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るるセンパイ窮地に立つ


 センパイが一回り以上も年上の男になびくとは思えないが、相手は異世界の王だ。女をくどくなら豪邸でも船でもくれてやるくらいの事は言うだろう。他にもどんな切り札があるかわかったもんじゃない。俺はキリキリ痛む心臓を抑えながら気配を殺して二人の姿を探した。


 「……三つとも、綺麗な満月ですな」


 オムソー王の声がした。バルコニーにいるのか。そっと暗がりから様子を伺うと、センパイとオムソー王がテラスで夜空を見上げていた。宴会場からは遠く、周りに人の気配は無い。


 「それでも、あの時の貴女の美しさには敵わないでしょうが」


 「美しかった?」


 怪訝そうなセンパイの声。


 「そりゃあ、男として魅力を感じる所もありましたが……久しぶりに心踊らされました。あのように巨大な竜に単身挑み、果敢に闘う姿には。絵物語で聞いたような英雄そのものでしたから」


 「意外に、少年の様な所もおありですのね」


 「そうかもしれないが……」


 スッ……と王がセンパイとの距離を詰めた。詰めたというよりは気が付くとそこにいた、と言わんばかりの自然さだった。武術の嗜みも無い者の動きとは思えない動きだったが、あれが大人の男の所作と言う奴なのか。


 意表を突かれて動けないセンパイの手をオムソー王が取る。


 「こうして、貴女を娶りたいと思う気持ちもある」


 「ご、御冗談を……」


 「いや」


 王の言葉には本気があった。思わず懐の銃を抜いてしまいそうなほどに。


 「大陸一、いや世界一美しく気高い御姿だった。そんな女性を伴侶に迎えることが出来るのなら男として、王としてこれ以上の栄光はありますまい」


 「……そんなに、褒められるほどでしたか?」


 「そう、貴女の世界で言う……ワルキューレのように」


 「!」「!」


 今度こそ体が硬直した。センパイも驚きで固まってしまっている。まさか別の国の王がセンパイの正体を知っているとは。


 「ど、どうして……」


 狼狽するセンパイにオムソー王が余裕ある笑みを見せる。


 「私は四年前に貴女……いや、ルルリアーノ王女を拝見した事があったが、今の貴女の様にはなられないだろうなと」


 「……地球の者と断言する事もできないのでは?」


 「わかりますよ。私とて王。何人かの“来訪者”には会った事がある。だが……」


 王は、少しセンパイから離れるとテーブルのワインをあおる様に飲んだ。


 「貴女が異邦人でも私には関係の無い事です。むしろリラバティ王女でないのなら私の妻になる事に何も障害は無い」


 恋愛経験の無い俺にもわかる。この人は本気だ。無意識に俺の手はロプノールを抜きかかっていた。しかしこんなところで撃つわけにはいかない。


 (どうする……)


 額に脂汗が滲んだ。まったく、ウヴェンドス戦でも精神的に酷く疲れたのにまた同じくらいやっかいな展開に直面するとは。


 「……身に余る光栄ですが」


 センパイはドレスの裾を抓み、小さく礼をした。


 「出自には関係無く、今の私はリラバティの再興に捧げた身でありますので……」


 「そうか」


 王はやや寂しそうに言うとグラスをテーブルに戻した。空のグラスの縁が三つの月明かりを弾いて美しくきらめいている。


 「では待とうか。貴国の再興と、本来の王女の帰還を。……これ以上口説くと、君のナイトに刺されかねないからな」


 その王の言葉と同時に後ろから肩を叩かれた。びっくりして振り向くとテステッサが意味ありげに微笑んでいる。


 (全く気付かなかった)


 目の前の二人に夢中になりすぎたせいか。俺は観念してテステッサと二人の前に出る。センパイも俺の姿に驚かない所を見ると気付いていたのか。


 「宴はお開きの様だな。僅かな時間だが、我が国での滞在を楽しんでいかれるといい。もちろん、いつでもまた来てもらっても構わないが」


 オムソー王は穏やかにそう言うとローブを翻すようにして歩き出した。テステッサも、失礼しますと礼をしてそれに付き従う。


 ぼおっと二人を見送っていると、俺の手をセンパイが握った。すっかりと血の気が引いて人形の様になってしまっている。かなり恨みがましく、センパイは俺を下から睨んできた。


 「いつまでもそんなとこに隠れていて。情けないったら。早く助けに来てよ」


 足の先までぶるぶると震えて、崩れ落ちそうになっているセンパイを、俺は遠慮がちに、そして温める様に抱きしめた。


 「すみません」


 はぁーっ、とるるセンパイは俺の耳元で長い息を吐いた。


 「……仕方ないから、このままベッドまで運んでくれたら今夜だけ許してあげる」


 「わかりました」


 そのくらいで不甲斐ない俺を許してくれるなら安いものだ。早速手を引いて部屋に帰ろうとするが、るるセンパイの足は動かない。なんだ?と思って振り返るとセンパイの顔はさっきよりも酷く青ざめて震えていた。


 「センパイ?」


 「ちょっと待って」


 センパイは急に俺の手を振りほどくとバルコニーから外に顔を出して王女にあるまじき醜態と嗚咽を晒した。


 




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