92話 テストの順位が出る前は皆ドキドキするだろう
春人はいつもどおり学校に登校する。だが春人が周りを気にし過ぎているのか話し声が気になる。
(どうも落ち着かないな)
“テスト”やら“順位”といった言葉をよく聞く気がする。だがそれも無理もないかもしれない。
(いよいよ今日が発表か……)
テストは全て返却された。採点ミスなどの処理も終わり今日は学年順位が発表される日だ。
学生にとって良くも悪くもドキドキする日だ。
春人も毎回差はあれどドキドキしているが今回はまた違う緊張感がある。
(この結果によって北浜との勝負が終わるか決まるんだよなあ)
春人が北浜よりも順位が高ければもちろん勝ちだが今回は特別で北浜が学年一位を逃しても春人の勝利となっている。一見春人の有利な勝負に見えるが――。
(今回も危なげなく一位取ってきてんだろうな)
北浜が高校に入学して一位を取り損ねたことはない。一見有利に見えるこのルールはそのための処置だ。まともにやっては春人には勝ち目がまるでない。
この処置も北浜が生徒の前で春人に惨めな思いをさせるためだったのだが――当の本人は全く気にしてない。良くも悪くも春人自身の自己評価が低いので今更と思っている。
春人が教室につくなり少なくない生徒が視線を向ける。皆今日の勝負事を知っているのだろう。
あからさまな皆の態度に苦笑いを浮かべながら春人は席に着く。
「おはよう春人君。今日だね」
「ああ、おはよう。いよいよだよ」
「自信は、えーと……」
「まあ、今回は無理だろうな」
春人は肩を竦める。少し勉強したくらいで北浜に勝てるなんて思っていない。それでも気持ちが前向きなのは――。
「今回はってことはやっぱり諦めてはないんだね」
「ああ、何回だろうとどこかで勝てれば俺の勝ちだからな。この際かっこ悪くてもあがき続けるよ」
もう一つの体力勝負で春人が負けなければいつまでも勝負がつかないのだ。それなら春人がテストで勝つまで何回でも挑み続けるつもりだ。
そんなどこか吹っ切れている春人へ美玖が優しく微笑む。
「かっこ悪いなんてことないよ。むしろ諦めないところがかっこいい」
「あー、と……ありがと……」
面と向かってかっこいいなんて言われては流石に照れる。春人は頬を掻きながら視線を逸らす。
「美玖ー春人ー。おっはよー」
朝から元気いっぱいの香奈が春人たちに近寄ってきた。
「うん、おはよう香奈」
「おーす」
「うん。あれ?春人顔赤くない?風邪?」
「いや……少し走ってきたからそれでだろ」
「ふーん、そか」
慌てて誤魔化すが香奈は特に不振に思わなかったらしい。それよりも気になることがあるのかテンション高く香奈がしゃべり出す。
「いよいよだね春人!」
「皆やっぱり気になってんだな」
「そりゃあ当然。なんせ学年一位に春人が挑むんだから皆気になるよ」
「挑みかかってきたの向こうなんだけどな。テンション上がってるとこ悪いけど多分今日じゃ勝負つかんぞ」
「やっぱりテストで勝つのは難しい?」
「そうだな。でも美玖にも言ったけどどこかでは勝つよ」
「あはは、なら楽しみにしてる」
「ああ」
春人は薄っすらと目を細める。皆の気持ちが温かい。今日勝てないとわかってても皆次に期待してくれている。春人がどこかで勝つと信じている。
美玖たちと何気ない会話をしていると担任の倉橋先生が教室に入ってきた。騒がしかった教室も次第に静かになる。
(一旦順位のことは忘れよう)
今からいくら考えても仕方がない。放課後のテストの順位発表まで春人は普段通りに学校生活を送ることにした。




