91 最強可愛い姫様のギルドの最強戦術!
そうこうしている内に、俺達の試合の開始時間直前となった。
今日の最強ギルド対抗戦は、一チーム十人まで。
俺達は八人しかメンバーがいないので、全員で参加だ。
戦闘がからっきしなアズやランコだが、せっかくのイベントなんだから全員で最強を目指したい。
広いステージの上には俺達と、相手のギルドメンバーが勢揃いしている。
対戦相手は≪FirstKnights≫。通称FK。
このゲームの中でもトップクラスと名高い廃人ギルドである。
いつぞやの金策の際には大勢で狩場に乗り込んできて、実質的に占拠されてしまった。
勿論、それが悪いと言うつもりはない。
単純に、俺達の金策の邪魔になったから恨みを持っただけのことだ。
「ふふ、ついにこの時が来たわね。皆、徹底的にやるわよ」
「勿論でござる。今回は純粋に最強を決める戦いでござるからな。姫も、殺る気満々でござるよ」
「はい。最初から全力で行きますよ!」
リリィもサンゾウも、悪い顔をしている。
そう。今日は最強ギルド決定戦。最強を決める戦いだ。
俺達の持てる力を全て注ぎ込んで、廃人ギルドに挑む。
「うっしゃあ! オレの筋肉が唸るぜ! ダイナ、しっかり暴れて来いよ!」
「ええ、任せておいてください。マフラーも筋力に満ち溢れて、やる気十分です!」
鬼コンビも、いつも通りムキムキで頼もしい。
ダイナに至っては腕が四本になってて怖い。
あれは≪筋肉花≫の≪マフラー≫を肩に装着した姿で、ダイナの本気モードだ。
四つの手には光りを受けて宝石みたいに輝く大型のダンベル。
あれで殴った時の破壊力はモズク兄弟が一撃でボロ雑巾になるレベルだ。
見た目からして殺意が高い。
「姫ちゃんも遂に装備を揃えたんだから、全力でいかないと勿体ないよね。僕も頑張るよ」
「そうですね。思い切りいきますから、レンさんも火力お願いしますね」
「任せといて。僕も、あのギルドには悔しい思いをしてたから」
俺の左腕には、ブレスレットが光っている。
これこそが最後のプリンセス装備。その名も、≪プリンセスブレスレット≫だ。
昨日、本戦前最後の特訓を終えた時に現れた。
効果は、クールタイムの20%カット。
単体だとちょっと便利なだけの効果だ。
しかし、プリンセス装備はその数だけ効果を倍増させるという効果も持つ。
つまり、この五つの装備を揃えた俺は、詠唱無し、SP消費無し、ディレイ無し、クールタイム無し、移動速度倍、というチート状態となった。
これに皆の力が合わされば、怖いものなんて何もない。
「アズも頑張るからね!」
「私も出来る限り頑張りますけど、こんなに沢山使っちゃってもいいんですか?」
「大丈夫ですよ。遠慮なく使っちゃってください」
残るは、商人系の二人。アズとランコだ。
二人とも非戦闘系のクラスだが、攻撃手段が無い訳ではない。
それぞれが引いているカートの中にはアイテムが満載してあって、それを駆使すればダメージを与えることが可能だ。
勿論、それらのアイテムはギルド資産から経費で落ちる。
『それじゃあそろそろ時間かな。両チーム、準備はいい?』
「オーケーだ」
「大丈夫です」
モグラからの問いかけに、向こうのリーダーと俺が応える。
『それじゃあ、行くよ。――開始!』
「先手必勝でござる!」
開始の合図と共に、こちらのメンバーは全員が走り出す。
その中でも一際飛び出したのが、サンゾウだ。
≪敏捷≫特化は伊達じゃない。
俺はある程度の位置で立ち止まり、歌とダンスを開始する。
傍らには誰もいない。
ランコとアズは大きく遠回りするように走り、他のメンバーは直進している。
さぁ、ここからが本番だ。
「そこです!!」
「づぁっ!?」
≪ポジションチェンジ≫を使用して、サンゾウとダイナの位置を入れ替える。
初撃を躱されていた剣士が、ダンベルの一撃を顔面に食らっている。
「この!」
「おっとぉ!」
すかさずダイナとダリを入れ替える。
ダイナの背中を狙って放たれた魔法は、突然正面を向いて現れたダリの筋肉に弾かれた。
その間に敵陣のど真ん中に飛び込んでいたサンゾウと俺を入れ替える。
そしてすかさずピンクのスモークこと≪プリンセスミスト≫を噴射。
ミストに触れた相手ギルドメンバーは、明らかに動きが遅くなる。
「なんだこの霧!」
「姫だ、姫を狙え!」
「させんでござる!」
「また忍者が!?」
「どうなってんだ!!」
俺に意識が向けられた時には、再びサンゾウと位置を入れ替えていた。
サンゾウが敵のいない絶妙な位置に移動してくれていたお陰で、安心して離脱出来た。
速さを活かして再び敵陣へと飛び込んだサンゾウは、相手の前衛へと切りかかった。
攻防の中で盾持ちの戦士の足元を崩し、素早く後ろへと回り込む。
サンゾウと入れ替わるように現れたレンが近距離で魔法をぶっ放す。
「あ、えいっ!」
「うわっ!?」
相手チームが四本の腕でダンベルを振り回すダイナから距離を取ろうとした時には、ランコやアズと入れ替えた。
薬品や鉱石の塊をぶつければそれなりのダメージになる。
それらのことをしながら、俺は≪チャーミングショット≫を連打していた。
歌っていればスキル名は言わなくていいし、踊っていればモーションもいらない。
更に、MP消費もディレイもクールタイムも、何もない。
まるでマシンガンの如く、ハート型の光弾が戦場に降り注ぐ。
時間にして三分もしない内に、相手チームの殲滅が完了した。




