表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/65

53 兄弟

 いやはや、お久しぶりです。


 弟君、初登場になります。

 唯のお陰もあって、俺が未成年者である結衣と“結婚”すること自体は容易だった。

 ただしそれはあと約2ヶ月(正確にはもう1ヵ月半程度なんだけど)経過して、彼女が16歳になればの話である。

 俺の頭を悩ませているのは、婚約して結婚するまでの約2ヶ月間の“交際”についてである。


 いかに婚約しているとはいえ、婚姻届を出して受理されるまで結衣はまだ未成年だ。

 世間一般の恋人たちがやっているようなことを、おいそれとはできない。


 否、別にエロいことをしたいとかそういうのではなく、世間一般の恋人たちがやっているような行為を未成年者にするにはリスクが高いのだ。

 たとえば、同意のないキスは暴行罪に問われる。肌に触れるにしても胸とか尻とかは論外だが、女性によっては触れることすらセクハラ扱いにする。触れさせることすらアウトだったりする。そして、警察・司法機関は相手が未成年者であるならば合意の有無は問わず、通報を受けたら即行動する。

 何が言いたいかといえば、俺がどのように結衣に接していくか次第で、事情を知らない第3者からの通報により“ロリコン性犯罪者”にされかねないのである。

 そして俺の知識が確かならば、相手が未成年者の場合だと性的な行為は結婚前提の交際だろうが法律上“合意があっても罪に問う事が出来た”はずだ。


 なら、“健全な交際”をすれば良いじゃないか? そう思うかもしれない。


 じゃあ聞くけど、“健全な交際”の中で行われる“健全な触れ合い”ってどこまでなんだ?

 健全な交際やってるカップルでも、キスくらいするだろ? スキンシップで肌には触れるだろ? 本人たちにとっては健全でも、周りから見れば“性的な如何わしい行為”だったなんてよくある話だ。

 結局、この交際の健全性の是非は第3者のインスピレーションに任されるわけで、まったくもって線引きが曖昧なために、時々俺は怖くなって結衣に触れることができなくなる。結衣から触れてくるのも怖くなる。

 せいぜいを手を握ってやるか、髪に触れてやるくらいしかできない。彼女から抱きついてくるのは構わないが、俺から抱き締めるのはやっぱり人目が気になって仕方がない。そして毎晩彼女に添い寝されてるなんて世間に知れようものなら間違いなくアウトだろう。


 だからと言って、せっかく付き合い始めたのにこれでは……これから夫婦になっていこうという男女の仲を考えれば、この曖昧な線引きによる緊張は色々とマズイ気がする。家の中なら人目を気にすることもないだろうけど、そんなノリのままで2人で外に出掛けるのは危ないだろう。

 困ったことに結衣は時々人目を気にせず甘えてくるし、手を繋いでお出掛けしたい(つまりデートですよね?)という強い要望があった。


 せめて彼女が今16歳だったなら、すぐにでも婚姻届を提出して“成人させて”この問題を排除できるのだが……。


 多くの場合こうした問題では家族の理解の有無が問われる。未成年者との交際で破滅した成人男性を起訴したのは、だいたいお相手の家族(保護者)である。だが、これについては唯の根回しですでに解決している。

 俺の家族も結衣の家族もこの結婚には賛成している。婚約した男女が交際して触れ合うことに、いちいち野暮なことは言うまい。

 結衣との結婚を決意した翌日に、俺の方から結衣の母親への挨拶は済ませてある。

「はじめまして」と挨拶したのに「お久しぶりね」と言われて色々な意味でビビったのは、また別のお話ということで……。


 それでも万全を期すためにも、関係者以外の第3者の目は何とかしておきたいところだ。

 両家公認の関係であるとしても、その事実を知らない第3者にいかに誤解なく説明できるかが問題なのだ。疑われただけで通報される危険もある。

 そこで、俺と結衣の婚約と交際を世間に公表する必要がある。ただ公表するだけでなく、世間に“公認”してもらう必要がある。


 とりあえず第1歩として、結衣の通う学校に認めてもらう必要があるのだが……学校側にしてみたら面倒だし厄介だろうなぁ。民法上の理由から生徒が在学中に結婚するという事態を想定していないわけではないだろうが、問題なのは学校として結婚前の“交際”を公認できるかどうかだ。

