えながらスキルの発動を意識する。
それだけでスキルが発動し、ダリとサンゾウの位置が入れ替わる。
次はダイナとサンゾウを。その前に≪プリンセスボックス≫を挟もうか。
「――あ」
「お姉様!?」
足が崩れ落ちた。
当然ダンスも止まり、驚きの声が漏れた口からは歌の続きも出てこない。
立ち上がろうとしても、足に力が入らない。
尻もちをついたままの姿勢を維持するだけでやっとだ。
「だい、丈夫、大丈夫ですから――!」
それでも、スキルを発動しなければいけない。
震える手をダイナに翳す。
腕まで重い。まるで鉛になったみたいだ。
「ポジションチェンジ!」
タイミングは贈れたが、予定通りダイナとサンゾウが入れ替わった。
箱を挟む余裕は無さそうだ。
「ポジションチェンジ! ポジションチェンジ! ポジションチェンジ!」
モーションは動作の無いポーズ指定型なら、同じスキルを発動している限り止まっていればいい。
発声しているせいでタイミングは遅くはなるが、なんとか連打出来た。
そうしてなんとか押し切って、三回戦目も勝利した。




