60 クラスメート
考えてみれば、一度として結衣や唯の学校での交友関係(?)やその様子を書いたこと無かったので、良い機会なので急遽書いてみました。
昼休みにユッチのいる教室でお弁当を食べるのは、入学してからずっと続いている日課だった。
元々、お父さんが亡くなったショックで色々と危ういユッチが心配で、休み時間の度にこの教室に様子を見に来たついでだったのだけど、気づくと私はこの教室の常連になっていて、部活の後輩も含めていつの間にか一年生たちからも懐かれるようになっていた。
お陰で少し人見知りがちなユッチにも話ができる友達が出来てきて、お昼休みはこうして私やユッチも含めて5~6人くらいで机をくっ付けてお弁当を食べるのが普通になっていた。
明日からは中間テストが始まるから今日の授業は午前中で終わっていて、この後は図書室で皆で勉強する予定だ。
ちょうど衣替えのシーズンで、教室の中は夏服と冬服の生徒たちが入り混じっている。まだ日中は少し暑いけど、通学時間の朝と夕方はけっこう冷えるから、私とユッチは冬服に替えていた
そういえば、今日、ユッチはお兄ちゃんや小夜子さんたちと一緒に“大事な話し合い”があるから、途中で抜けちゃうんだった。
お兄ちゃんが学校に来るのって、夏休み以来だなぁ。あの時とは違って車で来るって言ってたけど、大丈夫かな? 運転してるお兄ちゃんって、肩張りっぱなしなんだもん。
「あれー? すーちゃんと先輩のお弁当、お揃いじゃない?」
「「??」」
突然あがった後輩の1人の言葉に、ユッチは大きな目をパチパチとさせながら彼女の方を見た後、私と自分の弁当箱の中身を見た。
「あーっ !ホントだ!?」
「「っ!?」」
お弁当箱の大きさや形の違いからおかずの量や配列は違うけれど、私とユッチのお弁当に入っているものは全く一緒だ。
だって、全部ユッチが作っちゃったんだから。私も少しだけなら手伝ったけど。
「えー、何で何で?」
「そういえば、この前も一緒じゃなかった? なんか凄いコロッケ入ってなかった?」
「あった、あった! 衣の中にポテトサラダとか入ってたよね」
「えーっ、何それ!? 私が見たの肉じゃがだったよ!? すっごく手が込んでて、唯先輩も一緒だったから、よーく覚えてたんだけど」
「見て見て! このお浸しの野菜も、一緒じゃない?」
「あっ! この春巻き、よく見たらモヤシとスパム入ってる! 絶対、冷凍食品じゃないよ!」
「先輩とすーちゃん、よく一緒にいるし仲良いけど……これ、どういうこと?」
……あれれ? これ、ちょっとマズくない?
ユッチも事態に気づいたのか、助けを求めるようにオロオロと私の方を見ている。
言えない。まだ、言えない。ユッチがお兄ちゃんと結婚するから、嫁入り準備とか含めて私の家に住んでるなんて……。
えーと……そう。ユッチは頻繁にお泊りに来てるだけ! お泊りに来てるだけ、ってことにしないと!
「あははー……、実はね、ユッチにお料理教えてもらってるん……だ。教えてもらったとおりにしたら、こ、ここ、このくらい余裕だよ!」
「えーっ? 教えてもらってるとして、ここまで似ます?」
「い、一緒に作ったから! 当然だよ! ユッチ、よく家にお泊りに来るんだよ! ね?」
ユッチに話を振ると、皆の視線がユッチに集中してしまった。突然、全員の視線が向いたせいで驚いたらしく、小さな肩が一瞬だけ跳ねた。……ごめん、ユッチ。
「須藤ちゃんとお泊りかぁ。良いなぁ~」
「ひゃっああ!?」
「あっ!」
皆の視線に怯んでいたユッチの背後から、誰かがユッチに抱きついた。驚いて可愛い悲鳴をあげるユッチの頭の上には、フヨフヨとした短い癖毛の目立つ見慣れた顔が乗っている。
その場にいた全員の視線が、彼女に向いた。
「「吉野先輩!」」
「うーん……やっぱり良い匂い。それに夏セーラーも良いけど、冬服も萌えるわぁ」
「こーらー! 変態アッキー、離れろぉ!」
私の部活仲間で同級生の吉野 晶、通称:アッキーがユッチの長い髪に鼻を埋めながらクンクンしているのを見て、私は大慌てで椅子から立ち上がり、ユッチの背中とアッキーの胸の間に割り込もうとしたけど……アッキーは砲丸投げの選手だから、とにかく力が強くて離れない。
それでも、背が高いから椅子に座っている小さなユッチの体を抱きしめるには屈むわけで、私は何とか下から潜り込んで隙間を空けようともがいてみた。
夏休みが終わったあたりから、最後の大会も終わって暇を持て余していたところでアッキーは私と仲の良いユッチに興味を持ったのか、お昼休みはたまに私とユッチたちの昼食に混ざってくる。今日は別のグループと一緒だと思っていた。
背が高くてカッコいいし、スタイルも良いし、女の子たちからの人気が高い。それでもって、一時期「ソッチの趣味がある」とか噂されて、困ったことに本人が悪乗りして“そういう振る舞い”をしているうちに目覚めたのか、可愛い女の子を見るとスキンシップをとりたがるようになった……らしい。一応、他校に彼氏がいるらしいけど、女の子は別腹だとか。
悪乗りはアッキーだけじゃなくて、彼女にあこがれる女の子たちにも伝染して……たまに際どいシーンを見たこともある。
「うーん……これはまさに花束。あっ……唯の髪も須藤ちゃんと同じ匂いがする」
「わっ! ちょっと!! くすぐったいよ!!」
一瞬、アッキーの手の力が緩んだ気がして何とか2人の間に割り込む事が出来たと思ったら、彼女の長い腕は離れることなくまた力が強くなって、私とユッチを纏めて抱きしめるような形になっていた。私の首筋あたりを彼女の鼻息が何度もかかってくる。そして柔らかい……コレ、前より大きくなってない?
「うふふ……ご馳走様」
しばらくして満足したのかアッキーは私とユッチを開放すると、どこからともなく椅子を引っ張ってきて私たちの輪に混ざると、両隣の後輩の髪を当たり前のように弄くりながらとんでもないことを提案してきた。
「よーし、後輩諸君! テスト前日ということで、皆で勉強会も兼ねて唯の家に泊まろうよ。参加する人、挙手!」
「ちょっと待ったああああぁぁぁっ!!」
結局、アッキーの強引な押しに私とユッチは負けて、彼女と後輩が1人、今日は泊まりに来ることになってしまった。
お兄ちゃん、ごめんなさい。……どうしよう?
結衣さん、クラスでは基本的に大人しく物静か(と評価される無口で人見知り)な女の子です。
そして、唯の友人・アッキーによって白瀬家での突然のお泊まり会が決定!?
トラブルの予感??
注※
この話は急遽書いたので、場合によっては後日、大幅に修正するかもです。
それはさておき、
次回は裕一が須藤家母娘と共に、学校側に報告と、それに伴う交渉に入ります。
ただ、いつ更新できるやら? 大筋は書けたものの、修正を繰り返しております。
次話の更新は今月中を目標とするも、今ある気力は躁鬱状態によるものの可能性があるので、どうなることやら?
気長に待っていただけますと幸いです。