 生活苦から身売り同然の求婚で始まって、身請け同然の婚約……成り行きを聞いてそんな風に見られたら、道徳的な立場から学校側の公認は難しいのではないか? あまり前例にはしたくない公認ではなかろうか? 学校としては聞かなかったことにするから、結婚するまで秘密にして欲しい……そんな風に突っぱねられそうだ。

 せめて家同士で古くからの付き合いで、知らず知らずのうちに交際に至り、愛情が育まれ、この度は婚約と相成りました……みたいなラブストーリーでもあれば認めてくれるだろうが、昨日今日交際が始まったようなカップルにそんなもんはない。

 とにかく2人の交際は真剣なもので、それが客観的に見て道義的に良しと見える“証拠”が必要だった。

 そして学校側の責任者がきちんと俺たちの話を聞いてくれる話の出来る相手……否、こちらに心象良く“話の通じる相手”であるか否かが問題だった。


 どうしたものかと悩んでいれば、意外なところで解決の糸口が見つかった。


 それは俺が仕事の都合で、弟・正志のいる大学を訪ねたときのことだった。



 ◇ ◇ ◇ ◇



「いや、兄さん……それは考えすぎじゃない? 別に僕も美緒さんも、そんなこと気にしなかったけどなぁ。堂々としてれば案外周りの人はそこまで見咎めないし、詮索もされないもんだよ」

「いや、でも……万一ってこともあるじゃん」

「僕も2回目のデートで美緒さんにいきなりラブホテルに連れ込まれたけど、美緒さん堂々としてたよ」

「まぁ、あの(ひと)ならな…………って、マジかよ!?」


 清潔感を窺わせる白いシャツに、一目でよく手入れがされているとわかるサラサラした栗色の髪と、どこか気弱そうな垂れ目と柔らかな笑みが印象的な弟は、どことなく品のある優雅な手つきで紅茶の入ったカップに口を付けたかと思えばサラリととんでもない過去を暴露した。

 気だるげな目つきと「面倒臭い」が口癖で、ピョコピョコと寝癖のついた頭に制服をだらしなく着崩していてパッと見で怠惰な印象が強く、楽しいこと以外は状況が切羽詰まって追い込まれない限り頑張ることのないような性格だった高校生は、美緒との出会いと英才教育(調教)のおかげで今となっては大きく様変わりして別人になっている。

 将来は適当にサラリーマンでもやるよ、なんて面倒臭そうに言ってた弟が今では医学部で学ぶ学生とは……。人生って出会う人間で変るんだな、という良いサンプルだ。

 大学の敷地内にある喫茶店で俺は久々(半年ぶりくらいか?)に弟と再会して、結衣と結婚することになった経緯と現在の悩みを打ち明けていた。


 既に過去のことになったとはいえ、美緒は当時18歳の俺の弟と交際を始めていて、勉強しているはずの弟の部屋に入ると情事の真っ最中だった……なんてこともあったなぁ。あのあとでさすがにマズイと思って注意したけど、美緒は「私の何が悪いの?」と実に堂々としていた。さらに俺を“覗き魔”扱いしてきたくらいだ。にしても、それほど早期のうちからそんな関係だったなんて……。

 そうでなくても、2人が外でデートしてる姿をたまたま見かけたことあったけど、目を覆いたくなるような貪るようなキスしてたの見たときは目眩がした。誰も咎める者がいないのが不思議でならなかった。

 俺と結衣、美緒と弟・正志……同じ未成年者との交際なのに、なんで男女で立場違うと心象とかでこう差がつくかなぁ? 不公平じゃね? まぁ、俺も唯がもしも知らない大人と付き合ってたら複雑な気分になるけどさ……。

 ロリコンは悪だもんなぁ……。でも、ショタコンは良いんかな? 否、18歳の男子高校生はショタには該当せんだろうけどさ。

 美緒が何かしら対策をとっていたのか参考にしたかったけど、これじゃヒントにもならんな……。


「てゆうか、兄さんはその“結衣さん”とちゃんと婚約したんでしょ? 世間の目や成り行きがどうとか言ってないで、結婚に向けてやるべきことをこなしておけば学校だって納得してくれるんじゃない? 婚約指輪は? 結納はいつやるの? 結婚式の予定とか手配は? 提出はまだできないにしても、婚姻の証人を書く欄だったかに両家代表の署名捺印された婚姻届を突きつけて、きちんと話したら、学校だって真剣な交際だって認めてくれるんじゃないかな? もちろん、お相手は未成年者なんだから、ちゃんと結婚するまではエロいことは一切無しで兄さんの考える“健全な交際”に努めるべきだろうけどさ」


