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161話 王様ゲームは定番だよね

「ほんとに。ほんとぉーにないわ、お前」


「ちゃんと誤ったでしょ?妹の失敗くらい笑って許してよ、兄さん」


 眉根を寄せ琉莉へ辟易とした視線を送る。

 春人の両腕はいまだに手錠で拘束されたままだ。その気になれば鎖を引きちぎれそうだがそれは最後の手段だ。とりあえずこのまま皆と並び椅子に腰かけている。


「さて……では始めようか。といってもやることなんてお菓子食べながらしゃべるくらいだがな」


「まあ、仮装してるんで雰囲気は十分ハロウィンっぽいですし、いいんじゃないですか?」


 テーブルに並ぶ大量のお菓子に仮装した面々。ハロウィンらしい非現実感があってこれはこれで楽しいと思える。


「私ハロウィンらしいこと考えてきたぁ」


「え、くるみ先輩が……?大丈夫です?それ」


「んー?」


 香奈が訝しむようにくるみを見るが本人はわからないといった様子で首を傾げている。おそらく体育祭でのことを心配しているのだろう。くるみの案でろくな目にあっていない香奈からしたら。


「大丈夫だよぉ。じゃ~ん」


 くるみの手に六本の棒アイスの棒くらいのものが握られている。


「これは?」


「王様ゲームだよぉ。やってみたかったんだぁ」


「王様ゲームって……まあ、定番かもですね」


「でしょぉ、ねぇやろうよみんなぁ」


 棒を握った右手をぶんぶん振る。駄々をこねる子供のようなくるみに何とも空気が和む。ただあまり激しい動きはしないでほしい。布面積がただでさえ少ないのだからちょっとの拍子にはみ出す可能性もある……どことは言わないが……。


「いいんじゃないか?私も少し気になることだしな」


「まあ、あたしもやってみたいのでいいですけど。皆もいいの?」


 春人たちも特に断る理由もなかったので頷くなどしてそれぞれ了承する。


「うん、ならほらほらぁ。みんな棒取ってぇ」


 棒を握った右手を皆の前に突き出す。それぞれ棒を引いて書かれた文字を確認する。


「あ、最初はあたしか」


 香奈の棒には“王”とはっきり書かれている。最初の王様が決まった。


「う~ん、そうだな~……あ、じゃあはい!二番の人、ゲーム終わるまで語尾に“にゃ~”ってつけて!」


 腕を組んで命令を考えていた香奈が元気に声を上げる。今回餌食となったのは――。


「私だ……」


 琉莉が自分が引いた棒を見下ろす。


「琉莉琉莉~違うでしょ?ちゃんと“にゃ~”ってつけないと。ほら~」


 香奈がにやにやと楽し気に笑顔を作る。悪い笑みだ。いつものように調子に乗り始めている。


「う……にゃ、にゃ~」


 声だけじゃなく咄嗟に手まで猫の手を作る。それを見て美玖の目が輝く。


「琉莉ちゃん可愛い~!よしよ~し」


 何かが美玖の心に突き刺さったのか急に琉莉を可愛がり始めた。


「うん、琉莉ちゃん可愛いねぇ。私もやるぅ」


 そこにくるみも参加し二人して琉莉の頭を撫で始める。


「わあー、なんか始まっちゃった」


「うむ、確かに琉莉のにゃ~は破壊力があったな。私も撫でてあげたい気持ちが湧きだしている」


「いいですよ会長。あいつも多分喜んで受け入れますから」


「いや、それでは先が進まんからな二人の気が済んだら再開しよう」


 葵は少し残念そうな表情を作っている。

 されるがままの琉莉は満更でもないのかとても幸せそうな表情を作っている。


 それぞれ違う表情を見たところで第二回戦が始まった。


「ほいっ……あー、さすがに違うか」


 香奈が棒に書いてある文字を見て落胆する。


「二連続は勘弁してほしいな。お前の命令俺が当たったかと思うと笑えないんだよ」


「春人が語尾ににや~とかウケるね。ぷふっ」


 想像しただけで面白いのか香奈は口許を押さえて吹き出す。


「私も違うし誰が王様だろう?」


「今回は私のようだな」


 棒を皆に見せるように掲げる葵。今回の王様は葵のようだ。


「あおちゃんが王様かぁ。似合ってるねぇ」


「似合っているかはわからんが礼は言っておこうか。それで命令だが…………そうだな、四番にこのお菓子でも食べてもらおうか」


 葵はテーブルの上に置かれたお菓子を一つ手に取る。パッケージ的に海外品のように見える。


「四番って俺か……。なんですそれ?」


「それは食べてからのお楽しみだ」


 薄く笑みを浮かべる葵に春人は少し嫌な予感を感じていた。


「食べるのすごく怖いんですが」


「心配するな。ちゃんと食べ物だからな」


 葵から受け取ったお菓子を目を細め観察する。英語なのだろうか。何が書いてあるかよくわからない。しばらく逡巡していたが春人を意を決して封を開ける。


 中から出てきたのは球体の押せば少し凹むガムのような触感のお菓子だ。

 まじまじとお菓子を見てから春人は口に放り込んだ。


「んー、ガムですねこれ。なんの味かはわからないですけど甘みがあって普通に美味し――ッ!?」


 何度か咀嚼していた春人の目が見開かれる。春人の急な変化に葵以外の者がどうしたのかと瞠目している。


「すっ――すっぱっ!めちゃくちゃ酸っぱいぞこれ!」


「かなり酸味があるお菓子と書いてあったから興味本位で買ってみたが……こういった場ではかなり盛り上がるなこれは」


 一つまた学びがあったと葵は満足気に頷いていた。


 だが春人は葵の言葉に反応する余裕もなくコップに入ったジュースを勢いよく飲み干す。


「っ……はぁー……」


 大きく吸った空気を口から吐き出す。そんな春人の様子に美玖が心配そうに声をかける。


「え、と、大丈夫?はる君」


「大丈夫ではないが……まあ、一応大丈夫だ」


 間違いなく今まで食べたもので一番酸っぱいものだった。いまだに口の中に酸味がしつこくこびりついている気がする。


「ふふふ、慌てふためく兄さん見てて面白かったよ……にゃ~」


「お前もなかなか面白い状態だぞ」


 兄妹そろって早速王様の餌食となった。


 波乱の王様ゲームはまだ始まったばかりだ。

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