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157話 ハロウィンパーティー始まります

 ハロウィンパーティー当日。春人たちは葵が住んでいるマンションの最寄り駅に集合していた。


「全員揃ったな」


 春人は確認のため周囲を見渡す。美玖に香奈、琉莉が揃っていた。


「くるみ先輩は現地集合でいいんだよな?」


 一人だけくるみはすでに葵のマンションにいるらしい。


「そうだよ。たぶん当日は迷子になったり大変だろうからって昨日会長の家に泊まったらしい」


「流石だな。先輩への対応入念すぎる」


 くるみが一人で集合場所に来られるビジョンが浮かばない。絶対にどっかで迷子になる。葵もそれはわかっていたのだろう。


「そんじゃ行きますか。会長の家に」


 香奈が先陣切って歩き出す。このメンバーで葵の家を知っているのは香奈だけだ。香奈を追ってしばらく歩いているとやたらと大きな建物が目の前に現れた。


「着いたよー」


「でっけえな」


 見上げて思わず感想が口から出る。何階ぐらいあるのだろうか二十階、それ以上の階層がありそうだ。


「本当に大きいね。私こんな大きいマンション初めて入るよ」


「うん、最上階が見えない」


 美玖と琉莉も春人と同じような反応だ。見上げながらぽかーんっとしている。


「別荘あるぐらいだから金持ちなのかと思ってたけど……ふえぇー」


 語彙力が低下し始める。人間驚くと思考を停止するようだ。


「おーい何してんのー!早く入るよー!」


 三人揃って頭上を見上げていると香奈がこちらに向かって叫んでいた。

 すでにマンションのエントランスで葵に連絡を入れ終わっているのか扉も開いていた。三人揃って慌ててエントランスに駆け込む。

 エレベーターに乗り葵が住む階に到着する。


「こっちだよ」


 香奈についていくとある扉の前で足を止める。おそらくここが葵の家なのだろう。表札にも『喜多村』と書かれていた。


「ここまで来てなんだが急に緊張してきたな」


「そう?押すよ」


 春人の言葉に反応するが香奈は躊躇いなくインターホンを押す。


「押しやがったよこいつ」


 まだ心の準備ができていないというのに。

 ほんの少しの時間をおいて玄関の扉が開かれる。


「やぁ、すまないな、わざわざご足労かけて」


 顔を出した葵が皆を労うように声をかける。


「いえいえ、会長こそすみません場所を提供してもらっちゃって」


「構わないよこれくらい。さあ、中に入ってくれ」


 皆でおじゃまします、と言い靴を脱ぐ。気持ち長めに思える廊下を歩きリビングへ足を踏み入れると――。


「やぁ、みんなぁいらっしゃぁい」


「見事にだらけてますね先輩」


 最初に目に入ったのはソファの背もたれに浅くもたれ掛かっているくるみの姿だった。そこまでは結構予想通りの姿だったのだが――。


「わぁー、くるみ先輩もう仮装してる!可愛い!」


 香奈が驚いたように目と口を丸く開ける。


「本当だ。犬……かな。すごい可愛いです」


「うん、いい。似合ってる」


 皆がそれぞれの反応を示す。


 くるみは上下つなぎのフードに耳が付いた着ぐるみのような衣装を着ていた。美玖が言う通りおそらく犬をモチーフにしているのだろう。フードに描かれている動物の顔が犬っぽい。

 小柄なくるみが着るとぬいぐるみのようだ。


「あー、あれは仮装じゃないぞ。パジャマだ」


「はい?」


「彼女はさっき起きたばかりだからな。寝巻のままだよ」


 確かに言われてみればパジャマに見えなくもない。


「紛らわしいパジャマ着てますね、くるみ先輩」


「そぅ?これもふもふしてて着てるだけで布団に入ってるみたいなんだよぉ」


「いや、着心地とかはどうでもいいんですけど……もう仮装してるのかと」


「仮装用の服もちゃんとあるから心配ないよぉ」


 ひらひらと袖から出ていない腕を振る。まるで我が家のような寛ぎかたをしている。

 入って早々いろいろと呆気に取られていると葵が春人たちに呼びかける。


「いつまでも突っ立ってても仕方ないから皆それぞれ荷物を置いてくれ。好きなところに座っていいぞ」


 春人たちはとりあえず荷物を部屋の隅に並べテーブルに向かう。


「あ、もういろいろ用意されてるんですね」


 美玖がテーブルに並べられたお菓子に気づく。


「皿に並べただけだがな。皆もいろいろと持って来てくれてると思って少なめにはしてあるが」


「十分ですよ。ありがとうございます会長」


 春人も準備されたテーブルを見てお礼を口にする。マドレーヌにカヌレおしゃれな感じのお菓子が並んでいた。


「なら俺たちも持ってきたお菓子並べるか」


「そうだね。ただこれ皆結構持って来てるよね?すごい量になりそう」


 美玖は自分たちの荷物へ視線を向ける。春人と琉莉の分だけでも袋いっぱいのお菓子が詰まっている。それを全員が同じくらいの量を持ち寄っているとなると――。


「大丈夫!どんなにいっぱいあってもあたしが食べるから」


 香奈が胸を張り宣言する。


「あー、そうか香奈がいるんだった」


「そうだったね。お菓子の量なんて気にするだけ損だね」


 この胃袋ブラックホールに任せておけば何も心配など要らないだろう。

 琉莉だけなぜか絶望したような表情を作っている。そんなに自分が選んだお菓子を持って帰りたかったのか……。


 とりあえずは全員準備してきたお菓子をそれぞれ皿に並べていき、協力してパーティーの準備を始めた。

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