 婚約指輪は急いだ方が良いと思って先日すぐに宝飾店に相談したが、最低3週間は待って欲しいという話になってしまっている。結衣の指が一般よりも細いようで、既製品でも在庫が限られているようだ。こればっかりは結衣と一緒に出かけるしかなくて、婚約指輪の相談をする美少女(未成年者)と残念男子の図は店員たちや他の客の目を色々な意味で引いてしまって居心地が悪くて仕方がなかった。ついでに結婚指輪も頼んでおいた。

 結納のような形式的なところは、殆ど両親に任せている。特に母親が張り切っていて、結衣の家族の所に頻繁に通ってはあれこれと打ち合わせに奔走している。

 結婚式のことは結衣や実家の女性陣に任せている。基本、こういうのは女の子のためのものだから、結衣が望む通りにしたいと思っている。断じて“センスのない残念男子の丸投げ”ではない。式場バイトの経験もある聡子をアドバイザーにして某情報誌を広げた妹たちが結衣を囲み、実家は毎日のように女子会が催されていて賑やかだ。

 婚姻届については結衣と唯に急かされて準備済みだ。彼女の母親の捺印も既にあるので、後は提出するだけの状態でファイルに保管されている。

 一方で俺は何をしているかといえば、そうやって計画を整えてくれる家族や婚約者のために、その計画や要望に沿って仕事の合間を見ながら準備や調整に奔走している。

 さらに、ここで弟と話しているような不安要素、さらにまだ学生である結衣の今後に配慮した人生設計や生活基盤をいかにするか……といった現実的な問題の対策に当たっている。

 ちなみに言うと、そうした配慮や対策を兼ねて数日前から俺は結衣と実家で過ごしている。

 俺の自宅であるアパートから彼女が学校に通えないわけではないが、電車かバスを利用した通学はダイヤの都合を見ると何かと不便が伺えたためだ。俺の実家であれば自転車通学も可能だし、結衣も彼女の実家と好きな時に行き来できて便利だ。一方で俺も俺の家族や結衣の家族との調整もしやすくなった。なにより俺のアパートでは大家が一部屋に二個世帯以上が居住する同棲やルームシェアを嫌っているうえに、独身男の部屋に女子高生が出入りしてる姿から俺は勿論のこと結衣までがいらぬ誤解を避けるためでもあった。それに実家なら唯がいるので親しい先輩の家でのお泊まりという体裁も保てるし、上手くいけば家同士の付き合いに見せることができて周囲への心象も良い。両親も妹たちも結衣には好意的だ。

 ただこうして考えると、結衣の進路如何によって新居をどうするかは悩みどころだ。彼女は進学する気はないと言っているが高校生活はまだ2年以上ある。新居をどこにするかは諸々の都合を精査して考えねばなるまい。


 そうした事情を話すと、弟は「ふぬぅ」と唸りながら顎に手を当てて何かを考えていたかと思うと、考えが纏まったのか柔らかく笑いながら口を開いた。

「うん。それだけ準備が進んでるなら大丈夫じゃない。その婚姻届を“証拠”にして校長と結衣さんの担任に直接事情話せば話は通るんじゃないかな。できれば彼女には婚約指輪をはめてもらった方がグッと印象が良いけど、3週間も待つのは兄さん的には危険なんだよね? とりあえず、そこまで話進めてる間柄だって分かれば学校だって認めてくれると思うよ。てゆうか……ドラマに出てくるような悪そうな大金持ちの遊び人でもない限り、ここまで徹底してたら交際の真剣さは十分伝わると思うよ」

「そんなもんかなぁ……」

「最悪、通報されたとして警察まで連れてかれても、彼女のお母さんが起訴しなきゃ刑務所までいくことはないよ。兄さんの信用とかも大事かもしれないけど、いざとなったら美緒さんみたいに開き直るくらいの覚悟で良いんじゃない?」

