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90 因縁とフラグブレイカー


 受付を済ませた俺達は、控室っぽい場所へと通された。

 十人くらいが快適に過ごせるくらいのスペースがあり、中々の快適空間だ。

 参加ギルド分の部屋を用意すると結構な場所を取りそうなものだけど、そこはゲーム。

 こういうところで便利さを実感するな。


「お姉様、まだ時間もあるようですし、試合会場の方を見ておきませんか?」


「はい、いいですよ。皆さんはどうしますか?」


「オレとダイナはここで試合前の筋肉統一しとくぜ」


「そうですね。万が一に備えて、筋肉のコンディションを万全にしておきたいと思います」


 リリィの提案に快諾して、他に行く人はいないか話を振ってみる。


 ダリとダイナは筋肉統一。

 筋肉統一?

 精神統一の筋肉版か?


「拙者は姫の護衛として一緒に行くでござる」


「僕はちょっと休んでおこうかな。人前で戦うと思うとちょっと緊張しちゃって、倒れそう……」


 サンゾウは一緒に行動。

 レンは、どうやらかなり緊張しているらしい。

 ダイナとダリが忍び寄ってるから、一緒に筋肉統一して調子を取り戻してくれるといいけど。


「アズも行きたい! ランコちゃんも行こ!」


「えぇ!? わ、私もですか? 私はその、前のギルドの人とかと出会ったりとかしそうで……」


「大丈夫、アズが守ってあげるから!」


「ううん、じゃ、じゃあ私もご一緒します」


「やったー!」


 最初は留守番しようとしていたランコだったが、アズの無邪気な笑顔に負けてしまったようだ。

 分かる。

 あんな風に言われちゃうと断れないよな。

 ランコの心配もわかるが、他に大勢人もいるしそうそう会うことも無い筈だ。

 それに、人目のある場所で絡んでこないだろう。


 そう思っていた俺だったが、ランコの運を甘く見ていた。





 控室からは転送サービスで移動した。

 あっという間に試合会場だ。


 そこにはステージが一つだけ設置してあった。

 それは三十メートル四方はありそうなサイズで、とても大きい。

 ギルド対抗戦だからきっとそうなったんだろう。


 その周囲には、本戦に出場するであろうプレイヤー達がうろうろしている。

 俺達と同じように、下見に来ているようだ。


 更にその周囲をぐるっと囲うように壁があり、その向こうは客席になっている。

 野球場とか闘技場みたいな感じだな。


 転送位置だった壁際から移動しようとした時、俺達に近づいてくるやつがいた。

 サンゾウが俺達の前に出るののと、そいつが乱暴に口を開くのはほぼ同時だった。


「おうランコ、マスターやオレ達に断りもなく抜けるとはどういうことだおい!」


「ひぃ!?」


 表示されているギルド名は≪白英―白き英雄―≫。

 これは確か、ランコが所属していたギルドだ。

 この男のボルツという名前や意地の悪そうな顔にも憶えがある。

 まさか来て早々に出会うとは。


「ギルドを抜けるのに一々承認が必要とは、初耳でござるな」


「うるせぇ! オレ達は散々面倒見てやってたんだ! 勝手に抜けるなんて許される訳ねーだろうがよ!」


「そうなんですね。では運営の方へ通報してみてはどうでしょうか? 貴方の言う通りランコさんの行動に問題があったなら、すぐ対応してくれますよ」


「そういう問題じゃねぇんだよ! 関係ないやつらは引っ込んでろ! おいランコ! 今戻ってくればまだ許してやらなくもねぇぞ!」


「誰が戻るもんですか! ノルマも上納金も何も無い緩くて自由に好きなことが出来るぬるま湯のようなこのギルドから離れませんよ!」


「てめぇ!」


「いじめちゃ駄目だよ!」


「あぁん!?」


 俺やアズがたしなめ、ランコが拒絶しても尚、ボルツは引く様子を見せない。

 それどころか、どんどんとヒートアップしているように見える。

 これ以上相手をしてもロクなことにならないだろうし、サクッと通報してしまうか。

 流石にここまではトラストルも現れてはくれないだろうし。


「おいボルツ、一人で先に行かないでくれ」


「マスター!」


 そこに、一人の男がやってきた。

 黒いコートのような服に部分鎧。

 ちょっと長めの黒い髪。

 如何にもイケメンで戦闘も強くてモテます、って感じのラノベ主人公みたいな見た目だ。

 名前はノワール。

 確かどこかの国の言葉で≪黒≫だったかな。でもギルド名は白なんだよな。 


「ランコの奴がいたんで、つい」


「なるほど。あんた達、ボルツも悪い奴じゃないんだ。ただちょっと一直線なところがあるから、俺達に何も告げずにいなくなったランコを見つけて心配の余り話しかけてしまったんだ」


「そうですか、それじゃあ私達はこの辺で」


 マスターと呼ばれた男の弁明をあっさり受け入れる。

 ランコやアズは子犬のように唸っているが、下手に突っ込んでも良いこと無いしな。とにかく関わらないのが一番だ。


「ちょっと待ってもらってもいいか?」


「なんですか?」


「せっかく出会えたんだからランコと話をさせて欲しいんだ。ダメか?」


「ランコさんがいいならいいですが」


「えー……普通に嫌なんですけど」


「だそうです」


 出会った頃のランコなら流されていたかもしれない。しかし、今のランコは素直なランコ。

 素直すぎて時々リリィに怒られる程だ。

 そんなランコが話をしたがる筈がなかった。

 相当あくどいことやってたっぽいしな。


「そう言わずに、少しだけでいいんだ。なぁボルツ」


「ああ。頼むランコ、少しでいいから話を聞いてくれ……!」


「う、うぅ……」


 とはいえ、ランコは素直な良い子だ。

 ここまで熱心にお願いされると断りづらいだろう。


「え?」


「あれ?」


「ござる」


 助け舟をどう出すか、なんて考えていると、二人の姿が消えた。

 ボルツとノワールが突然、いなくなったのだ。


「さっきまでの様子を録画していたので、通報しておきました。ここの運営は仕事が早くていいですね」


 そこには、満足そうな顔のリリィの姿があった。

 流石過ぎる。



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