思惑は知れず
俺とるるセンパイ、リラバティ騎士団はアルパカ一同、もといリンカ族とリラバティ城に帰ってきた。城壁の外に逃げ込んできた他のリンカ族およそ30人が待っていて、族長のテ・レトの無事に喜んでいる。他の戦士たちも仲間のもとに走り寄りお互い再会に涙していた。
センパイはそれを横目にグレッソン大臣を呼び耳打ちする。
「あれで全員?」
「ハイ、一度は城壁内に案内しましたが民が怖がりまして……本人たちも外が見えた方が良いと」
「ひとまず着替えて一息入れてくるわ。あの若いのが族長なんだけど、少し待たせておいて。あとターニアに冷たいお茶の用意を」
「かしこまりました」
手短にそう指示するるるセンパイ。グレッソン大臣はセンパイをにまるで姫同等の応対をするが、それは染みついた臣下の性分なんだろうか。それとも異世界の姫の影武者に徹するセンパイへの敬意ゆえなのか。
(聞いてみないとわからないだろうけど、そんな間柄でもないしな)
すぐに追求したい案件でもなし、他に優先することはいくらでもある。俺はセンパイを乗せた『パステルツェン』をメインストリートへ進ませた。城内に馬車を止め姫様の部屋へ向かう途中、中庭の開けた所にゾラステアで購入した機械兵士『アルム』が並んでいる。ボッズ師以下、城の技師たちが総出で操縦席の中や間接を覗き込んでいた。俺より先に機構を把握してくれるのはありがたい。
「もう届いたんですね」
「そうみたい、あのオジサン意外に有能ね」
るるセンパイもその速配ぶりに驚いたようだったが、部屋に進むその早足は止まらない。
「すぐに触りたいでしょうけど、もう少しこっちに付き合ってね」
「……アルパカ一族、どうするんです?」
俺の質問にセンパイは少し沈黙をした。
「まずは寝泊まりする場所と食糧……一週間ぶんくらいかな。それから事実背景の調査ね。なぜ彼らが急に襲われたのか」
「リラバティに住まわせて騎士団の一隊にする、っていうのは都合がいいですかね?」
「草原の一族のプライドは傷つけない方がいいって言うわよ、漣太郎くん」
少しだけ、俺の浅薄さをたしなめるようなその声に俺は反省をした。
センパイは手早くお湯で体を拭き(見ていないので本当はしっかり温泉に入ってきたのかもしれないが)簡易なドレスに着替え再び城壁外のリンカ族の所へ帰ってきた。彼らの前には白いクロスを乗せた長テーブルが置かれていて、族長の息子だというテ・レトと例の女性、そしてやや老齢と思しきリンカ族の男性がついている。下半身はアルパカなので椅子はなく立ったままだが。テーブルには六つのアイスティーが用意されていた。こちらはるるセンパイとグレッソン大臣、そして何故か俺が席につくことになった。
少し離れたところにいるリンカ族にもお茶や軽食がふるまわれているようだ。
「お待たせいたしました」
丁寧にあいさつをしお茶を勧めるセンパイ。テーブルについた老アルパカの人が深く頭を下げた。
「初めまして王女陛下。私はナ・ガドと申します。こちらが族長テ・キトの息子テ・レト、そしてその隣はシ・ノノ。此度の王女のご慈悲にはなんとお礼を申し上げたらよいか……本当にありがとうございます」
「大変な目に遭われたようですから……このような時は種族に関係なく助け合っていくのも道義でありましょう。ですが、詳しい事情は隠さずお教え願いたいものです」
「それはもう……」
ナ・ガドと名乗った老人は慎重に記憶を整理しながら話し始めた。曰く、飛面族とこのリンカ族は隣接する山脈と草原にそれぞれ暮らしているが、長年小競り合いが続いているらしい。最初のきっかけは食料が多く取れる草原に飛面族が侵入してきたのがきっかけらしいが、あまりに長く喧嘩しているためもはやその事を覚えている者も少なく、今はお互いの姿を見れば露骨に顔をしかめるような関係であるらしい。
「それでも、お互いに大軍をもって攻めあうような戦は無かったのです……先日までは」
飛面族の襲撃は本当に突然だったらしい。数日前の朝、村の外れに住んでいるリンカ族の一家に襲い掛かった飛面族はそのまま村の中心まで一気に攻め込んできた。戦いの準備もしていなかったリンカ族は反撃に移る前に半数近くが惨殺され、族長のテ・キトが戦士達を率いて壁になっている間にテ・レトが戦えない者達を中心に生き残りを連れて村を離れたのだった。
しかし飛面族の襲撃は執拗で、逃げるテ・レト達にも迫り村を出たうちの三割もその凶刃に倒れてしまったとの事らしい。
「飛面族とて、それほど数が多い一族ではないのです。しかし私たちを襲いに来たのは相当な人数でした。まだ小さい者もみかけましたから、おそらくほとんどの飛面族が一気にやってきたのではないかと」
「そこまでして……なぜなのです?」
センパイの問いにナ・ガドもテ・レトも顔を伏せ黙ってしまった。隠している様子は見受けられない、そんな理由は当の本人たちが一番知りたいのだろう。そんな時、テ・レトの隣の女性、シ・ノノが震えた声で呟いた。
「……血が」
「?」
一同の見守る前でシ・ノノは一度深い溜息を吐き、暗い顔で言葉を続けた。
「血を、求めていたようです。我々、『リンカ族の血』を」
それだけ言うとシ・ノノは両の黒い瞳から涙をこぼし始めた。小さく嗚咽する彼女を抱きしめるテ・レトを見るだけで、俺たちは何も言葉をかける事ができなかった。
「ただの勢力争いというわけでは、無いようね……」
るるセンパイの声が今まで聞いたこともないほど冷たく重いものだったせいか、俺にもその深刻さが胃に刺さりそうなくらい伝わってきた。