「ま、それは最終手段だけどな」

 弟の答えに、俺は内心ホッと胸をなでおろした。何だかんだ悩みつつも、実を言えば俺も弟と同じ考えをしていたのだが、俺一人の楽観的な考えのような気がして自信がなかったのだ。

 しかし、問題はまだある。

「ああ、でも、学校側には“話が通じる”のかな? 理解はしてくれても、認めてくれるかは別問題じゃないかな……あっちも責任とかあるだろうし」

「それは大丈夫だよ」

 俺の問いに、弟は特に考える素振りを見せることなく即答した。自信満々に小さく笑いながらカップにまた口をつけると、

「その結衣さんの通ってる学校は兄さんと僕の母校でしょ? てことは、今の校長は“白石先生”だから少なくとも話が出来る相手だよ」

そう言って、どこかで聞いたような名前を口にした。

(え? ちょっと待てよ。白石先生って……!!?)

「あの人、校長になったの!?」

「うん。去年になってからね。ああ、そうそう! 兄さんの後輩の牧野先輩、今は生物教師やってるよ。芝崎先輩は情報科目の非常勤やってるってさ」

 またまた俺にとって懐かしい名前が出てくる。

 白石先生は俺の高校時代の担任教師で部活の顧問だった人だ。俺が高校時代の時から腰痛持ちで長く仕事は出来ないと言っていたので、そろそろ歳も歳だからてっきり退職したものだと思っていた。

 牧野と芝崎は部活の後輩で、悪い奴ではないのだが俺の頭を散々悩ませた“優秀なる問題児”だ。卒業してからなかなか会うことがなかったが、まさか教師になってそんなに身近にいたとは……。


「なんとかなりそうじゃない?」


 小首を傾げながら笑顔でそう同意を求めてくる弟の姿に、俺はようやく光明が見えた気がした。



 ◆ ◆ ◆ ◆



「いろいろ相談にのってくれて、ありがとな。ああ、この話は美緒さんにはまだ内緒にな」

「うん。僕も近々実家に帰るよ。兄さんは結衣さんとお幸せにね」


 兄さんに婚約者ができたこと、その女の子・結衣さんの話には随分と驚かされた。

 いや、それよりも……まさか妹が、僕と同じことをずっと前から考えてたなんて。


 高校3年の秋の始まるころ、面倒だけど始めた僕の受験勉強を兄さんは見てくれていた。

 僕は別に、受かるなら大学なんてどこでもよかった。医学部なんて、それこそあり得なかった。ただ適当に4年間過ごして、どこか適当な企業に就職、駄目なら聡子姉さんみたいにバイトでもしてればいいと思っていた。

 そんな時に兄さんが僕のために、年上で背の高い巨乳のちょっと怖い美人家庭教師・美緒さんを連れてきたもんだから、実家は一時騒然となった。当時、美緒さんは兄さんの直属の上司だったらしい。

 最初は兄さんにカノジョが出来たのだろうと母さんは喜んでいた。僕は2人ともまだ付き合っていないけどそのうちくっ付くだろう思っていた。だって美緒さん、兄さんを見る目が違うもん。

 唯には悪いけど、きっと明日か明後日中に兄さんは食われるな……なんてゲスな想像をしてしまったわけだけど、そんな事が起きてる気配がいつまで経っても兄さんや美緒さんにもなくて、気がつくと美緒さんがジーッこちらを舐めるように見ていて……。

 美緒さんの家庭教師はスパルタで、何度泣かされたことか……でもお陰で、僕の成績はグングン上がっていった。美緒さんの教育は徹底した飴と鞭で、ちゃんと成果を挙げればご褒美も用意されていた。

 テストの結果が出ると美緒さんは見るからに高級そうな車に乗って学校まで迎えに来て、混乱している僕を強引に連れ去ってしまった。父さんや母さん、それに兄さんにも内緒だったけど、僕はその時“経験”してしまったわけで……すごい罪悪感があった。だってこの時、僕の中では美緒さんが兄さんのカノジョだって思ってたわけで……後で別に付き合ってもなかったと知ってホッとした。


『う~ん……最初はお兄さんが欲しかったんだけど、やっぱりやめたの。マサ君の方が可愛げがあるし』


 それから僕は美緒さんと付き合い始めた。

 だけど僕はまだ子供だったわけで、こんな交際は続かないだろうと思ってた訳だけど……美緒さんと別れるのは嫌だった。


『だったら、一流の男になりなさい。マサ君を最高の男にしてあげるから、私のところに来なさい』


 こうして僕は医学部に合格して、美緒さんの期待に答えようと日々勉強に明け暮れている。大学の勉強だけでなく、美緒さんの言う“一流”に近づけるように彼女の教育の下、服装や立ち振る舞いにも気を使っている。ちゃんとそれが出来ていると美緒さんは褒めてくれる訳だけど、出来ていないと……うん、ヤバいね。


 でも最近になって思ったんだけど、もし僕が美緒さんと付き合わなかったら……兄さんは美緒さんと結婚して今頃寂しい思いはしなかったんじゃないかな? あんな風に、恋愛や結婚に卑屈になることもなかったんじゃないかな?

 そう考えると、またあの時のような罪悪感が戻ってきて……在学中に兄さんのカノジョを探してみようと思った。

 実家の経済的都合から退学を考えている後輩の女の子が一人見つかって、家事は下手らしいけど小柄で可愛らしくてかなり真面目な性格だし、兄さんのように慎んだ生活に馴染んでるような娘だった。

 なんとか彼女と知り合いになって、僕は彼女に兄さんを勧めてみた。


『僕の兄さんと結婚してみたらどうかな? 真面目で学業にはとても理解ある人だから、学費出してもらって、そのまま一生養ってもらうと良いよ。君だったら兄さんも気に入ってくれると思うし、どうかな? 会うだけでも会ってみない?』


 我ながら、常識外れでトンデモナイ提案だったと今になって思う。平たく言えば、金目当てで兄さんと結婚しろ、だもんな……。

 その時の彼女の答えはノーだったけど、僕にはこのままだと彼女は今年で大学を辞めざる得なくなるという確信があった。遠からず、彼女は僕に相談に来るだろう。

 彼女には夢があって、その実現のために受験戦争を勝ち上ってこの大学に合格して、夢の実現に向けてせっかく軌道に乗り始めたばかりなのに、こんなところで諦めたくないという思いがあるはずだ。

 だから僕は美緒さんにも協力を仰ぎ、兄さんに彼女を紹介しようと準備を進めていた。美緒さんを通じて、さりげなく彼女の存在を兄さんにチラつかせておいた。

 兄さんの仕事の予定は美緒さんが概ね把握しているし、彼女がその気になれば兄さんの都合の良い日を見て紹介するだけだ。


 悲しいかな……彼女が僕に頭を下げてきたのはつい先日だった。その間に兄さんには、婚約者ができてしまっていた。


 とんでもない誤算だ。

(あ~あ……この落とし前、どうつけようか?)

 本当なら今日、彼女を紹介するつもりだった。

 幸い彼女の都合が合わなくて、何も知らない彼女を既に婚約者のいる兄さんと会わせずにすんだ。

 とりあえず、まずは彼女に事情を話して謝らなければいけないな……一悶着ありそうで、なんだか気が重くなる。


「面倒臭いなぁ……あ」


 自然と溜息交じりに漏れた言葉に、僕は慌てて口元を押さえた。

 この悪い口癖は、美緒さんからみっともないと言われて止められている。しばらく呟いたこともなかったのに……まいったね。




 とりあえず兄さん、おめでとう。……お幸せにね。

 大人と子供が交際する場合、どちらが男でどちらが女かでなんか印象変わりません? 男のルックス次第でも心象全然違ってくる気がしません? そんな時、第3者は2人をどのように捉えるだろう?


“家事がちょっと苦手な清楚可憐な美人さん”を用意していたのは、実は弟の正志君でした。しかも、妹・唯とよく似た手段です。


 さて、次回は少し2人をイチャイチャさせたいのですが……これが思った以上に難航しております。

 ある程度健全でこっ恥ずかしい触れ合い……にする予定ですが、難しいなぁ。

 過度な期待は禁物です。


 次回更新はいつになるか未定です。早いのか、遅いのか……私のリアル次第になってます。

 これからも本作をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